第134話
「それで、何から始める?」
蒼太も動きやすい格好になり、職人の顔になっている。
「そうだな、まずはこの中から竜鉄とあわせる金属の選定をしよう。全部の組合せができるとは言ったが、絞らないと手間を増やすだけだからな」
そう言うと、アントガルは金属を二つの箱に分けていく。
「明らかに竜鉄と見合わないものから弾いていこう」
アントガルの手は淀みなく動いていき、次々に金属は選別されていった。
「すごいな、俺だったらいちいち悩みながらわけることになるからもっと時間かかるぞ」
蒼太は作業を任せて、後ろからアントガルの作業を覗きながら素直に感動していた。
「まあ、今はこんなだけどこれまで色々な金属を扱ってきたからな」
若き日のアントガルは、夢に燃えており毎日それこそ日が昇ってから日が暮れるまで鍛冶に勤しんでいた。
「それもここまでさ、俺の刀を創り上げることができれば、それはつまりラウゴを越えたってことだ。あいつと数々の武器を作り出した俺が言うんだ、誰が言うよりも信憑性があるだろ?」
蒼太は笑顔でアントガルの肩に手を置きながら言う。
アントガルは何気なく言った蒼太の一言に身体が内から震えるのを感じる。アントガルは今まで勇者の孫というフィルタでしか見られてこなかったが、蒼太はラウゴはラウゴ、アントガルはアントガルとそれぞれを個としてとらえており、実際に二人と会っていることからその言葉には説得力があった。
「どうした?」
蒼太は手の止まったアントガルを不思議そうに見る。
「い、いや、何でもない。大丈夫だ」
内心の動揺が言葉にも表れていたが、アントガルは作業を続けることでそれを誤魔化そうとしていた。その目にはうっすらと涙が浮かんでいたが、それが零れ落ちるまで本人も気づかないままであった。
「刀の作り方は元の世界に戻った時に一応は調べてきたから、それは話しておくよ。こっちの金属と特性が違うかもしれないから一概に同じ方法でできるとは思わないがな」
「あぁ、もちろんそれは参考にさせてもらおう。むしろお願いしたいところだ。異世界の技術なんて聞けるのは俺だけだろうから、今から楽しみだ」
アントガルは先程の一瞬の盛り上がりを何とか沈静化させ、蒼太に気づかれないように涙を拭き返答する。
そうこうしている間にも金属の選別は終わりを見せる。ほとんどの金属が今回の作業では使えないものとしてわけられており、竜鉄と相性がよさそうなものは五つ程度しかなかった。
「ここまですっきりすると、何か寂しい気もするが……まぁこれだけ減ると作業が楽で助かるな」
「あぁ、だが厳選に厳選を重ねたんだ。こいつらなら竜鉄と組み合わせても耐えうるだけの力があるはずだ」
残った金属は、魔力伝導率が高いものや金属としてのレアリティが高いものがほとんどであった。
「さて、それじゃまずは刀の作り方の話から始めるか……その前に昼飯を食おう。アントガルはずっと寝てたからわからないと思うが、もう昼時だ」
そう言われてアントガルは自分自身が空腹であることに気づいた。
「確かに、は、腹減った……」
アントガルの身体から力が抜けていく。
「おいおい、そこで倒れこむなよ? ディーナが昼飯を作ってくれているはずだからダイニングに向かおう」
蒼太はうなだれるアントガルの脇を抱えながら移動を始める。
「わ、悪いな。なんか、急に力が抜けちまった」
アントガルはなんとか自分の足でも立とうとするが、膝が抜けたようになってしまいほとんど蒼太に抱えられる形になっていた。
ダイニングへ入ると、ディーナがキッチンとを行き来し食事の準備はほとんど終わっていた。
「あ、アントガルさん大丈夫ですか?」
やや顔色が悪く、蒼太に抱えられているアントガルを見てディーナは慌てて声をかける。
「あ、あぁ、ただ……」
「ただ?」
ディーナはアントガルの言葉に、首をかしげながらオウム返しする。
「腹が減った」
そこまで言うと、どさっと自分の席に腰を下ろした。
「わわわ、す、すぐに用意しますね!」
ディーナは慌てて残りの料理を並べていく。蒼太はマジックバッグから飲み物を取り出し、同じく取り出したコップへと注いでいく。
「とりあえずこれでも飲んでろ」
それは、体力回復の効果もある栄養ドリンクであり口当たりもよくやや酸味の効いたさっぱりとした味の飲み物であった。
「うまいな。なんか身体に力が入ってくるぞ、腹は減っているままなのに……」
「それも昔作ったものだ、アントガルの力が抜けたのは空腹だけじゃなく身体の疲労もあるんだろうと思ってな。そっちだけでも解決すれば多少はマシになると思ったが、予想通りになったな」
全て、というわけにはいかないがアントガルの疲労はだいぶとれて、先程までより力が入っていた。
「さて、それでは空腹のほうは私の料理で解消していきましょう!」
ドリンクを飲み終わる頃には既に昼食の準備は終わっていた。
「おぉ、今日もうまそうだ」
「ディーナの腕は一級品だな」
蒼太も空腹だったため、頂きますの挨拶をする前に既に食べ始めていた。
「ソータさん、いただきますしてから食べてください」
ディーナは少し頬を膨らませて蒼太を注意する。
「悪い悪い、腹へってるとこに美味そうなものが並んでるから思わずな。それじゃ、あらためていただきます」
「今更だが、そのいただきますってのはなんだ?」
昨日の食事でも疑問に思っていたことをアントガルは口にした。
「あー、大したことじゃないんだが俺の生まれ故郷では食事の前にそういう挨拶をしてから食べるのが普通なんだよ。それを教えたらディーナもそれを取り入れてな」
「ほほー、それは面白いな。俺も使わせてもらおう。いただきます」
ソータの真似をしてアントガルもそう言ってから手をつけていく。
「ふふっ、私も。いただきます」
アントガルの様子を見て笑顔になりながらディーナも食事を始めた。
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