時空を越えて⑤〜ジャンの秘密〜
村に着くと,手厚くもてなされた。
村が近づいて様子が見えてくるようになると,子どもたちが大勢で出迎えてくれた。
「いらっしゃーい」
「どこから来たのー?」
「遊ぼ遊ぼー」
「ぼくが先だよー」
「先に休んでもらわなきゃ。疲れているんだから」
様々な年齢の子どもたちが出迎えてくれ,それぞれ引っ張り合うようにして手を取った。
「おいおい・・・・・・。子どもは苦手なんだが・・・・・・」
そうは言いながらバオウは頬を赤くして子どもたちの手を払うでもなくそれなりに対応をしている。
まずは疲れを取らないと,というこの子たちの中で一番年上の女の子の一声でやっと解放され,宿舎へと案内された。
いらっしゃい,という声と共に柔和な表情の浅黒いおばあちゃんが出迎えてくれたが,女の子がてきぱきと手続きを済ませてすぐに部屋へと案内してくれた。
「偉いね。仕事も出来てしっかり者さんだね」
「うん! お父さんもお母さんもおばあちゃんも大変だから,私も頑張らないと。私,アンナっていうの。ラムの看板娘って言われているの。よろしくね!」
そう言って荷物をきれいに並べながら自己紹介を済ませた後,かわいいねと言ってミュウと遊び始めた。ミュウは早くもアンナに心を許しているようだったが,こちらは気が気ではなかった。
三人の大人は顔をそろえて見合わせた。「ラムって言ったよな?」とバオウが囁いた。それは三人が育った町と同じ名前だった。
どう思う? とバオウはジャンに問いかけた。もちろん,この村と三人が育った町が同じ名前であるということについてだ。このことを偶然と済ませていいのだろうか。
「いろいろな可能性を考えてみないといけない。どちらとも断定するにはまだ早すぎるな。百年もあれば町並みは驚くほどに変化することは十分あり得る。明日,いくらか話を聞いて回ろうか」
そうだな,と合点したバオウは早々に布団にもぐりこんだ。ソラも早く寝ろ,とジャンは背中越しに言った。ジャンは寝ないの? とこちらに顔を向けて歯を見せた。
「初めての場所で全員が無防備に寝るなんて危ないからな。まあ,座っていても十分休めるから,気にせず休んでろ。おれがもし冒険中注意力が落ちてきた時は,ソラがフォローするんだぞ」
そう言って笑い声を抑えるようにして声を漏らして笑った。その後「それにこれは兄貴分の役目だ」と呟いて背中を向けた。
ここは甘えさせてもらって休むことにしよう。途中で交代してあげてジャンも休ませてあげないとな,そんなことを思って布団で体を覆った。
ミュウが布団にもぐりこんで小さく鳴いた。
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時間の問題だな,とジャンは呟いた。自分の素性がソラにばれないように,違和感のある生活は全くしなかったし,痕跡を消し,あるいは捏造したこともあった。おそらくこの旅で,自分に隠された秘密をソラは知ることになるだろう。バオウに関してはほとんど確信に近いものを得ている。
「たとえソラにばれたとしても,あいつには役目を果たしてもらわないといけない。それしか道がないんだから。・・・・・・いや,あいつにそんなことができるか? 絶対に素性は明かせない。あいつは心が優しすぎる。真実に気付いたら,あいつはきっと・・・・・・」
「交代するか?」
肩が上がり,身体が跳ねるように反応した。しまった,聞かれたか? 薄暗くて細かい表情は認識できないが,手を伸ばせば届く距離にバオウがいる。ぐっすり眠っていると思ったのに。ガラにもなく独り言なんて呟いてしまったのが悔やまれる。
「信じてやれよ。ソラはやるやつだぜ。まるで役に立たないようなところしか見てないが,自分の中で正しいと信じたことは必ずやり遂げる。誰になんと言われようともな。学校でもそうだった。見ているやつは見てた。だから,たとえ人気者じゃなくても,おかしなことにあいつには人望があった。矛盾しているようだが,実際そうだった。そんなあいつが,おれは羨ましかったんだ。同時に憎かった。強く当たっちまうおれを,悲しそうな目で見ていた。憐憫の目だ。あいつは分かっていたんだ。おれが寂しかったことを。友と呼べる人がいないことにむなしさを感じていたことを。だれよりも人の心に敏感なやつだ。あいつなら・・・・・・,ソラならきっとあんたの望み通りにしてくれるさ」
顔を上げてバオウを見た。その目はこれまでに見たことのないような優しさを内に秘めていた。こいつ,こんな目をするんだ。それはソラからもらったものなのかもしれない。
だよな,と呟いて二度首を左右に振った。
「そうだ。ソラはきっと,おれの望み通りの選択をするだろう。・・・・・・だから,ダメなんだ。それじゃあ困るんだ」
バオウは一瞬訳が分からないといった様子でたじろいだ。そして,ジャンの顔を覗き込むように知って聞いた。
「どういうことだ? お前が望むことって一体・・・・・・・。まさか・・・・・・・!?」
バオウは口に手を当てて考えた後,頭を掻きむしった。血がつながっているのか,と呟いた。
「察しが早いな。その通り。おれはソラの実の兄だ。お前たちが生きていた世界では存在しないな。ソラが物心がつく前に殺された。家を襲いに来た青い髪の男に。そして,元の世界の時空のひずみをもとに戻すとき・・・・・・」
ジャンはそこで息をつき,一拍置いた。バオウが頭をかきむしる手をとめる。一瞬の静寂が室内を支配した。ジャンは小さく息を吸い,続けた。
「時の欠片を壊して,すべての時空のひずみを戻すとき・・・・・・,おれはこの世界からいなくなる」
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