第二章

第39話


 昼食前の出発だったため、空腹に耐えかねた蒼太はミリが差し入れしてくれた料理を取り出そうと包みに手を伸ばす。


 包みに入っていたのは、パンにこれでもかというくらいの炒めた肉が挟んであるホットドックの肉バージョン風のパン料理だった。


 ボリュームのあるそれが三つ入っていた。




 肉の味付けには、香辛料と甘辛いソースが使われている。同じく挟んである野菜にもそのソースがマッチしていた。


 蒼太はそれにかぶりつくと自然と声が口から漏れる。



「うまい……」



 今まで食べたどのホットドックよりもうまいと蒼太は思った。


 日本では調理技術も発展しており、素材や調味料も多彩だがその不足分を補って余りある腕をゴルドンは持っていた。


 大きめのそれを三つでボリュームがあったが、蒼太はあっという間に食べ終えた。



 ゴルドンは蒼太が宿に泊まっている間の食事の際の反応をミリから聞いており、気に入ると予想してこのメニューを選んでいた。



 自分の食事を終えると、鞄からエド用の食事を取り出した。


「エド、とりあえずこれで我慢してくれ」


 果物を取り出しエドの前に放り投げると、エドはそれをパクリとキャッチした。


 それを何度か繰り返し、エドも食事を終える。



 しばらく進むと街道沿いに大きな木があったため、その木陰で休憩をとろうと馬車を停めた。


「エドご苦労さん、ちょっと休憩しよう」


 既に街を出てから数時間経過していたので、二人とも小腹が減ったための休憩だった。


 家から持ってきた桶を亜空庫から取り出し、食事と水を出す。


 蒼太はエドが食事を摂るのを横目に、エリナからもらったクッキーを食べる。


「うん、うまいな。ホットミルクか紅茶でもあるとちょうどいいんだが……冷たいのでもいいか」


 瓶に入ったミルクを取り出すと、コップに注いでいく。



 しばらく休憩をして、腹が落ち着いた頃二人は出発する。



 ペースは急がずゆっくりすぎず、エドに負担がかからない速度で進んで行く。


 エルフの国へ向かう者、帰ってくる者は少ないらしく移動中に誰かとすれ違うこともなかった。


 だが念のため、夜には道から少し外れた場所に移動しテントを張り就寝する。



 そんな旅を続け数日経った頃に大きな森へと辿り着いた。



「図書館で読んだ本によると、この森を抜けて、その先の谷を抜けたらエルフの国の領内らしいんだが……」


 目の前の森は、木々が鬱蒼と茂っており暗くどんよりとした空気が漂っている。


「手入れされていないから日が差していないだけなのか、それとも……」


 他の場所に比べて森全体を覆う魔素が濃く、気配察知を使っても判然としない気配しか感じ取ることが出来なかった。



 不穏な空気を漂わせる森にどうしたものかと怪訝な表情になる。


「……まあ考えたところで、ここを抜けないと先に進めないわけだから行くしかないんだよなあ」


 念のため鉄の剣を帯剣し、エドには身体強化を付与する。



 森の中へ進むと、夜なのかと思うくらいの闇に包まれていた。


 闇を照らすために買っておいたカンテラに火を灯すと、一つを御者台に置き、もう一つをエドの頭にくくりつける。


 灯りを点けていても、時折遠くから何かの鳴き声が聞こえるだけで、近寄ってくる気配はなかった。



 不気味な気配の森だが、特に魔物が襲ってくることもなく順調に旅が進んでいたが、突如森の静寂を破る音が蒼太の進行方向から向かって来た。


 何かに追われているのか、ただ急いでるだけなのか、どちらにせよ馬に鞭を打ち急がせている。


 その姿が蒼太たちから視認出来る距離に差し掛かった時に、右の車輪が一つガタガタと音をたて外れてしまった。


 元々老朽化していた馬車が急いだことで車軸に大きな負荷がかかったためと思われた。



 バランスが崩れたため、馬も転び、馬車も大きな音をたて横倒しになった。


 蒼太たちは、馬車へと急いで近づく。


 すると、倒れた馬車の中から男が二人、御者台から落ちた男が一人身体をさすりながら出てきた。


「大丈夫か?」


 蒼太は馬車から降りて声をかける。



 男達はいかにも盗賊といった風貌で、三人が三人とも髭面だった。


 三人は顔を見合わせる頷くと、それぞれが武器を構える。


「おい、その馬車を俺達によこせ!」


 リーダーと思われる男が、剣を前に突き出し蒼太に向けて言ってくる。



「はぁ、その手の輩か……お前らの馬車が壊れたことには同情するが、だからといって俺の馬車をお前らに渡す筋合いはない。見逃してやるから、さっさと歩いていけ」


 蒼太はやれやれと肩を竦めながら呆れるように言った。


「お前、状況がわかってないようだな。おい、お前らやっちまえ!」


「「おう!!」



 男達は蒼太に襲い掛かってくるが、同じ三人組でもギルドの三兄弟と比べると数段ランクが下がり、その攻撃は蒼太にかすることすらない。


 蒼太は剣を抜くことなく、攻撃を避けたすれ違いざまに男達の首を後ろから手刀で叩き、一人、また一人と気絶させていく。


 リーダーは二人が一瞬で気絶させられたことに驚き動けずにいた。状況を把握出来た頃には蒼太が後ろに回りこんでおり、二人と同じように気絶させられた。



「まあ、こんなもんだよな。さて、こいつらをっと」


 気絶した男達をそのままにしておくわけにもいかないので、亜空庫から出したロープで縛り近くの木にもたれかからせた。



 次に壊れた馬車へと近寄っていく。


 馬車は道の中央に倒れており、このままでは蒼太達が通れないため移動させるためだった。


 馬車に手をかけようとすると、中からうめき声が聞こえるのに気づく。



「誰かいるのか?」


 馬車の中を覗くと、猿ぐつわをされ、手を後ろで縛られている子供が気絶していた。



 その耳はエルフの特徴のそれをしており、尖っている。


「やれやれ、誘拐犯か。こいつは入国する前に厄介ごとに巻き込まれたもんだ……」


 蒼太は顔を目を瞑り空を見上げた。

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