第145話
「アントガル殿一行をお連れしました!」
将軍は部屋に足を踏み入れると一礼し、大声で宣言した。
「うむ、入れ」
奥の玉座に座っている王が、将軍へと声をかける。将軍は後ろの蒼太たちを振り返り一度頷くと歩を進めていく。蒼太たちは、将軍に言われた通りに後についていき、止まったところで将軍とアントガルがひざまづき頭を下げる。
「ふむ、面をあげよ。そもそもひざまづかんでよいぞ、楽にせい」
王は穏やかな表情をしており、髭面のドワーフであっても性格の良さが顔に滲み出ていた。
「将軍よ、もう下がってよいぞ」
「はっ、失礼致します!」
王の言葉に将軍は一度頭を下げると赤絨毯の横に並ぶ列の中へと戻っていった。
「アントガル……良い顔になったな。前に会った時と比べたら、すっきりした顔をしておる」
「ありがとうございます。こいつのおかげで吹っ切ることができました」
将軍が移動した際に立ち上がっていたアントガルは蒼太の肩を軽くたたきながら、王へと感謝の言葉を述べた。
「ふむ、お主がアントガルの救世主と言ったところか。名をなんと申す?」
「俺はソータ。旅の冒険者だ」
王は不遜な態度の蒼太に対しても表情は変わることなく、笑顔のまま頷く。
「うむうむ、お主には礼を言おう。我が国の有望な鍛冶師を救ってくれたこと感謝する」
王は座ったままではあったが、蒼太へ深々と頭を下げた。その様子に蒼太とディーナは驚いた。それは王として決して良い態度とは言えず、素性も明らかになっていない一介の冒険者に対して、王が軽々しく頭を下げた。そんな行為は国によっては重鎮たちによって強い言葉で咎められるものであったが、並んでいる重鎮たちや兵士は全員、その様子を笑顔で見ていた。
「頭を上げてくれ、一国の王に頭を下げられたらこっちが気まずい。俺はただ自分が必要だと思ったことをしたまでだ」
蒼太は予想していなかった王の態度にやや困惑していた。
「ほっほっほ、謙遜しなくてよいのだがのう。うちの将軍を倒したというのはそちらのお嬢さんでいいのかのう?」
「はい、私はディーナリウスと申します。本日は謁見の機会を賜り、ありがとうございます。ただ、一つ訂正させて頂きますが将軍様を倒したと言うと語弊があるかと思われます。将軍様がこちらの様子を伺おうと油断していたために、その隙をつくことができたのです」
ディーナは一礼した後、ふんわりとした笑顔で王の言葉を訂正した。
「どちらも過小評価をしすぎではないかのう……なあ将軍や、どう思うかね?」
「はっ、ディーナリウス殿の実力は確かなものであるかと。先程油断、と申されましたが油断という言葉だけで片付けられる程の差ではなかったかと思います。何せ、言葉通り手も足もでませんでしたからな」
将軍は王にそう報告したが、最後にはディーナの顔を見てにやりと笑った。
「ほっほっほ、負けた当人が言うのであれば信じるに足るかもしれんな。安心せい、そこを追求するほど私はいじわるではないからな」
将軍の言葉で少し顔をしかめたディーナに王は優しい笑顔を向けた。
「それで、本題は何なんだ? 俺たちと話したいから呼んだだけなのか?」
このままディーナに矛先が向かうことを嫌った蒼太は話を戻した。
「おー、そうであったな。今回の採掘でお主らは大量の鉱石を入手したとこちらでは予想しておるが、どうじゃ?」
この質問に関してアントガルとディーナは答えるつもりはなく、蒼太へと視線を送っていた。
「どれくらいかは言えないが、ある程度の量を確保できたのは確かだ」
実際の量は、例えマジックバッグを持っていたとしても普通に持ち運びができる量ではないため、それを申告するつもりはなかった。
「ふむ、良ければだがそのうちのいくらかでも分けてもらうことはできんかの? もちろん相応の謝礼は払おう」
「……もし断ると言えば?」
蒼太は目を細めて、あえて王を試すような発言をした。
「断られたら諦めるしかあるまい、そもそもお主はこの国の人間ではない。無理強いはできんよ。一応アントガルにも頼んではみるが、そちらももちろん強制ではない」
蒼太は王の反応ではなく、周囲の反応を確認していたが、特に表情を変える者は確認できなかった。
「試すような言い方をして悪いな、全てというのは無理だが分けることは可能だ。それで、どこに出せばいい?」
対応次第では分けるつもりはなかったが、蒼太は周囲を含めてこの反応であれば分けてもいいだろうとそう考えた。
「おぉ! 分けてもらえるか!! それなら倉庫のほうに頼む。将軍、案内を頼む」
「承知しました」
蒼太の回答を聞いて王は満面の笑みになり、蒼太の気持ちが変わらないうちにと急いで将軍に案内を命じる。本来であれば案内は下の兵士や、鉱石などの在庫担当に行わせるものであったが、蒼太たちの対応に関しては既に何度かやりとりをしている将軍に一任することになっていた。
「行く前に確認だ。これで鉱石の受け渡しをしたら俺たちに対する用件は終わりということでいいのか?」
「うむ、このことに対する礼は言わせてもらうが、後は好きにしてもらって構わぬ」
蒼太の質問に王は淀みなく答えた。特に裏がある様子も見られなかった。
「お歴々の皆様には不快な態度をお見せして申し訳ありませんでした。なにぶん私は他種族なもので、どのような扱いをされるか不安に思っていたので強気に出てしまったのです。それでは失礼致します。ディーナ、アントガル行くぞ」
蒼太は態度を一変させ、大仰に王たちへと挨拶をすると、反応を待つことなく踵を返してディーナ、アントガル、そして将軍を伴って退室した。
部屋に残った者たちはその豹変に驚き、ぽかーんとして、しばらくの間は蒼太たちが出て行った扉を眺めていた。
「ソータ殿も人が悪いな。あのように皆をからかうようなことを……」
蒼太の最後の言葉が心からのものではないことは短いつきあいではあるが、将軍にもわかっていた。
「まぁ、からかうつもりじゃなかったんだけどな。あぁ言っておけば、不遜なだけのやつだった。という印象が少しでも払拭できるかと思ってな。あの王様も悪い人じゃないようだったから、多少は好印象でわかれようと思ったのさ」
「はー、あの一瞬でそんなことを考えてたのか」
アントガルは感心したような呆れたような表情になっていた。
「そんなことより、倉庫とやらに行こう。さっさと用件を片付けたい」
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