第125話



「これで、何としてでも刀を作らなきゃいけなくなったな……」


 蒼太は木っ端微塵に砕け散った十六夜を思いながら、そう呟いた。右手に持った竜斬剣を亜空庫に格納しディーナの下へと移動する。


「ディーナ、無事か?」


「えぇ、私は大丈夫です。アントガルさんも無事みたいです。身に付けてた鎧が良かったみたいで、思っていたよりは傷は深くないみたいです」


 ディーナはそう言ったがアントガルは実際には軽視できない状態であり、自分も怪我をしていたがそれを省みずアントガルを優先的に回復させている。その額には汗が滲んでいた。



「それはよかったが、ディーナの傷は大丈夫か?」


 すぐに立ち上がれたとはいってもディーナは吹き飛ばされた際に腕や足に擦り傷ができており、血が滲んでいた。


「えぇ、これくらいなら後でちゃちゃっと治せますので……アントガルさんの怪我のほうが重傷だから先に治療しちゃいます」


 アントガルは確かに強力な鎧をつけていたため、致命的な怪我はなんとか回避できていたが、それでも腕などは骨折しており、決して軽傷とはいえなかった。



「ディーナ、これをアントガルにかけるぞ。少し離れていろ」


 蒼太が取り出したのは高位のポーションであり、蒼太も数本しか持っていなかったがアントガルの表情が芳しくないためそれをアントガルへとふりかけていく。本来であれば経口接収のほうが全身に行き渡って回復速度があがるが、アントガルは気を失っているため傷口へと振りかけていく方法を選んだ。


 傷はみるみる内にに治っていき、表情も和らいでいるようにみえた。ポーションを振りかけ終わるとディーナはアントガルの治療を再開する。ポーションによって表面的な怪我はあらかた回復したので、残りの目に見えづらい怪我の治療などを行っていく。



 それからしばらくディーナは治療を続けていた。


「ディーナ、そろそろ止めておけ。状態も安定してるし、反対にお前が倒れたらそれこそ問題だ」


 蒼太に言われて、初めてディーナは自身の魔力が少なくなってふらついていることに気づいた。これ以上続ければ倒れてしまう、そう判断した蒼太は治療を中止させた。魔法に集中していたため余裕がなかったが、落ち着いてアントガルの表情を見ると蒼太の言うとおり落ち着いてるのが見てとれた。


「ほれ、毛皮を敷いておいたから少し休憩しておけ。まだ帰り道もあるんだ、その状態じゃ少し歩いただけでぶったおれかねない。それとこれも飲んでおくんだ」


 蒼太はディーナに休憩を促しながら、回復ポーションと魔力ポーションを渡した。



「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」


 ディーナの顔は疲労の色が濃く、ポーションを飲んで横になるとすぐに穏やかな寝息を立て始めた。


「……寝たか、ここはさっき倒したあいつら以外は沸かないみたいだからしばらくは安全だろ」


 蒼太はディーナに毛布をかけると、同じく横になっているアントガルにも毛布をかけた。



 二人が寝ている間、蒼太は起きて番をしていたが念のため結界石を出入り口に設置しておいた。そのため、広場内に魔物がやってくる気配はなかった。蒼太は周囲の気配察知をしながら、休憩のために食事を用意し始める。


 魔法で火をおこし木をくべ、そこへスープの入った鍋をかけていく。シルバンは大量に作ってくれた食事とともに具だくさんのスープをいくつか用意してくれていた。



 蒼太はそれを器によそっていく。味はもちろん満足のいくもので、野菜がたくさん入っているため栄養が取れるものになっている。その匂いにつられたのか、アントガルが先に目を覚ました。


「う、うーん。ここは……ん? おう、ソータ……おはよう。俺は一体どうなったんだ?」


 アントガルは竜の一撃の衝撃と、今まで眠っていたことで記憶の混乱がみられていた。何とか思い出そうとするが、戦闘の際の記憶ですら曖昧になっており、思い出せないことに一層混乱が強くなっていく。



「落ち着け、まずはこのスープを飲むんだ。怪我はあらかた治したが栄養を取らなければ身体がもたん」


 蒼太が差し出したスープを受け取るといい匂いにつられてアントガルは腹が鳴り、自分が空腹であることに気づいた。


「おう、ありがたく頂こう。何があったかは聞かせてくれるんだろ?」


「もちろんだ、まず食って落ち着いてからだ」


 アントガルは蒼太の言葉に頷くとスープに口をつける。



「うまああああああ!! なんじゃこりゃ!! うますぎる!!」


 スープのうまさにアントガルは一口すすると大声を出す。


「うるさい、ディーナがまだ寝てるんだから静かにしろ」 


 その声の大きさに顔をしかめた蒼太はアントガルの頭に拳骨を落とし、黙るように注意した。


「うぅ、わ、悪かったよ。でも、拳骨はないだろ拳骨は……ってか、ディーナも寝てるのか。いや、それよりこのスープだ。なんだこれ? こんなに美味いの食ったことないぞ」


 アントガルは興奮しており、謝罪と愚痴と質問を次々に繰り出していく。



「はぁ、落ち着けよ。まず拳骨は仕方ないことだ、諦めろ。次にディーナだが、お前の治療に魔力を使い果たして疲労で眠っているんだ。あとで礼を言っておけよ?」


 そこまで聞くとアントガルは、申し訳なさそうな顔でディーナの寝顔を見た。しかし、スープを飲む手は止まらなかった。


「礼は後で言おう。それで、このスープは誰が作ったんだ? もしかして、ソータか?」


「お前は……まぁ、だがその気持ちはわかる。このスープは美味いからな。俺がこの国に来る前に寄った獣人の国で見つけた店で作ってもらったものだ。俺のマジックバッグは時間停止の機能もついているからな、少し温めるだけで出来立ての状態が食えるってわけさ」


 蒼太はおおよそ本当のことを伝えた。



「へー、獣人の国かあ。それじゃあこの国では食べられないか……あ、おかわりよろしく」


 アントガルはあっという間にスープを平らげて、蒼太へと器を突き出した。


「はいはい、あんまり急いで食うなよ? さっきまで気絶していたんだからな」


 蒼太の忠告を聞き流しているのか、聞いていながら我慢できないのかアントガルは渡されたスープにがっついていく。



「う、うーん。あれ……あ、アントガルさん元気になったんですね。よかった」


 鍋の半分ほどをアントガル一人で食べ終えた頃にゆっくりとディーナが目を覚ました。

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