今日、アイツに告白します。

野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中

第1話 私はアイツと約束する。



 ――私は今日、告白しようと思う。


 告白相手は、少し遠くから歩いてきているアイツ。


 いつもならこういう時にアイツと交わすのは、必ずと言って良いほど軽口だけど。


(今日は、違う)


 決意を胸に、私は両手をギュッと握る。


「ねぇ、ちょっと」


 今は丁度、休み時間だ。

 多くの生徒たちが行き来する廊下の真ん中で、私はアイツにそう声を掛けた。


 すると友達と話していたアイツの視線が、声の主を探して僅かに彷徨う。


「何だよ?」


 帰って来たのは、訝し気な声だった。


(あ。今、間違いなく「あ、居たの」って思った)


 顔に丸々そんな気持ちが出てきている。

 ホントに一々、腹が立つ。


 なのに。


(こんなのが好きだなんて、私も存外変わってる)


 自分でも呆れて、思わずため息が出ちゃいそうだ。


「今日の部活の後、そっち行くから残っててよ」


 私は出そうになったため息を喉の所でギリギリ抑え込んでから、そんな言葉をアイツに投げた。


 『そっち』というのは、生徒会室の事だ。

 アイツは生徒会長をしているから、あの場所は今アイツの城の様な物になっている。


 「どうせ今日も放課後は生徒会室なんでしょ?」

 「……そうだけど」


 尋ねれば、仏頂面でアイツが返した。

 「何で分かったんだ」と言いたげな表情だ。

 でも、その位の事、私が分からない筈が無い。


 先日の事だ。

 丁度放課後用事があって、生徒会室の前を通った。

 その時部屋に居たのはアイツ1人で、何やら作業じみた事をしていたのだ。

 

 その時に「何をそんなにする事があるの?」って聞いたら「家に帰ると宿題したくなくなるから残ってやったりとか」って言っていた。

 その時は「生徒会の仕事じゃないのかよっ!」と言葉を返したが……まぁ何が言いたいのかというと、つまり。


(コイツ、生徒会の仕事が無い時も何かと理由を付けて生徒会室に入り浸ってるんだよね)


 ならば話は簡単だ。

 アイツの生徒会室への滞在が生徒会の仕事量に依存しないなら、きっと今日も入り浸るだろう。

 これはそういう、帰納的推理の結果だ。


(うん、何か一気に頭が良くなった気がする)


 なんて、一度1人で満足していると、アイツから答えが返ってきた。


「……別に良いけど」


 アイツの答えは、愛想の欠片も無かった。


 たったそれだけの、短い会話。

 それで私達の話は終わり。


 私達はお互いに、横をすり抜ける。



 アイツの友人とは、色々あって顔見知り以上の相手だ。

 その彼がすれ違いざまに「ばいばーい」と手を振って来たので、笑顔で振り返しておく。


 その直後、偶々アイツと目が合った。

 しかしアイツにプイッとされたので、地味に腹が立ってこっちも似た様な態度で返してやる。


 アイツってば、本当に大人気ない。

 ……いやまぁ、私もアイツもまだ子供だけど。



 アイツとは、いつもこんな感じだ。

 会えば盛大に喧嘩じみた展開になるか、若しくはあからさまに無視をする。


 それもこれも、全ては初対面が悪かったのだと思う。


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