最後の晩餐
橘千花
1話
真っ暗な部屋の中で電子レンジを開けた時の明かりがなんだか寂しいような虚しいような。レンジで温めようとしたのはいつもコンビニで買う野菜たっぷりスープだ。白菜や人参、玉ねぎなどいろいろな野菜が入っていていかにも健康に良いといったかんじだ。これに春雨でも入ったらもっと僕好みで美味しいのではないか、なんて考えながら電子レンジを3分30秒にセットし、あたためスタートのボタンを押した。スープを温めている間に洗面所で手を洗い、まだ2分1秒も残っているのかとレンジをちらっと見て、椅子にふう、と座った。
目を開けると部屋は真っ暗で、時計に目をこらすと夜中の4時をまわっていた。椅子に座り、机に伏せるようにして寝ていたのか体のあちこちが痛い。あいつめ。そんなことより腹が減った。コンビニにでも行くか、と思い部屋を出た。アパートから徒歩5分ほどのコンビニに着いて、お弁当などが並んでいるコーナーにいったところ夜中だからか棚はスカスカで残っているのはたっぷり野菜スープと書かれた小さなスープと甘辛牛肉丼くらいだった。ここはもちろんいつも買う肉丼だ。すると横から、痩せた男が野菜スープをすっと持って行った。野菜のどこがおいしいんだ、男は肉だろ。と思いながら、肉丼と、ついでに缶ビールを1つ一緒に買ってアパートへと帰った。
温めようとして電子レンジを開けたところ何か入っていて驚いた。何か入れた覚えはない。取り出したところ、それはさっきコンビニで見たたっぷり野菜スープだった。なぜこれがここにあるのかはすぐに分かった。はあ。あいつか。野菜スープなんてもんを買うやつがここにもいた。俺は野菜スープを冷蔵庫に入れ、待ちに待った甘辛牛肉丼をチンして、ビニール袋の中で汗をかいた缶ビールを開け、肉丼をかきこみ、缶ビールを飲み干した。ふう、満足満足。もう時計は5時30分をさしていたが、明日は仕事も休みだしこれからゆっくり昼まで寝よう。そう思い、歯磨きもせず布団に寝っ転がった。それにしても、あいつ、せっかく買ったスープを食べずに寝るなんて馬鹿なのか。
最後の晩餐を食べないなんて。
最後の晩餐 橘千花 @omaedasan
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