第6章 共に歩き、幾度もない命のやり取りに抗う決断
第20話 背後から追いかけられるほどに嫌なことはない
「はあ、はあ……!」
俺は息も
どうしてこんな目にあったのかは俺にも分からない。
足がガクガクと震えて思うように走れない。
肺も苦しくて酸素が足りず、呼吸がついていかない。
わき腹にも痛みが伝わり、肩で息をしている。
ただ一つだけ判明していることは俺は一方的に狙われていて、さらに命さえも狙われていることだ。
「……くそ、どこに行きやがった」
「よりにもよって、兄ちゃんが不在の時にあの会話を盗み聞きされるとはな」
「いや、まだ遠くには行ってないはずだ。何としても
「了解」
背後からの気配が別々になる。
どうやら二人が左右になって、俺を追いつめるつもりのようだ。
俺はひたすら逃げるために、おぼつかない足取りでこの道を駆けながら、前へと踏みしめるのだった……。
****
その一時間前、俺はデレサがくれたゼリーにより蝶から人間に戻り、また、この世界へ再び戻ってこれた。
どうやら今回の舞台は月の光さえも届かない暗闇の森の中だったが、枝先を見上げれば、星のカーテンのような景色で満ちていた。
すると、どこからか空気の流れが変わったのか、辺りはよく見えない景色へとなり、深い霧に覆われ、周りの視界が
ここはどこだろうか?
俺は小石に足元を取られながらも慎重に木々の間を抜けていく。
しばらくすると霧の中から一軒の民家が見えてきた。
その家の窓にかけた厚手のカーテンの裾からは少しだが光が漏れている。
良かった。
俺は無事に助かったんだ。
もう今夜は遅いし、これ以上の夜道の探索は危ない。
ここの家主に頼みこみ、今日は泊めてもらおう。
そう思考した俺が家の扉の前にゆっくりと近づくと、何やら中年らしき男の声が耳に入ってくる。
「その話、本当ですかい?」
「ああ、弥太郎の兄ちゃんに聞いたんだが、偶然にもほどがある。だったら殺すのも分かる気がする」
殺す……何、家内に
俺は出来るだけ物音を立てずに、その話のする場所に行き、聞き耳を立てようとした。
しかし、その途中、光に集まっていた灰色の小動物の素早い移動に驚き、思わず声を上げてしまう。
「そこにいるのは誰だっ!」
はっと気づいた時には遅かった。
家の灯りが消えて、真っ黒への世界に戻された後、俺は懐中電灯を持った大きな二つの人影から挟み撃ちにされていた。
「いたぞ、アイツだ!」
向こうは俺を知っている?
やはりさっきの会話からして弥太郎の知り合いか。
声といい、背丈といい、立派な大人の出で立ち。
恐らく、
まあ、考えていても始まらない。
今はヤツらから逃げて振りきらないと。
やれやれ、今回は最初からハードコースだな。
転生の場所を選べないのも困ったものだ……。
****
──という事情で俺はこの森の中でヤツらから逃げ続けている
そうやってあれこれと逃げて、向こうを疲れさせようと行動して早一時間。
だが、向こうさんは一向に
相手は中年くらいで俺のような若者の動きにはついてこれずに、いつかは根を上げるだろうと行動に移したが、そんな気配は一欠片もない。
まるで疲れなど知らないかのように……。
「いや、もしかしたら……」
俺はポケットを探って、とある透明なプラケースに入ったあるアイテムに触れる。
それから、何の考えもせずにその中身を地面へと投げつけた。
カランという衝撃と一緒に飛び出してゆく金メッキの画ビョウたち。
そのまま地につけられたトラップたちは相手が罠にかかるのを待つ。
後は近くの草の茂みに隠れて、反応を
「あのガキめ、今度はどこに行きやがった?」
「いや。今さっき、向こうの茂みに隠れようとしていたはずだ」
「……だな。オレたちから逃げられるものか」
男衆二人が近づいてくるのを確認して、俺はポケットから灯りのついたペンライトを遠くの草原に投げ込む。
「おい、今、光があっちに移動したぞ。恐らく向こう側に逃げていったぞ」
「……そうか、あっちか」
男たちが進路を変え、画ビョウのある地面へと足を繰り出す。
俺はその光景から目を離さなかった。
踏まれていくアイテム。
そのまま潰れていくアイテム。
ヤツらが踏んだ画ビョウの先端の針は折れ、乾ききった土の地面の中へと埋めつくされた。
その踏んだ痕跡も残さない大きな足の裏は無傷で出血すらしていないし、痛みで声を出すこともない。
俺の睨んだ通りに事は進んだ。
あの二人は人間じゃなかったのだ……。
──まあ、そうじゃなければそう簡単に人を
……それに前回、俺に向かってのトラックから流れ出たあの角材の攻撃。
あれだけ大量の角材を事故に見せて俺の前にばらまき、なおかつ、こちらも動いていた俺を巻き込んだはずなのに俺自身を無傷にするなんて、事故にしては事実上不可能な腕前だ。
まさしくコンピューターのような頭脳を使った正確な計算力で、そうさせたに違いない。
だとすれば弥太郎に関する部下は大半がロボットということになる。
いや、精密な人間の造りをしたアンドロイドと言えるだろう。
あんなヤツらに捕まったら間違いなく終わりだ。
俺は全身の力を振り絞り、奥歯を噛みしめながら無我夢中でダッシュを決めた。
****
長かった森をぬけ、霧が拡散され、人の気配が全くしない寂れた見慣れない街の様子なのに、暖色のオレンジな灯りが辺りを包み込んでいた。
どうやら壁際に白く横長に続く壁があるからにして、これは城を守る壁であり、周辺の街並みからして一つの城下町のようだ。
「待てよ、城があるということは……」
俺は頭の知恵を振り絞り、それなりの結論を思い浮かべる。
「俺の推測が正しいとしたら……」
近くにある古ぼけた材木でできた立て看板の標識に目をやると、『
「やっぱり弥太郎絡みか……」
さっきの蝶での記憶により、より確信を帯びていた……。
弥太郎の親は富みに長けており、莫大な財産を持っていることから、
今はその城は展示物になり、一般でも公開されているという文章のプリントが近くの掲示板に貼られていて
俺を追いかけてきた二人もあの城内で生まれたのだろう。
となるとあの二人は、ここの地形を知り尽くしているはず。
何か裏をかかなければ上手く出し抜けないだろう……。
「考えろ。きっと何か手があるはずだ」
俺は必死になって対抗策を考えた。
そこへとある壊れかけた天に向かった棒が目に入る。
それはわざとらしいほどに斜めになっていた電信柱だった。
「そうか、その手があったな」
俺はその電信柱を近くに意図的にあったかのようなビックな斧で、昔話で金太郎が担いだであろうマサカリのように何回もなぎ払う。
しばらくして亀裂が広がり、ガツンと鈍い音を立て、ゆっくりと外側に折れて派手な衝撃音と地響きで倒れる電信柱。
『ドカーン!!』
「見つけたぞ!」
そこへ激しい破壊音を鳴らし、城壁をぶっ壊したあの二人組が現れ、そのまま倒していた電信柱の餌食となる。
「なっ、何だ? ぐああああ!?」
「ぎゃあああ!?」
二人組は電信柱から千切れた電線に絡みつかれ、激しい光に包まれ、体の全身を震わせながら感電する。
やがてプスッという音が奴らの口から漏れて、黒い煙を吐きながら地べたへと倒れていく。
黒こげた肉体から瞳孔の光が消え、動きが止まり動かなくなった。
電化製品でなおかつ、鉄の固まりなら電気は防げなく、感電してショートするはず……。
俺の読みは見事に的中したのだった。
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