第42話



「さっきのトラップを解除したからか、心なしか暗闇もはれた気がしますね!」


「いや、気のせいだろ」


「はうっ」


 アレゼルが場を和ませようと言った一言を蒼太は一蹴する。


 森の暗さは変わらず、今でも昼なのか夜なのか全くわからないままだった。



「この暗闇はもしかしたら、あのトラップを仕掛けたやつとは別の原因かもな」


「そう、なんですか?」


 アレゼルは同じ犯人だと思っていたため、意外そうな顔で蒼太に尋ねる。


「絶対とは言い切れないが……なんとなく魔力の質が違うというか。手口にしてもそうだ、トラップはあからさま過ぎる。それに比べて森を覆っているのはその正体や目的を悟らせない狡猾さがあるようにも感じる」


 蒼太は目を細めて、自分の考えを伝えた。


 その雰囲気の変化にアレゼルは息を飲んだ。



「なんとなくそう思っただけだから実際のところはわからないがな。そもそも誰かがやったことじゃなく自然現象って可能性もあるさ」


「どっちにしても、森全体だとしたらものすごいことですよね」


「そうだな、まあ俺たちに害がなければどっちの原因でも構わないんだが……それより少し腹が減ったな」


 暗闇で時間間隔が狂う中、蒼太は体内時計でおおよその時間を把握しており、そろそろ夕飯時だった。


「言われてみれば、ボクもお腹ぺこぺこでした」


 空腹を思い出すと、アレゼルのお腹がなった。


「うぅ、恥ずかしい」


「そろそろ休むか、時間的には野営を始めてもおかしくない時間帯だから丁度いいだろ」



「少し待ってろ、休めそうな場所を探してくる」


 蒼太は馬車を停め、御者台から降りると、道を外れて茂みの中へと入っていった。


 アレゼルも馬車を降り、蒼太の言いつけ通りにそこで待つことにした。


「わ、わかりました。でも、早く戻ってきて下さいね」


 残されたことに不安を覚え、エドに近寄るとその身体にすがりついた。



 蒼太は、馬車を置いても十分な広さを持つスペースを探していた。


 少し進んだ所で、木は生えていないが草が生い茂っている場所をみつけると地面に両手をつき、土の魔力を流していく。



 とそこを土魔法を使い整備した。




 すると草は掘り起こされ、下の土と入れ替え地中に埋められていった。


 更に上に被さった土を魔法で慣らしていく。それが繰り返され、円形にスペースが作り出されていった。


 時間はかかったが、そうやって小さな広場が生まれた。


「こんなところか……この方法も長老に教えてもらったんだよなあ」


 場所を整える。これは森の中だけでなく、暑い場所や寒い場所でもそれぞれの方法があり、それを小人族の勇者に指導してもらっていた。



「あのー、そろそろ見つかりましたか?」


 蒼太が昔のことを思い出し遠くを見つめるような目をしていると、しびれをきらしたアレゼルがエドを伴ってやってきた。


 エドが蒼太の匂いを追った結果、すんなりと辿り着くことができた。



「ん? あぁ、来たのか。見つかったぞ、ここならゆっくり休めるだろ」


 蒼太は横にどき、自身の身体に隠れて見えにくかった広場をアレゼルに見せる。


「わぁ、すごいですね。よくこんな場所を見つけましたね!」


 アレゼルは整地されているその場所を見ると、素直に感動していた。



「ちょっと手を加えたけどな。あとは……あの辺を中心に結界石を四隅に置いてっと」


 蒼太は広場を囲むように結界石を配置するが、それは誘拐犯たちの馬車に投げ入れた物よりも大きく、質が良いため、その効果も高かった。


「これで多少は安全度が増したか。あとは……メシの準備だな」


 中央にたき火を用意し、それを囲むように三箇所に毛皮を敷くとそれぞれの毛皮の前にマジックバッグから取り出した食事を並べていく。


 一つには桶を、残りの二つにはお盆に載せた食事を用意する。


「そっちの桶のほうはエド用だから、アレゼルはもう一つのほうに座ってくれ」


 蒼太は腰を下ろしながら一つの毛皮を指差した。



「えっと、いいんですかね? ボクも頂いちゃって」


 アレゼルも毛皮に腰を下ろすが、食べていいものか躊躇し食事には手を出せずにいた。


「そのために出したんだ、そんなに高いものじゃないから気にせずに食ってくれ。同じもののストックもだいぶあるしな」


 蒼太とアレゼル用に出した食事は、パンと街の屋台で買った野菜と肉を炒めたもの、それに野菜を煮込んだスープだった。


 それぞれを大量買いしていたため、亜空庫には大量の食事を在庫として抱えていた。



「それじゃ、失礼して……」


 容器に乗っている肉をフォークで刺して口に運ぶ。


「熱っ! あれ? 熱い?」


「おいおい、大丈夫か? 熱いからゆっくり食えよ。というか湯気が出てるんだから熱いのくらいわかるだろ」


「そ、そうなんですけど。鞄から出してたから、冷めてるかと思って……そのバッグって何か特別なんですか?」


 蒼太が小脇に置いたマジックバッグを指差しながら尋ねた。



「聞いたことないか? 時を止める魔法がかかってるマジックバッグなんだが、結構レアらしいから一応内緒で頼む」


 口元に人差し指を持っていき、内緒のポーズをとる。


「す、すごいですね。なんかボク、ソータさんに会ってから驚かされっぱなしです」


「まあ俺も色々あるってことさ。その色々を深くは追求しないでくれると助かる」


「わ、わかってます。深く聞きませんし、命の恩人のことは師匠にも話しません!」


 アレゼルは右手をグーにし、力強く宣言する。



「とりあえず、メシを食ったら寝るぞ。時間的には夜中だからな、寝ないと身体のリズムが崩れる」


「は、はい。熱っ!」


 蒼太に急がされたと感じたのか、アレゼルは再び火傷をしそうになった。


「……ゆっくり食べてくれ。ほら、水も飲むといい」


 カップに注いだ水をアレゼルは受け取った。


「は、はひ。はりはほうほはいはふ」



 水を飲み、熱さで痺れた舌が回復してくるとアレゼルは食事を続ける。


 今度はゆっくりと。


 蒼太はそれを確認すると自分も食べ始めた。




 その晩は毛皮の上に身体を横たえ、毛布をかけ就寝した。


 たき火の灯りに照らされたそこは、暗闇の森の中でも暖かい空気を持っており、二人はそのままぐっすりと眠ることが出来た。



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