第78話



 図書館を後にした二人は屋敷に戻り、リビングでそれぞれが手に入れた情報について話し合っていた。


 テーブルの上には大きな紙が一枚用意され、それに話しながら必要と思った情報を書き込むスタイルで行うことにした。


「じゃあ、まずは私が気になった情報から話していきますね」


「わかった、俺が先に書記をやろう」


 蒼太は取り出したペンを手に取った。



「私のほうは主に竜人族のお話でした。千年前の戦いで英雄である勇者を失った彼らは、それ以来歴史上からその名は見かけることがなくなったそうです」


 以前竜人族の情報を集めたことのある蒼太はその言葉に頷いた。


「そうらしいな、俺が以前調べた時の情報もそこまでだった。いくつか見た本の中に竜人族の現在の消息を記したものはなかった」


 ディーナも頷き返す。


「そうです。私も最初はそれ以上の情報を得られなかったので、そういうものなんだなと納得していました。だけど、午後に司書さんから借りた本には、少し違った視点でのお話が書かれていました」



「あの二人、思っていた以上に優秀だったようだな……」


 蒼太は自分たちの曖昧な要望を汲み取り必要な本を用意してくれた二人に改めて感心していた。


「まず、竜人族は亡くなる際に宝珠を残すそうです。そして、それは年齢に比例して大きくなると書いてありました」


「ふむ……だったらあいつのは相当な大きさだっただろうな。なにせあの時点で五百歳をゆうに越える年齢だったはずだからな」


「ですね、竜人族は戦いを好む性質から寿命を全うする方は少ないそうです。その中で五百年を越えて生きているのは稀だったかもしれません」


 二人は、脳裏に歴戦の英雄だった彼の姿が浮かんでいた。



「続けます。その宝珠ですが、百年を越えるような物は一族にとって国宝とも呼ばれるような存在のようで多大な魔力が秘められていたり、中には記憶の一部が封印されていることもあるそうです。それを知る者に狙われることも歴史上多々あったそうです」


 蒼太はその記憶の部分にひっかかりを覚えたが、その表情の変化を見たディーナが頷いた。


「私も同じことを考えました。私がペアコネクトで兄の記憶を得たように、竜人族も宝珠から戦いの顛末について情報を得たのではないかと。そして、その宝珠を守るために姿を隠したのではないか? 私はそう考えました」


 蒼太はディーナの意見を書きながらも首を傾げていた。



「うーん、俺もそう思ったがどうなんだろうな……その宝珠はどうやって竜人族達の手に渡ったんだ? それに記憶の一部というのなら、俺達の戦いの記憶じゃない可能性だって十分あるだろうし。少し決め手にはかけるような気がする」


「そこで出てくるのが、私の記憶にあるもう一人の人物です。その方が宝珠を持って情報と共に竜人族のみなさんへと渡したのではないかと」


 蒼太はそれを聞いて、自分の持つ情報と照らし合わせるともしかしたらと思うものがあった。



「それに、伝承の話を真実として受け取っていたら竜人族と人族で戦争になっていてもおかしくないと思いますが、この千年間それは起こってはいないようです。戦いを起こしていない理由、それが真実なのではないでしょうか」


 蒼太はディーナの話を紙に記し終えると顔をあげた。


「可能性はあるな。竜人族の行方を探すのも一つの手ではあるな。問題は……」


「居場所、ですね。その宝珠を誰が竜人族に渡したか、それが分かればもしかしたら」



 蒼太は首を横に振った。


「誰がっていうのを追及するのは賛成だが、そいつ、もしくはその子孫がそれを知っているかといったら……難しいだろうな。そもそも竜人族は種族間での結びつきが強い。同族以外に居場所の情報を漏らせばどこからそれを知られるかわからない、そんなリスクは負わないだろうさ。仲間を危険にさらすことになるわけだからな」


「そう、ですか……となると、難しいですね」


 ディーナは肩を落として下を向いてしまう。



「がっかりするのは、俺の話を聞いてからにしてくれ。俺のほうは小人族の話だ」


 ディーナは蒼太の言葉に大きく反応し、顔をがばっとあげた。


「察しがいいな、おそらくそうだと思うぞ」


 蒼太はディーナに向けてにやりと笑った。


「まず小人族だが、千年前長老が亡くなってから一族はバラバラになって、小さな集落に分かれて大陸中に散らばっているそうだ。小人族というのは、その名の通り小柄で身体能力で他種族に劣っているため集団での行動が常だと言われていた」


「あの頃も、小人族のみなさんは長老さんの下に集まり一つの国家を形成していましたね。じゃあ、長老さんが亡くなったからまとめる人がいなくなってバラバラに?」



 その言葉に蒼太は少し考えながら答える。


「……その可能性は十分にあると思う。だが長老が旅立つ時にそのへんを言い含めてなかったとも思いづらいんだよなあ。まぁ、それを聞いていて尚、一族がバラバラになった可能性も十分にあるがな」


 蒼太の言葉にディーナも考えながら返事を返した。


「うーん、でもバラバラになるって意見の相違からとかでしょうけど……長老の言葉を無下にしてまで一族が争うでしょうか?」


「そうだな、それは俺も思った。事実はわからないから仮定の話で進めるが、仮に争った結果バラバラになったのでなければ何か理由がないとおかしい。そこで俺はディーナの言うあの場で生き残った誰かというのが長老なんじゃないかと考えた」


 ディーナはうんうんと頷いていた。



「長老なら宝珠のことを知っていても不思議じゃないし、それを竜人族に持っていくのも理解出来る。更に言えば、小人族をバラバラに分けるのも長老なら皆が納得するんじゃないかな」


「それなら筋は通りますね……でも、それも長老さんが生きていたらですよね。何かそこに根拠があればいいんですが」


「あぁ、今までの話だけだと、そうだったらつじつまがあうという状況証拠だけだからな。そこで何かないかと探したんだが、獣人族の話で気になるものがあった」


「獣人族、ですか?」


 ディーナはひとさし指を口元にあてながら疑問を口にした。



「竜人族同様、獣人族もケンカっぱやい一族だ。だけど、人族との争いにいたっていない。仲は悪いみたいだけどな」


「つまり、竜人族と同じように何か理由があるということですね」


「そうなる、そこで色々と遡ってみたんだが……どうやら、獣人の国には他の国に伝わる伝承とは異なる話が残っていたようなんだ。今は他国と同じ話が主流みたいだが、その異なる伝承では勇者は早々に送還魔法で帰され、別の者の手によって竜人、エルフ、獣人の勇者が殺されたという話になっていた。そして、その物語の作者の名がグレヴィン」


 その名前にディーナは息を飲んだ。



 長老の名前はグレゴールマーヴィンであり、親しいものからはグレゴーやマーヴなどと呼ばれていたが、蒼太達のパーティメンバーは蒼太が発案した呼び名グレマーと呼んでいた。その際に、長老本人に却下された名前がグレヴィンだった。

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