俺がVRChatで中身が男性の美少女とセックスした話♡

オタゴン

#1「おっぴろげVR 特出し美少女男性」

※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、サービスとは一切関係ありません。


×   ×   ×


 バーチャル性生活が最高すぎて、現実の生活へ憎悪を抱くほどになってきた。

 オンラインの脚本会議が始まるのは毎週火曜18時。俺の関わるアニメの打ち合わせはコロナウイルスの影響で全てリモートになった。

 Zoomを起動すると画面に十何人ものおっさんの顔が並ぶ。監督、プロデューサー、アニメーションプロデューサー、制作会社の社長、シリーズ構成の脚本家、テレビ局のプロデューサー。それらを筆頭にさらに細々とした役職のおっさんたちが何人かいる。これがアニメの脚本会議、いわゆるホン読みの出席者だ。俺を苦しめるおっさん包囲網。

 俺の立場は各話担当のサブライター。4話と7話と10話を書く予定だ。ここにいるおっさん全員が俺の脚本を読んで意見を言う。俺にはそれが耐えられない。誰もがアニメの現場をいくつも経験した上でここにいる。素人の20代は俺だけ。逃げ出したい。迷走を極めたプロットは完成まで6稿もかかってしまった。ここにいるみんなが俺の仕事のできなさにウンザリしているに違いない。

 こんな思いをするなら、アニメ脚本家なんて目指さなければよかった。

「みなさん揃いましたね。では、4話の2稿からいきましょう」

 プロデューサーがそう言うと、俺が「よろしくお願いします」という隙も与えずに監督が口火を切る。

「※※くん、この話の構成は本当にこれでいいのかな?」

 俺は言葉に詰まった。「ダメだと思います」なんて言えば、じゃあそんな出来のものを出すなという話になる。かといって、この脚本がしっかりできているとは自分でも思えない。

 雰囲気でわかる。この場にいる誰もが、俺の書き上げた10000字を面白いと思っていない。

 早く打ち合わせ終わんねえかな。VRセックスしてえ。

 監督を筆頭におっさんたちが俺の脚本に意見を出す。

「セリフが説明的だよね?」

「このキャラはこのセリフじゃないよね?」

「先週言ったことが反映されてないよね?」

「冒頭はウェットになるのを避けてほしいって言ったよね?」

「というかさ。正直に言ってこの話、まだまだ面白くないよね?」

 意見の多さと細かさは読み込んでくれている証拠だ。誰の言っていることもその通りだと思う。誰もがこのアニメを面白くしようとしている。でも俺には、この脚本を修正して面白い話にする自分が想像できない。俺には書けないという実感。それだけが確かになっていく。

 先週に上げた初稿をほぼ書き直しての2稿だった。

「これは3稿も大きく直してもらうことになると思うけど、できる?」

 できると言うしかない。やっと入った仕事だ。

 そもそもこの企画に声をかけてもらった時、仕事が入ったこと自体は嬉しかった。でも企画そのものが自分に合っているとは思えなかった。

 今の4話も監督やシリーズ構成のこうしてほしいというオーダーがあって、俺はそれをなんとかお話の形にようとしているだけ。自分で面白がって書かなきゃいけないなんてことはわかっている。でもオーダーに答えようとするので精一杯だ。面白がれず、ただ仕上げて早く楽になりたいという気持ちで書いている。だからどうしても雑になる。

「※※くん、聞いてる?」

 俺は会議の場でなんとか自分の意見を言おうとする。けれど飛び交う発言に追いついて理解しようとするだけで必死だ。考える余裕がない。俺を引き剥がそうと会議はどんどん進んでいく。ハイと返事するだけで何も言えない俺。自分がこの場にふさわしい能力を持たないということを自分自身で証明している。

 面白い脚本が書けない。

 脚本会議でボロカスに言われる。

 緊張で会議の内容が頭に入らない。

 どう修正すれば面白くなるのかわからない。

 次もダメだと思うと書くのが嫌になる。

 締め切りが近づいてきても手を付けない。

 ギリギリでやるので付け焼刃の改稿になる。

 面白い脚本が書けない。

「4話が見えてこないことには、5話に進めないんだよ」

 俺のせいで現場が止まる。俺の存在が何十人もの大人たちに不利益を被らせる。耐えられない。逃げ出したい。でも降板して仕事を失うのも怖い。Zoom越しのおっさんたちの顔を正面から見られない。死にたい。

「次、よろしく頼むよ」

 曖昧な返事しかできない。何もかも俺が悪い。俺が上手くやれていれば何の問題もない現場だ。

 アニメの仕事をすれば、こんな苦しみを味合わなくてすむと思っていた。大人から逃れられるはずだった。もっと閉塞していたい。

 打ち合わせが終わったのは22時を過ぎたころだった。その内の3時間近くが俺の脚本へのダメ出し。リモートに移行したせいで本来なら断絶している脚本会議と俺の部屋が接続されてしまっている。Zoomを切っても何からも逃れられた気がしない。

 俺は風呂に入ってから、冷蔵庫にある夕食の残りを部屋に持ち帰ってこそこそと食べる。なるべく親、弟、妹と顔を合わせたくない。稼ぎが少ないので実家から出られない。大学は脚本の道に進むために中退してしまった。

 だから俺はVRHMDを被る。この機械だけが俺をここではないどこかへ連れていってくれる。

 HMDさえ被れば、俺はセックスができる。その顕然たる事実だけはあのおっさん共ですら否定しようがない。

 俺はセックスをVRで手に入れたのだ。

 俺はVRChatを起動して、Aちゃんにインバイトを飛ばす。


×   ×   ×


 四方を海に囲まれたホテルの一室のような部屋。そこが俺とAちゃんのいつもの逢瀬の場所だ。青みがかった夜空の色が、月光を吸い込んで窓から差し込む。ジュークボックスから流れるピアノの音が心地いい。部屋の中心には大きなダブルベッドが置かれていて、スイッチを押すと四方を囲むようにミラーを表示できる。

 表示したミラーに映る俺のアバター。それは獣耳を生やした中性的な少女の3Dモデルだ。外にハネている青みがかった銀色のショートヘアと、パチリと丸い目には純真そうなかわいらしさがある。身長は低めで、活発そうでありながらちんまりとしたシルエット。俺はそのモデルにワイシャツを着せてショタっぽく改変している。

 こうしておけば、VRセックスで射精する側になれるからだ。

 VR美少女男性たちに俺の精液を搾り尽くさせるために、俺はショタとしてここにいる。アバターから「俺のチンポをしゃぶれ」という声が聞こえるようにというコンセプトの改変。扇情的な表情をいくつも実装している。いわばVR性行為特化型ショタアバター。人は誰でも、自分の力でショタになれるんだ!

 このアバターを選んだのはVRC内で人気があり、なおかつショタっぽく改変しやすいからという理由でしかなかった。叶うなら、次に生まれるときはこの3Dモデルをもっと純真に使える自分でありたい。だが、みんなが理想の自分や夢見た姿のためにアバターを纏うように、俺の喉から手を伸ばすほどの希望も確かにここに抱かれているのだ。希望という名の性欲。俺はVRでエロいことがしたかった。そしてそれを諦めなかったから今がある。

「メルくん、お疲れさま」

 俺を呼ぶ声に振り向くと、そこに愛しいAちゃんが立っている。

 Aちゃんは眼帯を付けた儚げな雰囲気のある少女のアバターを使っている。長い三つ編みが気弱そうな印象で、Aちゃんはそれにデフォルトとは違うゴシックなフリル付きのワンピースを着せている。色合いは赤を基調に改変されていて、ルビーのように赤い瞳が元からある人形のようなかわいさをより強調している。

 俺に駆け寄ると、俺の頭を胸に押し込めるように抱きしめてくれるAちゃん。そのアバターは俺より頭一つぶん身長が高めだ。こうされるとちょうど胸に顔を埋めることになる。

「今日もお仕事、がんばりましたね」

 俺が仕事を終えてVRに帰ってくると、Aちゃんは毎晩こうして抱きしめてくれる。VRだから感触はないが、頭の上から聞こえるその声が誰かの腕の中にいる温かさの実感を与えてくれる。

「今日もメルくんにぎゅってできて嬉しいです」

 この甘くて柔らかい声を出す人の現実の性別が男だなんて、時おり信じられなくなる。ボイチェンもかけていない声をそう感じるのは、俺の耳がホンモノを聞いているからに違いない。聞くべきものを聞き、掴むべきものを掴んでいる。

 Aちゃんは男だが俺の女だ。

「Aちゃんに撫でてもらえれば、それだけで疲れなんか全部吹き飛ぶよ」

 本当はこんなことを言える人間じゃない。現実の俺にこんなことを言われれば、その気色悪さに誰もが逃げ出したくなるに違いない。

「きっと、Aちゃんのことが大好きな証拠だね」

 纏うショタが俺に愛を囁いても許される力をくれている。

「もう、メルくん……」

 Aちゃんは真顔のまま俯く。照れた表情のアニメーションオーバーライドを出す暇もないようだ。そこに本物の照れを感じる。俺の言葉に照れてくれる女がいるということの喜び。それが俺をどこまでも前のめりにしていく。

「かわいいな。キスしたい」

「いいよ」

 Aちゃんの声音は恥ずかしさの中の嬉しさを隠しきれていない。俺たちは何十回目かのキスをする。

「んっ」

 堪えきれなさそうにAちゃんは声を漏らす。俺もそれに応えるように、口の中に貯めた唾液を使って粘りつく水音を鳴らす。なるべく音は小さく。自室のドアの先にはリビングがあって、そこには俺の家族がいるということは常に忘れない。父さんと母さんにベロチュー音は聞かせられない。俺はVRセックスをするような息子になったよ。赦しは請わない。俺はもう止まれない。

 俺たちは互いに首をうねらせ、仮想の舌を擦らせあう。

 VRでのキスはお互いにわかりやすいくらい吐息や声を漏らすのがコツだ。舌を絡ませるような唾液の音を鳴らすとより良い。そうして身体性や肉体感覚のようなものを与えてやることで、ただのポリゴンのすりつけ合いでしかないものがドロリとした肉体接触のキスになっていく。唇を重ね合う度に、俺たちはVRキスごっこ以上の何かがそこにないかと求め合う。

「好きだよ、Aちゃん」

「メルくん、好き」

 メスを帯び始めるAちゃんの声。そろそろ我慢できなくなるころだ。

 二人だけのバーチャル空間には、とっくにセックスの臭気が充満している。

「……したいです」

「今日もいっぱい、好きって伝えあおっか」

 俺はまずアバターの服を非表示にし、さらに股間のチンポを表示する。俺のアバターの股間に、華奢な裸体には不釣り合いな強靭に反り返るチンポが生えている。俺自身の股間にぶら下がる仮性包茎の租チンはそれに比べどうしようもなく惨めだが、これをシコらないことには射精できないのでズボンとパンツを降ろす。

 Aちゃんのアバターも同じように服が消え、弾力を伴った乳房が露わになる。

「ほら、見て。メルくんのだよ」

 そう言ってAちゃんは足を広げる。股間には精密な女性器の3Dモデルが付いていて、これはAちゃんが俺とVRセックスをするようになってから実装してくれたものだ。少し前までAちゃんの股間はリカちゃん人形のようにまっさらだった。

 俺にもっと興奮してほしい。もっと俺とVRセックスがしたい。これはAちゃんがそう思って付けてくれたマンコ。それを思い出す度に、俺にはこの女性器の3Dモデルがどうしようもなく愛おしくなる。

「エロいよ、最高。挿れていい?」

「うん」

 Aちゃんは直立したままの俺の腰を対面座位のように両足で掴み、その股の間でチンポを呑みこむ。俺はフルトラッキングではないから足と腰が動かせない。だからこれが俺たちの正常位。

 VRChatにセックスのための機能など存在しないので、それはただ3Dモデルを貫通させただけにすぎない。俺がチンポを握ってシコり始めると同時に、Aちゃんも俺に腰を打ちつける。

「メルくん、気持ちいい……」

 Aちゃんはそう言ってくれるが、実際は挿れられている感触なんかない。でもその言葉は嘘じゃない。そこにないものでもあるということにする。それは仮想現実の本質だ。俺はAちゃんの声に応えるようにその耳元を吐息で撫でる。

 キスと同じで、俺たちはVRセックスごっこでしかないそれに言葉や動きで肉の歓びを見出そうと絡み合う。ヘッドホンから聞こえるAちゃんの甘く溶けた喘ぎ声が俺の全身を何度も鋭く貫く。その声の中から、俺はセックスの実在感を手繰り寄せたい。シコる腰に力が入り、HMDが汗で曇る。もっとキミのVRマンコを感じたい。俺は巨根を突き入れながらより強く租チンを握る。

 そこにあるのは俺のために生まれた愛と運命の女性器。今後仮に俺が現実でセックスできたとして、俺のための女性器なんて二度と見つけられない。それだけでもVRでセックスをした意味があったのだと信じられる。俺への愛が100%のマンコを持つ女の子には、VRでなければ出会えない。

 キミに会えてよかった。その奇跡だけで俺の租チンはこんなにも気持ちよくなってしまう。世界中にラブソングを歌いたくなる。

「Aちゃん、好きだよ」

「うん、好き」

「大好き」

「大好きだよ」

「好きだよ」

「だーい好き」

「愛してる」

 薄っぺらさの極みみたいな言葉を買い叩きあう。でもそれが気持ちよくて、温かくて、抗いようがない。『好き? 好き? 大好き?』の意味が今ならわかる。R.D.レインのあの詩には虚しい安らかさが溢れている。好きと言えば好きと返ってくるということ。原初的な幸福の円環。それはセックスが往復の運動であることに似ている。俺は今セックスの真理に触れているのか? 叶うならそれは、HMD越しにでしか見えないものであってほしい。

 俺のこの手に今、セックスがある。これが俺のセックスだ。

 こみ上げる射精感に頭が眩むけれど、俺はAちゃんの顔を見つめようと瞼に力を込める。繋がっているキミを精一杯に感じながら、それがティッシュの上にぶちまけられるという現実から目を背ける。

「Aちゃん、中に出すよ」

「うん、いいよ」

 中ってどこだよ。俺は射精する。

「メルくん、気持ちよかった……」

 俺たちは汗だくでぐったりとその場に倒れ込む。射精したティッシュは丸めてそこらに放り投げる。後でゴミ箱に捨てればいい。ティッシュのことなんか今は考えたくない。俺はAちゃんに中出しした。誰にも否定させない。本当はティッシュなんかあってはならない。俺の精液は空も星も越えてHMDの向こう側へ飛んでいったのだから。

 俺は仮想世界を泳ぐ俺の精液を思い浮かべる。VRなんだから精液が泳いだっていい。現実に囚われないとはそういうことだ。精液が泳ぐ場所とはつまり子宮。VRは広大な子宮なのだと気付く。だからこの場所は安らかなのかもしれない。子宮の中で俺はAちゃんに出会う。Aちゃんの内側に子宮が無い代わりに、外側のVRそのものが子宮なのだ。俺は何を考えてるんだ? 疲れているのかもしれない。

 でもこの疲労感もセックスの証だから、少しだけ愛おしい。

 Aちゃんは俺の耳に口を寄せる。

「こんなセックス、どっちかがコロナだったら絶対感染しちゃいますよ」

「僕もそう思うよ」

 ここはVRなのでもちろんそんなことはない。感染しますようにという祈りにすぎない。それでも俺たちは祈る。溶け合って通じあっていたことの確かさの証が、どうかこの現実に一片でもあってくれたなら。感染症、愛の結晶。さっきまでしていたことが肉体と粘液の絡み合いでありますように。例えVRであっても、俺たちのセックスがそれだけの身体性を帯びていたならどんなにいいだろうと、そう奇跡を願わずにはいられない。

 リアルで会ってするという選択肢は今のところない。VRだからいいよねと、二人でよく話す。

 現実は来週までに4話3稿の修正、1万文字をほぼ書き直し。だから嫌だ。

 嫌われたくないので、こんな現実はAちゃんに話せない。

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