第84話
街は武闘大会の話題で盛り上がっており、メインストリートは混雑していた。
蒼太達は大会の観覧も考えているので、早く落ち着ける場所に行きたいと考えまずは宿屋へと向かうことにした。
いくつかの大衆的な宿に行くが、大会開催間近のためどこも空きがなく、最終的にたどり着いたのは主に貴族などが宿泊に使う高級宿だった。料金は高かったが冒険者でも宿泊することができ、馬車の管理もサービスで行っており、部屋ごとに風呂があるなど設備も整っていた。そして最大の決め手となったのがこの宿では宿泊客用の武闘大会のチケットを用意してくれることだった。
二人は部屋に荷物を置くと、動きやすい服装に着替え、最低限の装備を身につけて街の様子を見に行くことにした。街には多種多様な種族の者がおり、また多種多様な職業の者がいた。
大会への参加を考える冒険者や武芸者、そして各国お抱えの騎士などの姿も見かけた。それ以外では、このお祭り騒ぎを商機と考える商人などの姿も見かける。大会中は露店を開けるエリアも確保されているため、そこで店を開く者やお祭り価格を期待しての仕入れを目的とする者など目的も様々だった。
蒼太達は道すがら出ている屋台で買い食いをしながら大会が開催される武闘場へと向かっていた。
武闘場の周囲もまた露天が並んでおり、参加予定であろう戦士風の男達が並んでいる武器や防具などを物色していた。また大きな掲示板があり、そこには参加者の名前が記載された札が次々にかけられていた。蒼太達はどうせ知っている名前はないだろうと確認をしなかった。
闘技場の入り口には受付が設営されており、そこで大会参加の受付を行っていた。大会は三部門にわかれており、集団部門・獣魔部門・武闘王部門となっていた。集団部門ではチーム名が、獣魔部門では主と使役している魔物種名が、武闘王部門では個人名が掲示板の掲載されていく。
「ソータさん、どれかに参加されますか?」
ディーナは楽しそうに蒼太へと尋ねる。参加して欲しいという気持ちがありありと伝わってきた。
「俺は参加しないぞ。正直未だにどこまでの装備でどこまでの力を出していいのかよくわからん」
「全力装備で、本気でいけばいいと思います!」
やる気なさそうに返す蒼太に対して、ディーナは目を輝かせ握りこぶしを作りながら蒼太に迫っていた。
「ちょ、ちょっと落ち着け。とにかく俺は参加するつもりはない。何か揉め事や陰謀に巻き込まれてもかなわないからな」
蒼太は迫るディーナの頭を片手で抑え、話を切ろうとした。
「おー、あんたたちも参加するのか?」
傍から見たらじゃれあっているように見える二人へ声をかけたのは、ガルギスだった。
「お前は……ガルなんとか」
「えっと、白虎の人」
「ガ・ル・ギ・スだ!」
名前を思い出せずにいる二人に、ガルギスは自分の名前を叫んだ。
「冗談だ、ちゃんと覚えてるよ。ガルギスだろ?」
「そうです、ガルギスさんですね」
「お前ら……冗談なのか本気なのかわからん」
二人の反応にガルギスは肩を落とした。
「冗談はさておき、俺たちは参加しないぞ」
未だ蒼太の参加に未練を残すディーナを無視して、蒼太は不参加を断言した。
「そうかぁ、もったいないな。あの時は思わず間に入ったが、あんた……相当な実力だろ」
ガルギスは、蒼太を射抜くような視線で睨みつけるが口元は笑みが浮かんでいた。
「さてどうなんだろうな。自分でもよくわからんさ、とりあえず観戦目的で闘技場には行くからガルギスの応援くらいはさせてもらうよ」
その視線を受けながらも表情は変えず肩をすくめるだけに留め、そんな返答を返した。その返答に納得していないディーナは頬を膨らませて不満顔になっていた。
「自分で戦わなくて済む獣魔部門だったら参加してもよかったんだろうが、あいにくテイムしている魔物はいないんでな」
「余程力を隠したい理由でもあるのか……まぁ深く聞くのは野暮ってもんだな。参加締め切りまでまだ数日あるから、気が変わったら参加するといいさ。それじゃ、俺は用があるから行くな」
ガルギスは二人に別れを告げ、闘技場の中へと入っていった。
「やっぱりあの方は参加されるんですね」
「そうだな、なかなか強そうだからいい所までいくんじゃないか?」
「ソータさんが参加すれば優勝確実なのに……」
蒼太はそういうディーナの頭を撫でる。
「多少目立つくらいならいいんだが、大会となるとな」
ディーナの表情は徐々に笑顔にかわっていた。
「もう、仕方ないですね。許してあげます」
ディーナの機嫌が直ったため、蒼太は手を離す。
「さて、もう少し色々見て回るか」
街中がお祭り騒ぎになっているせいか色々な出店があり、ただ見ているだけでも二人の好奇心は満たされていった。
二人は外部からの出店だけではなく地元の店にも寄り、買い物をしながら情報収集を行っていく。王都だけあり、著名な鍛冶師のいる工房や大きな図書館などがあり、それらへの行きかたや穴場の店の情報なども教えてもらった。
街の規模はトゥーラより大きくまた見る物も多いため、情報収集がひと段落した頃には日が落ちてきていたことから二人は一度宿へと戻った。
二人は荷物を部屋に置くと、宿の食堂へと向かった。一流の宿だけあり馬鹿騒ぎに興じる者はおらず落ち着いた食事を摂ることが出来た。
その味も一流で、ゴルドンの料理を更に洗練させたような味だった。もちろんそれらは二人の舌を満足させるものでおかわりまでしてしまった。店の雰囲気から最初は二人とも躊躇していたが、ウェイターに質問すると快く注文を受けてくれた。
また、料理を褒める二人のことを厨房に伝えたためシェフ自ら挨拶に来るというおまけつきだった。
夕食に満足した二人は、それぞれ部屋に戻ると風呂に入り早めに就寝した。
まるで、翌日の騒ぎを予感しているかのように……。
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