預言者はおじいちゃん
目を開けると,ベッドの上だった。カーテンの隙間から朝日が差している。ベッドから起き上がり,大きく伸びをした。窓を開け,朝の涼しい風を部屋の中に入れる。窓から体を出して,もう一度大きく伸びをした。この景色が好きだ。近くの川は遠くの方まで続いていて,水車がぐるぐると回っている。その先にある森は自分にとって特別な場所だ。誰にも教えていない,特別な時間を過ごす場所。そこは始まりの場所でもあり,続きでもあり,終わりを感じさせる場所でもあった。大きく息を吸って体を部屋の中へと戻した。
不思議な夢を見た気がする。ほとんどの夢がそうであるように,ついさっきまで何の夢を見ていたのかは思い出せない。それは掴めない宝のようなものだ。ただ,何かすごく大切なことだったような気がするという感触があるだけだ。いつも大切なことは頭の中から抜け落ちる。まあいい,きっと必要な時に思い出せるし,たとえ触れなくても事実は決して消えてなくならない。
グー,とお腹が鳴った。お腹をさすりながら朝ご飯のことを考えていると,肩の上によじ登ってきた小さな家族が小さく鳴いた。その首元をさすって声をかける。
「お前もお腹が空いたよな。よし,一緒に食べよう」
首の関節を鳴らしながらリビングに向かうと,頭の中で電流が走った。直後,かつての光景が映画のワンシーンのように繰り広げられた。そこには懐かしい顔があった。
「この子だけは,何があっても守り通すのじゃ。この子は,世界を正しい方向へと導いてくれる。」
じいちゃんが死ぬ間際に言った言葉だ。 ずっと昔,物心がつく前におじいちゃんが亡くなった時,どういう状況だったのかははっきりとは覚えていないが,この言葉だけはしっかりと記憶に残っている。
危篤状態で回復魔法をかけられながらも,最後は自然のままに死にたいと延命を望まずにこの世を去っていったらしい。そのおじいちゃんが,死ぬ間際に親族に語った言葉の子供というのが自分のことだ。なにがなんだかわからないけど,自分が特別な存在であるらしいとその時になんとなく感じた。でも,自分が他の人とどんな風に違うのかはわからない。母さんはとても期待をしている。その期待が重すぎるように感じることもあるけど,その期待に何とか応えたい。でも,なかなかうまくはいかない。
私立の有名な魔法学校に進学させてもらったけど,成績で言うと底辺をさまよったり,中間層に顔をのぞかせたりするレベルだ。だいたいこの年になると,傷を癒す回復魔法が得意だったり,範囲の広い相手の弱点を突く属性攻撃魔法が得意だったり,粘り強い攻撃力のある剣術だったりと得意分野が固まってくる頃だけど,自分が何を得意としているのか一向につかめない。そのことには先生も頭を抱えていて,どうやら自分には才能がないのかもしれないと思うには十分な実績と周りの反応があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます