第4話 恋人ごっこは終わり、二人は結ばれる
「──そう、面倒見の良かったお
──彼女は黄色い
あの体育祭から数年が過ぎ、高校、大学を卒業し、春になり、社会人になった俺たちは、休日を利用して近所の公園にピクニックに来ていた。
****
──まずは俺たちの馴れ
あれから俺はあの高校二年生の体育祭の頃から、彼女──
陽氏さんは前髪を前に垂らし、両手で顔を覆い、肩は小さく震えていた。
「もしかしたら嫌だった? ごめん……」
彼女は
「……いえ、可憐は嬉しいのです」
「えっ、それってどういうこと?」
そのまま俺の両手を取り、温かな手で優しく包むこむ。
「可憐は
「えっ? 何だって?」
陽氏さんの意味深な返答に意味が分からなくなる。
「あっ、恐らく洋一さんは覚えてないでしょうね」
「はっ、何の話だ?」
「可憐の両親が離婚して父母ともに離れて、独り身になり、東京に住んでいた可憐のお祖母ちゃんに引き取られる時に、遠方への引っ越しは嫌だと大泣きをしまして──その時、近所で知り合った洋一さんから
「はあ、そんなことあったかな? 」
記憶の片隅をいくら呼び起こしても、そのようなことは身に覚えがない。
ただ、少しばかり引っかかる部分があったが、思い出そうとすると頭が痛くなってくる。
俺は小さい頃に陽氏さんに会っている?
ならなぜ、その記憶だけがすっぽりと抜け落ちているのだろう。
「そう無理に思い出す必要はないですよ。これからは可憐が
「……ということは?」
「はい。その告白、お受けいたします」
「ありがとう。よろしくね。これからは呼び方は
「はい、よろしくお願いします」
「ははっ、恋人通しになっても喋りは敬語なんだな」
「あっ、一応、洋一さんは可憐より年上ですから 」
「いいよ。特に気にしてないから」
秋空の下、体育祭の
****
こうして俺たち二人は体育祭で恋心を膨らませ、お互いのパートナーとして、この世界を楽しく過ごそうと決めたのだ。
「いよいよ、明後日ですね」
陽氏……いや、可憐が巾着袋から猫の顔型のお弁当箱を出して、中のおにぎりを
ちなみに俺はランチタイムまで待ちきれずに一足先に食べていて、犬型の弁当箱の中身による、彼女が作ってくれたおかずを、すでに空にしようとしていた。
「……ほふっ、ほひゅひゅう」
「もう、お行儀が悪いですよ。口の中を空っぽにしてから喋って下さい」
モグモグ、ごっくん……。
「……だな。明後日は俺たちの結婚式だもんな。これまで色々あったよな」
「そうですね。あれから5年、長かったようで短かったようで……ようやく可憐たちは本当のゴールに着いたのですね」
「いや、これからが新しい始まりさ。夫婦という共同作業のな」
俺は陽気なアヒルの絵柄が描かれたレジャーシートから立ち上がり、軽くパンパンと座っていた部分のホコリをはたく。
「ちょっと自販機でジュース買ってくるな。俺がおごるから可憐は何かいるか?」
「ありがとうございます。それでは可憐はミルクの入った紅茶でお願いします」
「了解した♪ もし売り切れだったらどうする?」
「洋一さんのセンスに任せます」
「はいよ♪」
俺は可憐を残し、噴水の先にある自販機の方向へと足を延ばした。
****
「可憐、紅茶はなかったから、とびっきり元気になれるお勧めを選んできてやったぞ」
俺は炭酸飲料のエナジードリンク、コーラ味を彼女に渡そうとするが……。
「何だ、その格好で寝てるのか。しょうがないヤツだな」
俺は座ったまま前屈みで寝ている彼女の肩を掴み、優しく揺り動かす。
「ほらっ、まだ春先だからな、こんな場所で寝ていたら風邪をひくぞ」
──そのまま体勢を崩して、レジャーシートの上に仰向けに倒れこむ可憐。
その彼女の胸には鈍く光る果物ナイフが刺さっていた。
「……なっ、何の冗談のつもりだよ?」
段々と白から血の色に染められていくワンピースに、そして俺が抱え込む白いロングTシャツにも
彼女の顔色は青ざめて、すでに息はしてなく、血色もない。
「か、可憐っ。どうした!!」
俺は力強く彼女を抱き締めて、力の限り彼女の名前を呼んだ。
もう彼女には、俺の言葉は届かないかも知れないが……。
「──キャーッ、人殺しよ! 誰か警察を呼んで!」
すると、近くにいた家族水入らずの母親が張り詰めた空気の中、甲高い声で叫ぶ。
「違う、おっ、俺じゃない……」
俺は恐怖に動転しながらも足を取られて動けない。
──しばらくすると、武装した警察官二人が俺の前へやってきた。
「警察だ。殺人犯、そこを動くな! 動いたら撃つぞ!」
分厚い防弾チョッキがさまになった警察官二人がコードの付いた黒い拳銃を俺の方へ向ける。
こちらの頭に怪しく光る銃口。
俺はその時、死を理解した。
「ぐああああー、だから、誤解だ。俺は殺してない!!」
俺は半ば、
『パアーン!』
しかし、片割れの警察官はその隙を逃さなかった。
次の瞬間、俺の体に鈍い痛みが貫かれ、永久な暗闇に迷いこむように意識が飛んでいった……。
****
……可憐、守れなくてごめんな。
もし、あの世で会えたら君に謝るよ。
そして、そこで出会えたら今度こそ幸せに暮らそう。
だから、それまでさようなら……。
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