第122話
鉱山の入り口にたどり着くと、妙な熱を感じる。一般的な鉱山とは異なりこの山は火山になっているようで、奥にいくとマグマが流れている。環境的にも厳しく、更には魔物が増えたため入山規制がかかるのも当然と言えた。
「前に来た時よりもあっついなあ」
アントガルは、そう言いながら手で顔を仰いでいる。
「確かに気温がだいぶ高いな」
「ですね、火山って本では読んだことあったんですけど来たのは初めてなので楽しみです」
蒼太とディーナはそう言いつつも、額に汗ひとつ浮かんでいなかった。
「……あんたたち、何か涼しくなる道具使ってるんじゃないだろうな? 汗を全くかかないなんておかしいぞ」
そういうアントガルの額には大粒の汗が浮かんでいる。
「俺は水魔法と風魔法を使って、温度調節をしているからな」
「私も、精霊さんとアンダインの力で……」
アントガルが訝しげな表情で二人の周囲をよく見ると、魔力が漂っており空気のゆらぎが見えた。
「何かずるいぞ! 俺は暑いの我慢しているのに、俺にも魔法かけてくれよ」
魔力操作に長けているわけではないアントガルは、自分だけが暑い思いをしているのが我慢ならず、二人にすがるように声をあらげる。
「やれやれ、仕方ない。これも武器のためだと割り切るか……ちょっと待ってろ」
蒼太はマジックバッグに手を突っ込み、亜空庫から水属性のマントを取り出すとアントガルへと渡した。
「これは魔力がなくても使える。装備自体が水の魔力を帯びているものだ。これなら完全にとはいかないが、さっきまでよりはましなはずだ」
「お、ありがとな。助かるよ……おー、すげー、こりゃいいな」
アントガルはマントを身に着けると、先程までの暑さがおさまっていくのを感じ感嘆の声をあげる。
「マグマが近くなったら、あんまり効果はないかもしれないがそれでも暑さの軽減をしてくれる」
「おう、十分だ。さっきとは天と地ほど差があるってもんだ」
暑さの問題をクリアすることができたため、山の洞窟の中へと足を踏み入れていく。入り口周辺では魔物の姿は見えなかったが、それと同様にこのあたりでは鉱石はとられつくしており、どこにも鉱石は見当たらなかった。
「安全な場所の鉱石は全部とられてるから、もっと奥にいかないと……」
アントガルは通路の奥を見ながら言う。
「ここはだいぶ魔素が濃くなっているな、この感じはいくつか覚えがある」
蒼太は、今までにも訪れたことのある魔素の濃い場所を思い出していた。
「あんまり気持ちのいい場所ではないですね……」
魔力の流れに敏感なエルフ族、その中でもディーナの感受力は高く、この場所の異常さにやや顔色を悪くする。
「ディーナ、魔力酔いしないようにこれをつけておけ。少しは楽になるはずだ」
その様子を見かねた蒼太は耐魔の腕輪を取り出し、ディーナへと身に付けさせる。
「ありがとうございます……これなら、いけますね」
腕輪を中心に、全身を耐魔力の膜が覆っていきディーナの表情も普段のものへと戻っていく。
「よし、それなら早速奥までいこう。あんまり長居はしないほうがいい」
蒼太はディーナの状態が改善したのを確認すると、二人に声をかけ先導して進んでいく。
アントガルも武器を用意していたが、戦闘経験は少ないのか緊張しながら二人の後ろをついていく。
「な、なあ。あんまり奥に行かなくてもいいよな。」
「鉱石がとれるならそれでもいいんだが……多分安全な場所のものは採り尽くされてるよな?」
蒼太はアントガルに答えながらも、その足を止めずに奥へと進んでいく。
「だよなあ……」
アントガルはわかりやすく肩を落とす。
「大丈夫です、戦闘になったら私とソータさんが戦うので安心してください。さっきの戦いを見て私の力はわかってもらえましたよね? ソータさんは私が数人いても敵わないくらいに強いですから」
ディーナはそんなアントガルを力強く握りこぶしを作って励ます。
そんなやりとりをしながら三人は奥に進んでいく。道中では魔物に襲われることも数度あったが、それでもランクの低い魔物たちであり、入山規制がかかるほどのものはいなかった。何度かの戦闘をし進んでいくと、やがて開けた場所へと辿りついた。そこは円形の広場になっており、その壁際にはマグマが流れている。
「おいおい、強い魔物がいるってこのレベルかよ」
「こ、これは……」
「…………」
三人は目の前の光景に驚く。蒼太は呆れたような声を出し、ディーナは言葉が止まってしまい、アントガルにいたっては口を開けたまま声を出すことすらできなかった。
そこにいたのは、その身に炎を纏った巨大な竜だった。その竜の姿を見て、ディーナとアントガルの心には恐怖心と絶望感が湧き上がってくる。しかし、蒼太はその竜の足元を睨みつけていた。そこにいたのは黒い鎧の騎士だった。
蒼太は竜であれば、過去にもそして再召喚されてからも戦闘をしているためそこに驚きはなかった。しかし、その黒い鎧には覚えがありまたその身に宿る魔力の異質さに表情は厳しくなっている。
「おい、あいつはやばいぞ。昔同じタイプのやつと戦ったことがある、あの鎧の中は空洞だがその力はベースになっている鎧の能力に応じて力が変わり、更に魔物化した際に強化されているはずだ。そして、あの鎧には見覚えがある」
この魔物の名前はリビングアーマー、通常であればそれほど恐れる敵ではなかったがベースとなる鎧に蒼太は嫌な予感がしていた。
「な、なんて鎧なんですか?」
ディーナもその鎧の騎士の異常さに気づき、蒼太へと質問する。
「正式名称は知らんが、使っていたのは魔王の側近でラウゴと相打ちになったやつだ」
その言葉に、ディーナとアントガルはその身を震わせた。
「しかも、ラウゴの攻撃で破損していたはずなのにその様子もない。完全状態だろうな……あれは強いぞ。しかも、その側にはあの竜がいる……同時に相手をする必要がある。やれるか?」
ディーナは蒼太の質問に即答したかったが、その答えを一瞬飲み込んでしまう。魔物の力を比べたら、恐らくは蒼太が鎧の騎士の相手をすることになる。となると、ディーナは必然的に竜を一人で相手どることとなってしまう。ゆえに即答できなかった。
「仕方ない、あんまり戦いたくなかったが俺もやろう」
アントガルは覚悟を決めた表情でそう言った。
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