第124話

 蒼太は黒騎士が完全に灰になったのを確認すると、ディーナたちへと振り向いた。


 ディーナとアントガルは竜に見事な初撃をくらわせることに成功していたが、それ以降は竜の反撃にあってしまい二人はところどころに怪我を負っていた。特にアントガルは炎攻撃に対抗する手段が水のマントのみであったため、顔や腕など露出している部分を火傷していた。ディーナに比べ、スピードで劣るアントガルは攻撃を避けきることができず武器で防ぐ場面が多かった。



「おい、二人ともこっちは終わったぞ」


 蒼太の声に二人はちらりとだけ視線を送るが、目の前の魔物から長時間目を離すことはできないため、それだけに留まる。


「そいつのことは頼むぞ、俺は手を出さないから二人でやってみろ」


 再度の呼びかけに、二人は蒼太を見るがその反応は正反対だった。ディーナは任されたことに信頼されていると感じ、表情を引き締める。アントガルはというと、なぜ手伝ってくれないのかと驚愕の表情になった。



「アントガルさん、二人でいきますよ!」


「あー、ちくしょー! わかったよ、やってやるよ!!」


 アントガルは半ば自棄になって怒鳴るように声をあげた。二人はここまでの戦闘で竜の動きをなんとなくではあるが読めるようになってきていた。炎の玉は威力はそれほど高くはないが、溜め時間がほとんどなく連発することが可能。それ以外では、鋭い牙や爪による物理攻撃、更には攻撃範囲の広い尻尾攻撃。おおよそはこれらのパターンに集約されている。



 アントガルの一撃は攻撃力が高く、竜にも有効だったが最初の一撃以来チャンスを作ることができず有効な攻撃を与えることができないでいた。ディーナは動きの素早さから攻撃を受けることは少なく、火の玉の余波などによる火傷程度だったが攻撃の威力に問題がありこちらも致命的な一撃を与えるに至ってはいなかった。


 ディーナの水魔法は炎の竜に対して有効ではあったが、竜の持つ熱量は水魔法の威力を上回っていた。水の精霊は周辺環境の影響により呼び出せないため、魔法の威力を底上げすることもできずにいた。



「アントガルさん、私は隙を作ることに専念します。だから、あなたは一撃を打ち込むことに集中してください」


「わかった、任せておけ!」


 巨大な相手に対して一撃の威力の高いアントガルの攻撃であれば、竜に対してダメージを与えることができる。二人はそう判断していた。蒼太はいい判断だと腕を組みながら頷いていた。



 ディーナはダメージを与えられない魔法の使い方を変えていく。まずは足止め。これまで竜は足元に魔法を撃たれると足を止める姿がみられた。


「ぐるううう」


 痛くはないが鬱陶しいといった様子で、足を引っ込めようとした。


 次に、視界を塞ぐため竜の周囲へ多量の水魔法を撒いていく。気温が高く、更に竜の放つ熱によって水は蒸発していく。更にその目に向かって水魔法を放つ。


「ぐる?」


 竜は徐々に視界が悪くなっていくため首を捻っている。



 動きを止めることはできないが、それにより動き出しが鈍くなっているのをみてそこへアントガルが突っ込んでいく。


「くらえーー!」


 アントガルの持つ槌は自作した自分専用に作った特製のものだった。これも属性武器であり、魔力を込めるとインパクトの瞬間に土の魔法を放つことができた。しかし、ドワーフの彼は魔力の扱いが得意でないためディーナが時間を稼いでいる間に魔力をためていた。


 更にディーナは攻撃を確実なものにするために竜の眼へと水弾を放つ。小さめの弾だったため竜は気にせずに受けてたち、自分へと近寄ってきたアントガルに向こうとした。しかし、ディーナは水弾の中に風魔法を隠しており、かまいたちが竜の眼へと入る。



「ぐるるぅ」


 さすがに眼の防御力は皮膚に比べて低く、痛みのためその場でたたらを踏み鳴き声をあげる。アントガルから注意が逸れ、動きが鈍ったところでアントガルは渾身の一撃を繰り出した。その攻撃は左の足に突き刺さり皮膚を突き破って竜は多量の血を噴出した。


「ぐあああああああああああああ」


 竜の雄たけびが広場全体に響き渡る。竜は眼が見えず、足に強烈な痛みが走ったため全てをなぎ払おうと尻尾を振り回した。距離をとっていたディーナには届かなかったが、足を攻撃していたアントガルは直撃を受けてしまい吹き飛ばされた。かろうじてマグマの中には落ちずに済んだが、意識を失っていた。



「あ、アントガルさん!!」


 ディーナは大きな声で名前を呼ぶが、アントガルはぴくりとも動かなかった。反応がないことに焦りディーナはアントガルの回復に向かおうとする。しかし、竜は走り出したディーナを狙っていた。


「グウウオオオオオオオォ!」


 竜の口が煌き、炎のブレスが吐き出される。



「ディーナ!!」


 蒼太はそれに気づきディーナに声をかけるがディーナは既に走り出しており、それを避けることは出来ない。


「くっ、いっけええええええええ!!」


 蒼太はヒビの入った十六夜を開いた口の中へと投擲した。十六夜が耐えられる限りの魔力を流しいれた一撃は竜の口へ真っ直ぐに飛んでいった。


「ぐわあああああああああああ」


 口の中に蓄えられたブレスと十六夜が触れた瞬間、十六夜が魔力を開放し竜の口の中で爆発した。その爆発は大きく、竜は首から先の全てが吹き飛ばされた。



「きゃああああ」


 走っていたディーナは後方からきた爆風で前方へ吹き飛ばされてしまう。その勢いでアントガルの下へと転がっていった。


「少し魔力を込めすぎたか」


 ヒビが入っていたため限界量まで入れてもそれほどにはならないと予想していたが、十六夜の魔力許容量は思っていたよりも大きく、その結果思っていた数倍の爆発になってしまった。


 ディーナは転がった先ですぐに立ち上がるとアントガルの回復を始めた。爆風に吹き飛ばされた影響はないようだった。

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