第129話



 外に出た三人を待ち受けていたのは、検問所で力試しでディーナと戦った豪華な鎧の騎士とそのお供だった。


「これは……どういうことだ?」


 蒼太は不機嫌そうな声で、騎士たちを睨みつけている。将軍の地位にあるものが心配だから、だけの理由で蒼太たちを待っているとは考えづらかったため、何を企んでいるのかと疑ってかかっていた。


「いやいや、そんな怖い顔をせんでくれ。それよりも、その肩にかつがれている彼はどうしたのかね? まさか……」


 今度は反対に騎士たちが蒼太たちに疑惑の視線を送る。



「俺たちのやっていることにいちいち口出しされる覚えはないが、こいつはただ寝ているだけだ。洞窟内で寝かせておくわけにもいかないからそのまま担いで出てきたんだ」


 蒼太は面倒臭いと思いながらも、疑われたままでいるのも嫌だったので答えることにした。


「ふむ、まぁ採掘に力を使ったと考えれば、それも不思議ではないか」


 将軍は蒼太の答えを吟味しながら、納得した様子を見せた。



「それで、早くどこかでこいつを休ませたいんだが通してもらえるのか?」


「それは、もちろんじゃ。通ってもらって構わんよ。お前らもどきなさい」


 騎士たちは蒼太たちの進行方向をあける。しかし、将軍はすれ違いざまに声をかける。


「後で話は聞かせてもらうぞ」


 その声は低く、聞くもの次第では恫喝するような凄みを持っていた。


「俺に勝てたら話してやるよ」


 しかし、蒼太には効果はなく、反対に将軍が目を丸くしてしまった。そして、その意味がわかると顔を真っ赤にするが蒼太は既に騎士達の間を通り抜けた後で、今から声をあげても遅いと考え、舌打ちをするだけに留まった。



「ソータさんいいんですか、あんなこと言ったらまた腕試しなんて話になるんじゃ……」


 騎士たちと距離が離れたところで、ディーナは不安そうな顔で蒼太に声をかけた。


「まぁ、そうなったら適当に相手をするさ。それより先に刀を創り上げて、この国を出発してもいいしな。心残りがあるとすれば、図書館によれなかったことくらいか。あるのかは知らんが、この国ならではの情報を収集したかったからな」


 蒼太は楽観的に言うが、ディーナは不安な表情のままだった。戦いになれば蒼太が負けるとは思っていないが、揉め事に巻き込まれることを懸念していた。


「まぁ、何かあったらその時はその時考えればいいだろう。俺は今度はやりたいようにやるって決めてるからな」


 蒼太は時に慎重に動くことがあったが、今は疲労もあったのとアントガルを運んでいる最中に邪魔をされたこともあって、若干イライラしており今回のような対応になっていた。冷静であった場合の対応が果たして穏便なものであったかは疑問だがこれが理由であると蒼太は考えていた。



「まぁ、ソータさんがそう言うなら大丈夫、ですかね? それはさておき、アントガルさんはどうしましょうか?」


 いつまでも蒼太が担いでいたのでは、蒼太の疲労よりもアントガル自身の疲労が溜まってしまう。そしてこの先にあるのは検問所だけで、街に戻るには距離があったため、休憩スペースが思い当たらなかった。


「テントを出してもいいんだが、さっきのあいつらが追いかけてきたらテントのことも説明しなくちゃだからなあ……とりあえず、検問所までいけば休める場所がなくても魔物を気にすることなく休むことくらいはできるだろう。そこで毛皮と毛布でも出して寝かせればいいさ」


「そう、ですね」


 ディーナも色々と考えを巡らせたが、蒼太の案が現状では最善手であると判断した。



 行動を決定した二人は、それ以降は口を開かずに一直線に検問所を目指した。


 検問所へたどり着き事情を話すと、休憩小屋のベッドを貸してもらえることとなった。その判断を下したのは将軍に声をかけられていたあの衛兵だった。彼は将軍たちとは違い、すぐに状況を把握しアントガルの休憩を最優先に考えてくれた。


「さて、お話を聞かせてもらってもいいですか? 怪我といってもかすり傷程度なので、疲れて寝ているだけなのはわかっていますが。いちおう確認させてもらえると助かります」


 衛兵の物腰は柔らかく、蒼太たちも答えようという気持ちになっていた。



「うーむ、どう話したものか……」


 蒼太が腕を組み考え込んでいると、衛兵は助け舟を出す。


「そんなに難しく考えないで下さい。言える範囲で構いませんよ、言いづらい部分は伏せておいて下さい」


 衛兵は笑顔でそう促す。その笑顔には裏を感じず、また蒼太たちに良い条件だったので思い口が自然と開いていく。


「……俺たちはあの洞窟に入って、しばらく進むと広場みたいな場所にでた。そこで強力な魔物と戦うことになったんだ、それも二体。俺たちは分担してそいつらを相手にした。それぞれ怪我は負ったが、致命傷ということはなく切り抜けられた」


「なるほど、じゃあアントガルさんはそこで倒れたわけではないんですね?」


 衛兵の質問は蒼太にとって微妙なところをついていたが、表情を変えずに答える。ディーナは表情をさとられては困ると、アントガルの側についていた。



「そこで多少なり怪我をしてな、一旦休憩をした。休憩後、更に奥へ向かうとそこには鉱石と魔物がいた。その魔物たちを倒してから鉱石を採掘したんだが、俺たちには採掘の技術はなかったんでアントガルが一人で採掘を担当して、俺たちはそれをしまう役を担当した。結果アントガルは疲労困憊で倒れたのを俺たちがここへ連れてきた。これで全てだ」


 蒼太の答えを衛兵は頷きながら聞いていた。


「なるほど。それならこの状態は納得です……あとは、うちの国の将軍たちに何かされませんでしたか?」


「何かされた、というほどではないが、洞窟を出たら待ち構えていていくつか質問されたというところか。あとは、後で話を聞かせてもらうとか恫喝されたくらいだな」


 その答えを聞いて、衛兵は右手で顔を覆いうなだれた。



「全くあの人は何をやっているのか……あとで私のほうで話しておきます。あなた方の話は私の方で報告しておくので、あとはご自由にして頂いて結構です。お時間をとらせてすいませんでした」


 衛兵は頭を下げて謝罪する。このあたりにも蒼太は好感を持っていた。

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