第83話
翌朝
二人が宿で朝食を摂り、チェックアウトする頃、他の泊まり客のほとんどが昨日の宴の影響でベッドから出られずにいた。
「さぁ、王都に向かって出発するか」
蒼太は馬車に乗り込み、手綱をとる。
「はい、いきましょう!」
ディーナは馬車の中で蒼太の声に返事をする
「ヒヒーン!」
エドは蒼太に返事をし、歩を進めた。
王都への道は整備されており、馬車の揺れは少なく静かな移動となった。
その道とは反対に、途中蒼太達を襲おうとする盗賊団が馬に乗ってやってきたがディーナの銀弓での攻撃により近づく前に武器やそれを持つ手を狙い次々に戦力を剥がしていく。全てを失う前に一団は慌てて引き返すこととなった。
「お疲れ様」
幌の上から馬車の中に戻るディーナへと蒼太が声をかけた。
「ありがとうございます。集団の中でも良い武器を持ってるものを優先で破壊したので、しばらくは大きな活動は出来ないと思います」
銀弓を取り出した布で拭きながらディーナは報告する。
「少しでも戦力を減らしたんだから十分だ。午後になったら冒険者達がくるだろうから鉢合わせたら討伐してくれるだろうさ」
蒼太も破壊された武器を確認しており、そこから盗賊団が失った戦力を考え十分な戦果だと考えていた。
蒼太の予想通り、その日の午後に盗賊団は装備を新たにし馬車を襲撃したが冒険者の一団に出くわし壊滅することとなった。
その頃には蒼太たちは、一日分以上の道のりを先に進んでいた。
それからの道のりは何事もなく進み、五日後には王都へとたどり着いた。
★
獣人国王都城塞都市ヴェドルフ
蒼太達が王都に近づくに連れて向かう人や馬車は増え、城門に着く頃には街へと入るための行列が見えてきた。元々ヴェドルフの住民であったり、獣人国の有力者であれば優先的に入ることが出来たが蒼太達は何のコネも持たずに来た為素直に行列に並ぶこととなった。
時期が時期だけに他国からの冒険者なども多く、列はなかなか解消されず、むしろ蒼太達の後ろにも続々と待機者が増えていった。進まないことでイライラするものも多く、そこかしこで小競り合いが起きていた。その度に衛兵がかけより、それを止めるという様子がみられた。
蒼太達は元々急ぐ旅でもなかったため、布団を敷いた馬車内で交代で休憩をしながらゆっくりと待っていた。
蒼太達が列の半分くらいまで進んだ時に、一台の馬車が横を通り過ぎようとしたところで止まった。その馬車にはこの間の白虎族の男が乗っており、すれ違いざまに御者台にいたディーナを発見したため馬車を降り声をかけてきた。
「あー、この前の酒場の人だよな。俺の名前はガルギス、見ての通り白虎の獣人だ。あの時はいきなり変な事を言ってすまなかったな」
一夜明け冷静になった彼は自身の失態を思い出しながら、ディーナへと頭を下げた。
「いえ、私こそすいませんでした。思わず即答してしまって」
ディーナは言葉こそ謝罪していたが、目は笑っておらず未だ怒りが浮かんでいた。
「お、怒ってるみたいだな。悪かった、あの時は俺もかなり酔っていたみたいで……なんていうのは言い訳にはならない、よな」
白虎の男は言い訳をしようとしたが、ディーナの視線が冷めているのに気づきそれを取り下げた。
「ディーナ、もう過ぎたことだ。その辺で許してやれ、どうせ二度と会わないんだろうから、わだかまりを残しておかないほうがすっきりするだろ」
「それもそうですね、わかりました。謝罪を受け入れましょう」
蒼太の意見に頷き、笑顔で白虎の男へと返事を返した。
「お、お前らなあ……まぁいい、それよりあんた達なかなか入れなくて困ってるんだろ? この前のおわびに俺が口利いてやるから入ろうぜ」
ガルギスは行列とは別の入り口を指差した。
「いえ、別にいいです」
ディーナは冷たく言い放った。
「えっ!?」
予想外の反応にガルギスは大きな声で反応してしまった。
「私達は別に急いでいないので、あなたのお世話にならなくてもゆっくり待ちますので大丈夫です」
ディーナは正面を向き、目線を合わせようともしなかった。
「えっ、いや、その、えーと……おい、笑ってないでなんとかしてくれ!」
馬車の中から顔を出しながら笑いをこらえる蒼太に向かってガルギスは助けを求めた。
「はははっ、いやぁお前らのやりとりが面白くて、ついな。ディーナもういいだろ」
蒼太に声をかけられたディーナもよく見ると肩を震わせていた。
「ふふっ、ごめんなさい。ちょっと仕返しをしたくなってしまったので、今からでも口利きをお願いしてもよろしいですか?」
ディーナはいつもの笑顔でガルギスにそう尋ねた。
「全く人が悪いな、まあ元はと言えば俺のほうが迷惑かけたわけだからな、もちろん今からでも構わないさ。じゃあ、あっちの受付へ行こう」
蒼太達は行列から抜けるとガルギスの先導に従い優先受付へと向かった。
「じゃあ、話してくるからここで待っていてくれ」
ガルギスはそう言うと馬車を降り、受付へと向かった。遠目でそのやりとりを見ていると、衛兵の男となにやら楽しそうに話をしていた。二人は蒼太達に一度目線を送ると、衛兵は何度も頷く。それを確認したガルギスが御者台へと近づいてきた。
「大丈夫だ、一応身分証の提示と水晶のチェックだけはやってもらうが構わないよな?」
「あぁ、それは問題ない。しかし、本当に通れるのか……ガルギス、お前結構すごいんだな」
蒼太は素直な感想を口にしながら冒険者証を取り出した。
蒼太とディーナは一度馬車を降り、身分証の確認と水晶のチェックを終えるとすんなりと入城することができた。
「それじゃ、俺は用事があるからこれで行くからな。侘び代わりにはなったかな?」
ガルギスはにやりとしながらそう言った。
「そのしたり顔で台無しです……というのは冗談です。ありがとうございました、助かりました」
「ありがとうな」
二人は礼を言い、ガルギスとは別の方向へと進んだ。
「そういえば、俺達だいぶ先に出たはずなのに追いつくなんて……あいつどうやって来たんだ?」
蒼太の疑問は街の喧騒の中に消え、その答えは得られないままとなった。
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