王家番記者と姫の恋
ロゼーナ
番記者の独り言
「さあさあご覧なすって!月刊王国新聞の最新号が出たよ!」
貼り出し係の男の言葉に、広場に居合わせた人々が一斉に掲示板の周りに集まってくる。
「陛下と妃殿下は相変わらず仲がよろしいようですなあ」
「おお、末の姫様はこんなに大きゅうなられたのか!」
「ラピス王子、ジェイド王子、お二方ともなんてお美しいのかしら!彫刻のようなご兄弟だわ」
「憧れのクリスティーヌ様!天使のような姫様だったが、いつのまに女神様になられたのだ?」
月刊王国新聞は、この国の公式な広報紙である。新しい法案からこの先一か月の天候予知など、国民の暮らしに欠かせない重要な情報が載っているのだが、人々が真っ先に目を向けるのは、何と言っても見開き紙面の四分の一ほどの大きなスペースを使って毎月一枚掲載される、国王陛下ご一家の集合写真であった。
十五年ほど前に発明された写真機は非常に高額で、扱いには技術も必要なことから、国民の暮らしには浸透していない。貴族ですら写真機を所有している家は数えるほどで、貴族名鑑に載る各貴族家当主の肖像も、未だに絵姿を用いる方が一般的である。
この「写真」という新技術を真っ先に導入したのが王家であった。国を治める者として、広く国民に顔を知らしめ、親しみを持ってもらうことが目的であった。民は顔も知らない遠くの王には着いていきたいと思わないからだ。
実際にその狙いは大成功で、毎月掲載される見目麗しい国王ご一家を、国民たちは心から敬愛し、家族のように身近に感じている。とくに、月刊王国新聞に写真が掲載されるようになってからお生まれになったふたりの姫様に至っては、誕生直後から毎月成長を見守っているため、国民からの人気は凄まじいものであった。国民全員が、彼女たちの祖父母であり親であり兄妹のような気持ちなのだ。
クリスティーヌ様と出会ったのは、僕が七歳、姫様が生後十か月の頃だった。王家専門の番記者として、長年に渡って月刊王国新聞の『しあわせ国王ご一家』という人気コーナーを担当しているじいちゃんに連れられて、初めて王城に上がったときだ。
普段僕の世話をしてくれているばあちゃんがぎっくり腰になってしまい、取材の旅に出ている両親や、同じく世界各地に散らばっている年の離れた兄や姉たちも留守で、その日は僕の面倒を見られる人がたまたま誰もいなかった。しかし、記者の家の都合で多忙な国王ご一家への取材日時をズラすことなどできるはずもなく、やむを得ずじいちゃんは僕を連れて仕事に行くことにしたのだ。
それだけ聞いたらとんでもないと言われそうだが、実のところ、国王陛下とじいちゃんは昵懇の仲だったので、僕が同行した事情について頭を下げ恐縮するじいちゃんを、陛下は笑って許してくださった。
国王陛下は貴族に対しても平民に対しても態度が変わらないほど気さくな方だし、陛下ご自身が赤ちゃんだった頃から取材を続けているうちのじいちゃんのことは、「親戚のおじさんのようなもの」だとおっしゃっていた。そのため、僕が王城に上がった際も、「親戚の子どもが遊びに来た」くらいの感覚だったらしい。
じいちゃんの仕事中、城の図書室や庭にいても良いとは言われたのだが、僕はせっかくならじいちゃんが働いているところを見せてほしいとお願いした。これに関しても陛下は「さすがは番記者一家のせがれだな」と笑い、あっさり許可をくださった。
ただ、同席にするにあたって、城の使用人たちから口を酸っぱくして言われたのは、「決して眠っている姫様を起こさないこと」だった。
その頃は、ちょうど写真機が発明されたばかりで、準備や撮影にもどうしても時間がかかってしまっていた。あれから十七年も経った今では、かなり機械の性能も撮影技術も進化したが、当時は大変だったのだ。さらにその昔は絵師を同行させて毎月国王ご一家の絵を一枚描いていたので、それに比べたら格段の速度向上ではあったようだが。
当時陛下の末の姫様であったクリスティーヌ様は、まだ赤ちゃんということもあり、良い写真を撮るのに非常に苦労しているのだと教えられた。愚図ったり泣いたりしてしまうので、なるべく写真撮影の直前に連れてくるのだが、赤ちゃんが大人の都合など気にするはずもない。
国民のいちばんの注目の的である姫様がぎゃん泣きしている写真を新聞記事に使えるはずもなく、毎回必死にみんなでご機嫌を取ったり、眠っている隙に撮影したりしていたそうだ。
僕が月刊王国新聞で目にしていたクリスティーヌ様は、まさに天使といった表情でにこにこ笑っていたり、安らかな寝顔で幸せそうに眠っていたりしたのだが、そんな記事の裏側でたくさんの大人たちが苦労しているというのが、なんだか業界の裏側を垣間見たような気持ちで、子ども心にとてもわくわくしたのを覚えている。
∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴
「姫様がお昼寝に入られました。今がチャンスです!」
僕は言われたとおり、国王陛下ご一家と撮影の準備を行うじいちゃんの様子を静かに見学していた。
ひとりの侍女が取材場所の応接間に集まった国王陛下と妃殿下、ふたりの幼い王子殿下に声を掛けると、誰もが心得たとばかりに撮影場所のソファーでポーズを取る。じいちゃんも写真機の準備の最終確認に余念がない。また、室内には姫様のためのぬいぐるみを持ったメイドが一名、中に鈴の入った音の鳴るボールを持ったメイドが一名、ふわふわの毛布やタオルを持ったメイドが一名、ミルクの入った瓶を持ったメイドが一名と、万全の態勢がしかれた。
姫様を抱く予定の妃殿下の膝の上に柔らかなクッションが置かれると、すやすやと眠ったクリスティーヌ様を慎重に抱きかかえた乳母が入室し、妃殿下の膝の上に姫様をそーーーーっと乗せる。この間、室内は誰もが息を止めているのではないかと思うほどの静寂に包まれていた。
姫様の体重が完全に妃殿下の膝にかかり、乳母がゆっくりゆっくりと腕を姫様の下から抜いていく。ここで気を緩めたらすべて台無しなのだ。皆が注目する中、ついに乳母はやり遂げた。それを見た室内の全員が大きく深呼吸をして、国王陛下の視線だけの合図で、皆が撮影体勢に入る。
僕はじいちゃんと写真機の横に立ち、この緊迫した状況を見つめていた。妃殿下の膝の上のふわふわなクッションに乗せられた姫様は、僕が写真で見て想像したよりもずっと小さくて驚いた。姫様はどうやら今の移動には気付かなかったようで、その目はしっかりと閉じられたままだ。
じいちゃんから聞いていた姫様の宝石のような碧い瞳を見てみたかったなと思う一方、その目が開く瞬間は覚醒して泣き出す瞬間とイコールになる可能性が非常に高い。僕としては残念だが、じいちゃんの仕事のためにはこれで良いのだ。
いよいよ撮影に入ろうとしたその瞬間、僕は天使の声を聞いた。
「うー………」
気のせいかと思うほど小さな音量だったが、その可愛らしい響きの出どころは誰もが瞬時に理解した。妃殿下が優しく姫様を抱えた腕をゆすり、再度眠りの世界へ誘おうと試みる。カメラの後ろに待機していた四名のメイドたちは、すぐにでもアイテムを持って飛び出す姿勢だ。
だがしかし、そのときは来た。来てしまった。
「う…う……あーーーーーーーーーーーーー‼んあーーーーーーーー‼」
誰もが恐れた事態に、即座に周りの大人たちと兄王子たちが姫様を必死で宥める。
「おーーー、よしよし、クーちゃん。何も怖くないのよー。もう少し寝てましょうね~」
「姫様、ほらほら、大好きなウサギしゃんですよー!一緒におねんねしましょうねー!」
「お腹空いちゃいましたか?おいしいミルクもありますよ~」
「クリスティーヌ、泣かないで!ほら、兄さまだよー!」
「くりすてぃー、べろべろばー!」
一瞬、姫様が固まる。これはいけるか?と思ったが…
「ん…んぎゃーーーーーーー!!あぎゃーーーーー!!」
ダメだった。むしろ悪化した。
両手両足をジタバタさせ、全力で嫌だという気持ちをアピールしている。
そりゃあそうだろう。気持ちよく寝ていたところに、目が覚めたらいきなり大勢に囲まれて一斉に話しかけられたら僕だって泣きたくなる。
泣いてしまった姫様は可哀相だが、僕は姫様の碧色の目がみたくて、どさくさに紛れて少し近づいてみた。じいちゃんも姫様の近くでオロオロしているので、今なら少しくらい覗き込んでも怒られることはたぶんないだろうと判断して。
初めて間近で見た姫様は、まさにおとぎ話で読んだ王女様のイメージそのものだった。ふわふわの金髪に、ピンク色のほっぺは見るからに柔らかそう。小さな唇は泣いて下がってしまっているが、赤い薔薇と同じ色。そしてじいちゃんから聞いていた碧い瞳は、これまでに僕が見てきたどんな色よりも綺麗だと思った。
全身でこの状況を拒否している姿も、その泣き顔と声までも何もかもが可愛くて、僕は思わずにっこりと笑ってしまった。
すると、先ほどまでジタバタしていた姫様がぴたりと泣き止んだ。涙で潤む碧い目は、真っすぐ僕を見つめている…気がする。
「よし、収まったぞ、今がチャンスだ。写真を撮ろう」
国王陛下の号令で、再度皆が撮影体勢に戻り、僕は壁際に戻る。
しかし…
「…ふ…う…んあーーーーーーー!!」
あっさり振り出しに戻った。もう一度姫様の周りに全員が集合し、先ほど見たのと同じ場面が繰り返される。しかし、今度はすぐに姫様が泣き止んだ。彼女の目は、また僕の方を見ている気がする。
気のせいかなと思い、すっと後ろに下がってじいちゃんの陰に隠れると、
「ん…んぎゃーーーーーーー!!あーーーーー!!」
もう一度僕が顔を出すと、やはりぴたりと止まる。確認のためもう一回やってみる。やはり僕が離れると泣くが、僕が顔を見せたら泣き止む。
不思議に思った僕がじーーーっと姫様の顔を見ると…顔中に大粒の涙が残ったまま、彼女はとても嬉しそうに笑った。なんだこの天使、めちゃくちゃ可愛い。
つられて僕も笑うと、
「あ…あー!きゃっ!んきゃー!」
姫様は僕に話しかけるように、にこにこと笑い、手をパチパチと叩きながら、ご機嫌な声を上げた。
国王陛下ご一家とその場にいた大人たちは、その様子を見て驚き、姫様と僕を見て不思議そうな顔をしていた。
「…不思議ですが、姫様はなぜかバズを見て笑っているようですな。よし、バズ、そのまま一歩だけ後ろに下がれるかの」
じいちゃんの言葉に僕は頷き、姫様と目を合わせたまま、僕は一歩後ろに下がる。姫様はまだご機嫌な様子で、僕に向かって「あー」とか「んきゃー」とか言いながら手を伸ばしてくる。なんだこの天使、めちゃくちゃ可愛い。(二回目)
僕も変な顔をしてみたり、手を振ってみたりと、出来る限り姫様の注意を引くようにしてみた。
理由は不明だが、とりあえず状況を把握したこの場の全員が、急いで写真撮影に入る。じいちゃんは写真機の位置を少しだけ調整し、僕が映りこまないギリギリの位置で、撮影を行った。その間も姫様はご機嫌だった。これで次回の月刊王国新聞の写真には笑顔の姫様が掲載できそうだ。
無事に撮影が終わり、ほっとした僕が一歩下がると、妃殿下に抱かれた姫様からは僕が見えなくなったようだ。その瞬間、
「んぎゃーーーーーーー!!あああーーーーー!!」
やはり姫様は泣き始めるのであった。
その日の帰り際、国王陛下と妃殿下から声を掛けられた。
「バズガルドはクリスティーヌによほど気に入られたようだな。次回の取材のときも一緒に来るが良い」
「ええ、ぜひお願いしたいわね。クリスティーヌは王子たちが赤ちゃんだった頃と違って、機嫌の移り変わりが激しい子で、皆困っていたのよ。なぜか分からないけれど、あなたなら姫を笑わせられるようだから、また来てくれたら助かるわ」
僕としても、じいちゃんの仕事が見られるのは楽しかったし、何よりあれほど可愛らしい姫様にまた会えたら嬉しいので、もちろん即座に了承した。どうして姫様が僕を見て笑ってくれたのかは分からないし、次回どうなるかは分からないけれど、立派な大人たちが困っている中で、僕が力になれたということが、なんだか誇らしい気持ちになっていた。
それからというもの、僕はじいちゃんが王城に取材に行く日には、必ず同行するようになった。
初めてクリスティーヌ様に会った翌月の取材の日、妃殿下から僕のことを「バズですよー」と紹介された姫様は、「ばー!ばーーーー!」と可愛らしい声を上げながら、やはりにこにこと笑ってくれた。
そのさらに翌月に、僕を見つけた姫様はこう言った。
「ばー!ばじゅ!ばーじゅー!」
まだ舌足らずだが、僕の愛称である「バズ」と呼ぼうとしてくれているのが分かり、僕はとても嬉しくなってしまった。
「はい、姫様、バズですよー」
「ばあじゅー!ばじゅーーー!」
笑顔で会話(?)する僕たちを見た国王陛下と妃殿下は、なぜか背中にとても悲しげなオーラを背負っていた。後でメイドに聞いてみたら、姫様が最初に発する言葉が「パパ」か「ママ」かでずっと勝負していたのに、まさかの「バズ」が先に呼ばれてしまい、ショックを受けていたのだという。僕が悪いわけでもないが、陛下と妃殿下にはとても申し訳ないことをしてしまったようだ。
密かに自分の名前を先に覚えさせようとしていたラピス王子とジェイド王子もしょんぼりしていたし、姫様付きのメイドや乳母もがっかりした顔をしていて、僕の胸はチクチクと痛んだのであった。
じいちゃんは取材の後はいつも国王陛下とふたりで話をする。これは陛下が街の様子や国民の暮らし、最近の流行等を知るためのもので、とても重要な仕事なのだそうだ。
ご一家の取材の時間と違い、その時間には僕を含め、他の者の同席は許されていなかった。そのため、僕は陛下とじいちゃんの話が終わるまでは自由時間となるのだが、ヒマだったことは一度もない。いつもご一家の取材と写真撮影が終わった途端にクリスティーヌ様が駆け寄って来るからだ。
「バズ!今日はおそとであそびましょー」
「はい、姫様。まいりましょう」
幼かった頃は遊び相手として。
「バズ!あのね、聞いて!お兄さまったらひどいのよ!」
「はい、姫様。ではお茶をいただきながらうかがいましょう」
物心ついた頃は相談相手として。
「バズ!今度隣国へ取材へ行くと言ってたわよね。お土産に欲しい物があるのだけど」
「はい、姫様。何なりとお申し付けください」
そして今は…一体なんだろう。
強いて言えば姫様のわがままを叶える年上の幼馴染として、だろうか。
二年前、僕が二十歳になったときにじいちゃんが王家の番記者を引退した。生涯現役をモットーとするじいちゃんは、今でも国民向けの情報コーナーで記事を書いているが、歳を取り、毎月王城へ上がるのが大変になったからだ。
王家の番記者は、ひいひいじいちゃんの時代から、我が家の者が代々務めている。じいちゃんが引退するなら、本当は父さんに順番が回ってくるはずだったのだが、父さんは月刊王国新聞の大人気コーナー『突撃!隣国の晩ごはん』の担当からはずれたくないとゴネたので、父さんをすっ飛ばして僕に順番が回ってきた。
ちなみに、隣国の晩ごはんと銘打ってはいるが、僕が生まれる以前から始まっていた長寿企画で、隣国での取材などとうの昔に終わり、父さんは隣国の隣国、そのまた隣国…という具合に取材の足を伸ばし続け、今では世界の裏側あたりにいるんじゃなかろうか。
あまりにも夫が帰ってこないので、母さんも父さんに着いていくようになった。結婚前は記者だったので、子育て中に仕事ができなかったことで、母さんはずっとウズウズしていたらしい。末っ子の僕が乳離れした段階で父さんを追いかけ、それからはずっと夫婦で取材を続けている。
両親とはもう一年半くらい会っていないが、名前も知らない国からでも毎月きちんと原稿が届いているので、元気ではいるのだと思う。
僕には両親と同じように世界に散らばっている二人の兄と二人の姉がいるが、その全員が王家の番記者となって国に留まることよりも、外国で取材をする方が良いと口を揃えた。うちはとことん取材バカな一家なのだ。ちなみに姉二人は遠い国で運命の相手を見つけ、今はそれぞれの国で結婚し、相変わらず記者を続けている。
必然的にじいちゃんの後を継いで王家番記者と月刊王国新聞の『しあわせ国王ご一家』を担当するのは僕に決まったのだった。
しかしそうなると、これまで取材後の時間で陛下と話をしていたじいちゃんに代わり、僕が陛下へ街のことや国民の様子などを報告する必要が出て来た。
その結果、これまでその時間に僕とお喋りをしていた姫様が拗ねた。
「お父様ばかりバズとお話するなんてズルい!わたくしだってバズとお喋りしたいのに!」
姫様があまりにもへそを曲げて陛下と口もきかなくなってしまったため、陛下への報告後、少しの間だけ姫様と僕がお茶を飲む時間が設けられるようになった。しかし、番記者を継いだばかりの僕には仕事が山ほどあり、十三歳になっていた姫様も勉強や稽古に忙しく、幼かった頃のようにゆっくりと時間を取ることはできなくなった。
姫様と会話する時間と反比例して、姫様からのお土産リクエストが増えた。僕は仕事柄、国内のいろんな街や近隣の国へ足を運ぶこともある。王城から自由に出かけることのできない姫様は、そんな僕を羨ましがり、各地の珍しい物を欲しがるようになったのだ。
姫様が欲しがる物には特徴があって、決して金銭的に高い物は要求しない。しかし、知ってか知らずか、いつも入手が難しい物をリクエストされる。その街で年に一度、カーニバルの夜にしか売られないお菓子だったり、ある集落の裏山の山頂で、夏の夜にしか咲かない花だったり、はたまたガラス工芸が盛んな街で姫様の瞳の色にいちばん近い碧いガラス細工を探してくることだったり…。
姫様のすごいところは、どれもそれなりの難易度なのに、ちゃんと僕の滞在日程でギリギリ入手できる物を欲しがるところだ。
僕としても、赤ちゃんの頃から懐いてくれている可愛い姫様が欲しがる物なら、少しくらい大変でも持って帰ってあげたいと思っているし、最近はその絶妙な難易度が宝探しのようでちょっと楽しくなっているふしもある。
クリスティーヌ様は幼い頃から元気いっぱいで好奇心旺盛なお姫様だった。しかし、クリスティーヌ様と、三年後にお生まれになった妹のマーガレット様は、月刊王国新聞の影響で“王国の至宝”と呼ばれるほど国民からの人気が高く、とくにクリスティーヌ様は「賢く優しく淑やかで天使のような姫様」と称えられている。
外見や優秀さに関しては美化でもなんでもなく事実なのだが、姫様は本来活発な性格なので、根がお淑やかとか如何にも女の子らしい等と言われるとちょっと違う。国民にこのイメージが広く浸透してしまっていることから、姫様は子どもの頃から自分の性格と美化されまくったイメージとのギャップに苦悩されていた。写真機によって写し取られた姫様があまりにも天使すぎたのが一因だが、これに関しては新聞を発行している記者側からすると心の底から申し訳なく思っている。
クリスティーヌ様は一時期は自分のイメージを変えようとされたこともあったが、やはり国民の期待は裏切れないと、公の場では作り上げられたイメージそのものの姿で登場している。それが天使だ女神だとさらなる反響を呼ぶため、人前に出たり街へ出かけることを好まない。本当は誰よりも、広い世界を駆け回りたいと思っていらっしゃるのに。
そんな状況を知っているからこそ、僕は姫様からわがままを言われても、全力で叶えようと昔から決めているのだ。
そんな姫様も成長され、つい先日には十七歳を迎えた。それと同時に、僕は陛下より重大な仕事を任されたのだった。
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