第29話 苦境
信じて送り出した部下を引き連れた徳川が武田にぼろ負けした。
武田の裏切りによって戦略が瓦解し、あらゆる部分において情勢を分析しなおし体制を改める必要ができたため、織田としては即応以上のことはできていなかった。
徳川が大きく押されているという情報に、兵数をもって答えることができなかったため、信頼できる武将に精鋭をつけて少数の精鋭をもって援軍とした。
本格的な援軍を送ることができるまで時間を稼ぐことを言い含めてのことだ。
籠城していてくれればあとから巻き返しは効く。
だが、徳川が夜戦を挑んだらしい。
兵数に負けている相手に。
そのうえ、奇襲を狙った動きは武田に読まれ、万全の状況で正面からぶつかったそうだ。
何やってんだ徳川。
イライラする。
なんとか目途が立ってきた、そう思っていた矢先の武田の裏切り。
その原因の一角であることは間違いないだろう同盟相手の徳川のふがいなさ。
相変わらずの幕臣。
巷に流れるぼくや義昭さまをあしざまにあげつらう風評。
最悪に近い状況から持ち直したところへのおいうちは、ぼくの気持ちを大いに揺さぶった。
なぜこうもうまくいかないのか。
さらには、幕臣の中にぼくを排除する好機である、と主張する者がいるという。
馬鹿か。
ぼくがいなくなれば誰が幕府を支えるのだ。
莫大なカネと労力を支払い幕府を健全に運営させようというものがこれまでに居ただろうか。
少なくとも、ぼくを悪し様に言う幕臣の中には存在しない。自らの権益ばかり気にしている。風評はぼくと義昭さまに行くというのに。
年が明けて。
ぼくは義昭さまに意見書を書き上げた。
義昭さまを批判するような内容になるが、よく読めばこれは義昭さまにそうさせている悪臣をこそ弾劾するものだとわかるはずである。
すべては幕府を、義昭さまを盛り立てるため、そしてその先の天下の静謐のため。
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