俺たちバグジー親衛隊

喜多ばぐじ ⇒ 逆境を笑いに変える道楽家

第1話 ボウズとプールと、時々校長

「お~い~

こっち向けやっおまえ!おまえのことやぞ~!」

甲高い声が響き渡ります。

ぼくら3人は、4階から階段の下を覗き込み、階段を降りていくある人物に声をかけていました。

高校に入学したての15歳の若造が、えらそうに声をかけている相手は、誰かというと...


この学校の校長先生です。

名前は、岩本賢了。生徒たちは親しみを持って、「ケンリョ―」と呼んでいます。

なぜこんなと謎に満ちた遊びをしているのか?

それは、ぼくらにもわかりません。

一つ言えることは、こういう謎イベントは案外楽しくて、無機質になりがちな学校生活を楽しくしてくれるということです。


考えてみてください。

学校において校長先生というえば、その姿を見れば誰もがひれ伏す最高権力者です。

絶対王権の時代で例えるなら、王様のようなもの。

実際、この学校でも、校長先生である「ケンリョ―」は、「ケンリョ―はマジやばい」「結構頭がキレるらしい」「給料もそこそこ高い」「さらに終身雇用で年功序列らしい」と生徒たちから噂されていました。

そのような存在に対して「おい!おまえ!」と呼び捨てているぼくらは、相当なワルです。

しかし、ぼくらはヤンキーではありませんでした。実際に、ヤンキーと対峙したら、ほんの少々、小便をちびってしまうほどです。


では、ぼくらはいったい何者なのでしょうか。

ただのアホなのです。

日常生活にスリルを与えるためにアホなことをしたい者たちなのです。


もちろん、校長先生が「それはワシのことかー!?」と、

'クリリンの死' に怒る悟空のように叫んできた場合でも、言い訳は用意してあります。


「ちゃいますよ!ぼくらがお前と叫んだのは先生の隣を歩く友人に対してです!学校で1番偉い校長先生にそんなこと言うはずないじゃないですか~」


―――――――――――――――――

そんなアホなことを考えて日々をテキトーに楽しんでいるぼくたちが、墨谷台高校という、学区内では2番目に賢いなんちゃって進学校に入学してから約1週間が経ちました。

自分探しという名を借りて、旅行に勤しむ大学生と同じように、部活動探しという一大イベントを迎えておりました。

「やきゅう、するか?」ボブが一言。

「せやせや!コーシエン行くぞ!」

野球経験者の、ぼく、ボブ、織田の3人は、野球部の見学へ行きました。

ボブとたけけはエースとしてチームを引っ張ったゴリゴリ野球人です。

しかしぼくは、コテコテの三枚目野球人でした。

ツーアウトランナーなしで打席に立っても、サインはセーフティーバント。

ここで「打て」のサインが出ないなら、ぼくはいったい、いつスイングできるのでしょうか?

バントが上手いわけでもないので、2球続けてバントを失敗し、追い込まれた後に、監督は渋々「打て」のサインを出します。

「しぇっあーっ!みてろよ!」と張り切ってフルスイングするも、ハエが止まるような緩いカーブに三振してしまうのが定番です。


ぼくら3人が野球部を見学していると、ある人物が声をかけてきました。

見た目はまさしく、ヤ〇ザ。

胸を張りだし、肩で風を切って歩いてきたそのボウズ'は、

エ・グザイルのサングラスの人と、番長のキ・ヨハラをたして2で割って、タチヒ・ロシを少々まぶしたような人でした。


「お前らも野球部入るん?でも3人とも髪の毛長いなあ?!ボーズにせえよ?ボーズ!ボーズ!!それまでは来るな。ボーズやでボーズ!!」

その男は、高圧的な態度で、「ボーズ」を連呼しました。


甲子園を目指す名門校ならまだしも、進学校の野球部が坊主必須である理由はあるのでしょうか。

「そこまで野球やりたくないしあの人はなんか、ゴリゴリしてて怖いからやめよーぜ」

3人は、野球部からすぐ逃げました。

この物語は甲子園を目指す熱き球児の物語ではありません。


―――――――――――――――――

その後も、いろいろな部活を見学していきます。

「あ、陸上部はどうよ?」

「陸上部の服ってさ。服の面積が小さいから寒そうやん?」

「そうやな。四捨五入したら裸や、あの服は」

「裸で部活するん嫌やん?」

「せやな」

陸上部、四捨五入の結果、脱落...


―――――――――――――――――

「じゃあバスケ部はどう?」

「陸上部よりは面積広いけど、やっぱ寒そうちゃう?」

「バスケ部の服も四捨五入したらやっぱり裸やろ」

「じゃあ、あかんやん」

バスケ部、四捨五入の結果、脱落...

―――――――――――――――――

いくつかの部活を見学すれど、

「てか裸で部活してる奴ら多すぎるやろ」

「せやな、はじめ人間ギャートルズじゃあるめえし」



部活動選びという高校三年間を左右する重要イベントを、服装の露出度で四捨五入して、裸扱いしているあたりがぼくらの適当さを表しています。

そんなとき、ボブがぼくにある提案をしました。

「とっしー、お前さ。プール部いけよ。」

「プール部??うちには水泳部はあるけどプール部はないぞ!」

「知ってるよ。だから今から作るねん」

「いや、水泳部があるのに何でプール部を作るねん?」

「プール部にはプール部の良さがあるんや。水泳部より下手やけど、一般人より速く泳げる。そしてちょっと、自慢できる。それがプール部や」

「そんなへぼい部活誰が入ってくれるねん?!」

「部員はとっしー1人や。けど今からみつけていけばええ。まさに青春や」

「そんな青春嫌や!水泳部とプールの取り合いになるのが目に見えてるわ!」

「いや、取り合いどころか、プールの使用権は水泳部に決まってるやん。プール部が使えるのは、ビート板だけや」


―――――――――――――――――

どうでもいい話をしながら見学を続けていると、テニスコートに着きました。

軟式庭球部が練習しているだけでしたが、その様子がぼくらの胸を打ちます。


軟式ボールのふわっとした感じ、部員の雰囲気、練習のふわっとさ。

これはいかにも……カモ。


部活入らんのは嫌、けど、しんどいのも嫌。

そんなぼくらの'ゆとり魂'にジャストフィットしちゃっている感じがそこにはありました。まさにユートピア。トマス=モアもびっくりです。

「え、けど大丈夫か?服の面積は...」

「陸上よりましやろ。そこそこ面積も広いし、四捨五入しても服着てるわ」

「じゃあここにしよか」

「せやせや!せぇや!」

男友達と昼飯を食べる店を選ぶ以上のテキトーさでぼくらはテニス部に入りました。

入部する部活を決めて、安心しきったぼくらは、地元に帰ってからある行動にでます…

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