今からよくあるラブストーリーを否定します!

つきみなも

恋愛ってそんな簡単じゃねえよ!!


僕は山田哲郎。ごく普通の中学二年生だ。成績もいいとも悪いとも言えないし、運動も人並みだ。提出物は90%は出せてるし、将来の夢だってサラリーマンと普通。

ただ、大嫌いなものがある。それは、


「ラブコメディ」だ!!


そんなに恋愛がうまくいくわけないし、そんな奇抜な恋だってないし、なんだよ異世界転生って!あるわけねえだろ!

まあどうせ奇抜な恋書かないと売れないからそうしてるんだろうけど!

・・・多分友達にこの話しまくってるな・・・


今日も学校の廊下は騒がしい。授業始まりまで友達と話したいやつとか、教室移動のやつとかであふれかえっている。そんな中、衝撃の言葉を聞いた。

「横田って付き合い始めたらしいよ?」

は?え?うん?

横田は僕の友達だ。会話が苦手なシャイな子で有名だったが、そいつに彼女が・・・

聞いてない僕は何も聞いてない!恋愛がそんなにうまくいくわけないない!はっはは!噂も七十五日っていうぐらいだし!そうだよね!はっはっはっはぁ!

そういう風に自分に言い聞かせながら美術室へ向かった。

僕は美術の授業は大好きなのだが、さっきの話が頭に残って離れず、授業に集中できない。

「山田君、美の秩序を一つ言って。」

急に質問が来たので驚いたまま答えてしまって美術室中に笑いが飛んだ。

教室へ戻るときに秋山が話しかけてきた。

「おい山、さっきからお前なんかおかしくねえか?」

「いつもみたいに普通じゃないし」

秋山は僕の親友だ。僕のことを「山」と呼んでくる。

そして驚くことに幼稚園から今に至るまで、クラスや教室が一緒なのだ。そりゃまあ仲良くなるはずだ。

秋山はちょっとおかしいやつだけど面白い。クラスでは目立ってないけど、誰にも恨まれたりしてない・・・言っちゃ悪いが陰キャだ。

「あー・・・あのな、おかしくないかって聞いてる地点で普通じゃねえだろうが(笑)」

僕と秋山はいつもこんな感じだ。秋山がボケて僕がツッコむ。秋山のボケはいつも面白いのだ。

「そうだな(笑)んで何かあったのか?」

僕を心配してくれるなんて最高の親友だな。さっきのこと話してやるか。

「おまえ・・・横田って知ってるか?」

「ああ知ってるぜ?あのシャイなやつだろ?」

僕は横田が付き合い始めたといううわさを聞いたことを話した

「うぉぉうい!マジかよそれ!」

「あ、あくまでも噂だからな?」

「だとしたら・・・」

秋山が笑いながらこっちを見てくる

「いやいやいやいやない!それはない!」

「お前も付き合い始めればいいのに(笑)」

今日も学校が終わる。帰りの号令が終わったら、荷物を持って教室から美術室へ直行する。今日も絵をかき、帰りの時間になったら帰る。そのルーティーンは毎日変わらない。

家に帰ったらすぐに着替えて宿題をすませ、奴にラインをする。

「お前付き合ってんのか!?」

「..ごめん伝えなくて...」

「いやいやいいんだが、噂を聞いてな...」

僕は付き合っている人は罪はないと思っている。あの「リア充撲滅」とか言ってるやつとは違う。

「お相手さんは誰なんだい?」

僕は思いきって聞いてみる。

「言っても学校で広めない?言ってもバカにしない?」

「いやいや僕をなんだと思ってるんだ?wクラスの悪質な女子とは違うんだぞ?w」

「w...そうだね。ごめんw」

「あのね...原田さんなんだけど...」

ファッ!?原田さんって言ったらうちの学校一の美少女じゃねえか!ま、まあ..あいつ性格いいし顔もいいし...

「...........ファアアアアア?すげえなお前!よくやったな!シャイのクセに!」

「ははwありがとう」

これはめでたいな...まあ、僕はめでたくなることはないだろうが。

今日は夕食を食べてお風呂に入ってすぐに寝た。

その日は夢を珍しく見た。

「やあ少年。元気かい?」

少し古びたコートを着た中年男性が後ろから声をかけてきた。僕は瞬間的にその中年男性は危険ではないとなぜかわかった。それと同時に、侮辱してはならない相手ということも。

「は、初めまして...?」

久しぶりにあったような挨拶だったので、初めて会ったかどうかわからない。とりあえず初めましてといっておく。

「はっはっは!君のような人は初めてだよ。大抵の人は誰ですか?とか聞いてくるんだがな。」

どうやら初めて会ったらしい。それに「君のような人は初めて」?どういうことだ?何人も同じことをやって来たのか?

「まあ、一旦座ろうか。...うーむ。殺風景だな。」

そういうと中年男性は手を上にあげて振った。するとみるみるうちに殺風景ななにもない空間に6畳間の部屋と、ちゃぶ台、タンス、台所が現れた。現代らしくない...昔な感じの部屋が出来上がっていた。

「うむ、こんなもんか。」

「ど、え?な?」

「おっと、驚かせたな。すまんすまん」

中年男性はいたって普通な顔をしている。落ち着いた顔を。なんだこの人魔法使いなのか?...そうか夢ならなんでもありなんだったな。

「さて、話をしようか。あ、お茶でも飲むか?」

「い、いえ、大丈夫です」

「本当は飲みたいんだろう?はっはっは」

まあ、確かに飲みたいが...

中年男性はお茶を持ってきて僕の前にある湯飲みにいれてくれた。

「それで話ってなんですか?」

「君のことだよ。」

「僕ですか...」

「そうだよ。君の...あれこれだよ。」

あれこれとは。はっきりしてほしいな。

「...話の中心がわかってないと話が進みませんよ?」

「はっはっは!そうだな。まあいっちまうと恋愛だ。」

「ええ...恋愛ですか...僕と無関係の...」

「まあまあ、無関係なんて言わずに..人間誰だって恋はする。じゃないと今ごろは人類なんて存在しなかったからな。」

「はあ...」

「それで、だ。...彼女欲しくないか?」

「そりゃまあ...欲しいですよ...」

「だよなだよな。欲しいよな?」

中年男性が急に話しにくいついてくる。

「ただ、僕は何も良いところがないし...」

「あるさ!それも一個や二個じゃない、たくさんあるさ!」

「成績平凡。運動人並み。おまけに顔立ちも普通ときた。どこにいいところが?」

「例えば今、初めましてな僕と普通に会話できてることだ。コミュニケーション力が非常に高い。」

そういえばそうだ。人前で緊張したこともないし、初めての人にも普通に話をできる。

「確かに...」

「たくさんあると言ったが、僕はその内容は把握してないからな?自分で見いだすんだよ?」

「はい。それで、あなたが僕の恋愛事情になぜ関係あるんですか?」

「ちょっとな、ネガティブ思考だから応援したくなってな。」

「まあ、恋愛に対してネガティブなのは自覚してますけど...でも...聞きたいことがあるんです。いいですか?」

中年男性はお茶を飲んだあと、

「ああいいぞ。正義の定義とか平和とはどうやったら平和と呼べるのかとか哲学的な質問以外は答えられるぞ。」

僕はその回答を聞いてほっとする。こういうのってよく答えてくれないパターンがあるからな。

「僕のことをなぜ事前に知っていたの?このなにもない空間はなんなの?あなたは誰なの?これは夢なの?」

中年男性はこんなに同時に質問したのに全く慌てていない。相当コミュニケーションに長けているらしい。

「一つづつ順番に答えていくかな。まず、君のことをなぜ知っていたのか?これはだな。...なんというか、超能力みたいなものさ。説明のしようがない。すまないな。そしてこの空間のことか。ここは〔無〕という空間だ。その名の通りなにもない空間だ。僕のことか。うーむ..夢に出てくるおじさんさ。特になにもできる訳じゃないが、こういう風に部屋を作ったりということはできる。そしてここは夢だ。現実じゃないぞ。安心したまえ。」

「嘘はダメですよ?」

僕は中年男性の嘘を簡単に見抜いた。なぜこんなことができるか。それは、

ここが夢の中だからだ。

「おじさん、運が悪かったね。僕は美術部の部員さ。つまり想像力が高い。どういうことかわかるね?」

目の前にいる「おじさん」は全く驚かない。

「はっはっは。君には負けたよ。完敗。そうさ。僕はただの「おじさん」じゃない。何て言うかその...神様?かな?」

「ですよね...なんか若干光ってますし。」

初めてその「神様」が驚いた

「えっ!?光ってた?君がここに来てからずっと?」

僕はうなずく。

「あちゃー...やらかしたな....ばれたならしょうがないな。さいなら。」

「ちょっと待って名前を教えて!」

「ゆいのやしろ。だ。」

そういったあとに僕は起きた。朝だ。いつも起きる時間帯よりも少し早く起きた。

あれは明晰夢だな。そう確信した。

あとで調べてわかったことだが、ゆいのやしろは平安時代から「縁結び」の神として親しまれてきた神様だそうな。

まあ、慰めに来てくれたのだろう。ありがたいことだ。

今日も朝御飯を5分で食べていそうで学校に行き、絵を描いていた。

すると、

「...こんな画風なのか。」

後ろを見ても誰もいなかった。

「そっちじゃない。」

右を見たら...いた。何に関しても無頓着で無愛想な鬼奈子さんが。

「んあ?なんか用か?」

鬼奈子さんが自分から話しかけてくるとは珍しい。今日はどしゃ降りにでもなるんじゃないだろうか。

「...」

鬼奈子さんは無言でなにかを見せてきた。それは、僕の大事なスマホだった。

「っ!?誰にも言ってないよな?」

鬼奈子さんは無言でうなずいて去っていった。

すると急に空が暗くなり、強い雨が降り始めた。

って....本当にどしゃ降りになったし!どうなってんだよ!今の天気!

鬼奈子さんは急に降りだした雨にも驚かず、窓から空を見ていた。

「よお!すまんな。見ていたぜ?お前が鬼奈子さんからスマホ受けとるの。」

秋山が急に話しかけてきた。

「ば ら す な よ ?」

僕は秋山と言えど、誰かに話しそうだから忠告しておいた。

「わあかってるって!ばらさないから。な?俺たち友達だろ?」

「そうだな(笑)ところでおまえ今日うちに来る?面白い話と、今流行りのゲームがあるぜ?」

「おっあれか、バトロワだよな!」

「そうそう。昨日PCに入れたからやらない?お前いいノートPC持ってるだろ?」

「おっじゃあ行くか!泊まりで!」

「ええ(笑)泊まり?」

「いいだろ?な?(笑)」

「じゃあお前許可とってこいよ?親に」

「オーケー!お前も許可とれたらLINEくれよな!」

その日はいつものルーティーンをし、母に電話をして許可を取った。今日は母は夜勤だそうだから父さんと僕と秋山だけになる。男三人って心配だな...

「ただいまー!おい哲郎、今日は母さん夜勤だそうだぞー」

父さんが帰ってきた。

「知ってるー!あと今日は秋山泊まりかもしれなーい!」

父さんは普通のサラリーマンで、最近出世したそうだ。今日は珍しくいつもより早く帰ってきた。

「おう!じゃあ今日はビールなしか!とほほー...」

「ま、秋山とゲームするからそれを見ておいたら?」

「やだもーん!父さんだってやるぞー!」

父さんはいつもこんな調子だ。面白くて優しい。素晴らしいお父さんだ。参観日に来てもなんにも恥ずかしくない。

「じゃあ一緒に分隊組む?」

「おう!一緒に戦おう!」

テレロローン。秋山からRINEだ。なぜかPCのRINEで送ってきた

「許可もらったぜ!ヒャッフー!ってなわけでそっちはどうだ?」

僕はすぐに文字を打つ

「許可もらったし、今日は男三人でゲームだぜ!」

「シャア!今からそっちいくわ。自転車止めるとこある?」

「いやいやw家近くなのに自転車で来るやつおるか?w」

相変わらず秋山は面白い。ちょっと笑ってしまった

「wwwじゃ!歩いていくから心の準備よろしく!」

いやなんの心の準備だよ(笑)

「え?怪物にでもなってこっち来るのか?w」

僕がそう打つと、不思議な返信が帰ってきた。

「女子が一人来るらしいから心の準備をよろしく!w」

僕はビックリして椅子から転げ落ちた。

「ん?哲郎どうかしたか?モゴモゴ」

父さんがなにかを食べながら聞いてきた。

「女子がひとり来るんだって」

「おう!ガールフレンドか!」

「違うわっ!(笑)」

お父さんあるあるだ。女子と聞いたら「ガールフレンドか!」というのは。

ガチャン!ドアが開いた。インターホンをならさずにうちに入ってくるってことは秋山だ。

「よう!お邪魔してるぞー」

僕は階段を降りて会いに行く。

「おう!お邪魔しますだけどな!(笑)」

「やあ秋山くん!どうもだ!」

「おはようございます山のお父さん!」

「はっはっは!今は夕方だぞー(笑)」

僕たちは笑いながら自分のノートPCを出してゲームを起動した。

ピーンポーン!インターホンがなったので僕はドアを開けに行く。例の女子か。誰だろう?

開けてみるとそこにいたのは鬼奈子さんだった。

「...」

「あ、ど、どうぞ、入って」

いくらコミュニケーション力が高くともこの人には効かない。何せ目を会わせたくないほど出会ったとき気まずいのだ。

「...お邪魔します。」

「初めましてだな君は!お名前は?」

父さんはすごい。こんな相手にも普通の態度ができるのだ。

「...鬼奈子です。」

「そうかあ鬼奈子ちゃんか!よろしくな!」

鬼奈子さんは「ちゃん」と呼ばれて少し恥ずかしいようだ。顔を下げる。

鬼奈子さんは以外とゲームが好きらしく、とてもうまい。

「あ!そこそこ!敵!」

「...」

すごい...弱い銃でもずんずん進んで敵を倒す。

「すげえ...MP5だけで10キル...」

ゲームがうまい秋山でも圧巻なほどだ。

「鬼奈子ちゃんはゲームがうまいんだな!珍しい女子だなあ...」

今時はゲームがうまい女子なんて山ほどいるのを知らない父さんはそんなことを言っている。

『しゃあああ!勝ったああ!』

そう鬼奈子さん以外が叫んだ。鬼奈子さんは早々に立ち上がり、

「使っていい食材は?」

と聞く。

父さんが今週の献立メモを見て、使っていい食材を説明する。

「ちなみに鬼奈子ちゃんのお母さんとかはどんなお仕事してるの?」

変な間があった。

そして、鬼奈子さんは

「親、いない。子供の頃事故で死んだ。」

回りの空気が凍りつく。

恐らく聞いてはいけない質問だ。

だが、鬼奈子さんだけは淡々と手を動かしている。

「ご、ごめんな、...じゃ、夜ご飯よろしくな」

楽しくゲームをやれる空気ではなかった。

鬼奈子が作ったのはカレーだった。とても美味しかったが、みんな沈黙していた。

ご飯の後は空気は普通に戻っていたが、誰しもが鬼奈子さんのことを少し気遣っていた。

気が付くともう夜中の12時。父さんは先に寝てしまった。

僕と秋山と鬼奈子だけで最後の一プレイをして寝る準備に入った。

「鬼奈子さん、スペースないから一緒に寝るようになるけどいい?」

鬼奈子さんは無言でうなずき、一番端の布団を指さした。

「じゃあお前はこっちだな!」

秋山が鬼奈子の隣の布団を指さす。

「いやお前行けよ(笑)」

「えー(笑)」

「・・・あっすいませんでした・・・」

鬼奈子が鋭い目でこっちを見てきたので何も言わず、鬼奈子の隣で寝た。

夜中は秋山にけられたが、まあまあ良く寝れた。多分鬼奈子の隣が秋山だったら秋山はぼこぼこにされていただろう・・・

鬼奈子は美人な割には怖く、小学校の頃は本気で怒って悪口を言ってきたボクシングを習っている三人の男子をいともたやすく泣かせたらしい・・・

僕は秋山のおかげで早起きをした。今日は土曜日。今週は三連休だから多分秋山は2泊だろう。鬼奈子はどうなのだろうか?まあ多分帰るだろうけど。

僕は秋山と鬼奈子が寝ている部屋を出て、脱衣所で顔を洗う。全員分のパンを取り出し、トースターで焼く。

「おはよ哲郎。朝早いねえ・・・」

母さんが寝ぼけた顔で起きてきた。

「ん。とりあえず顔洗ったら?」

「じゃあ朝ごはん頼んだよ~」

そう言いながら脱衣所へ化粧入れをもって向かう。

僕はトースターでパンを焼いてる間に卵を5つ取り出し、そのうちの3つを割ってフライパンに入れてすぐ水を入れてふたを閉め焼く。

トースターが鳴ったら次のパンを2つ入れてまた待つ。母さんはテレビをつけてニュースを見ている。フライパンの卵がいい具合になってきたら次の卵を割って同じようにする。

野菜室からレタスを取り出して、ちぎって盛り付けて、ドレッシングとマヨネーズを机の上に出しておく。

そこに鬼奈子さんが起きてきた。起きたばっかりなのに目が全然眠そうにない。

次に秋山が階段から下りてきた。

「あら、この子は?聞いてたのは秋山君だけだけど」

「初めまして。鬼奈子です。お邪魔させていただいてます。」

「あら、鬼奈子ちゃん。よろしくね。」

僕は鬼奈子さんが顔を洗ったりトイレに行ったりしているうちに、鬼奈子さんについて説明した。質問してはいけないこととか、性格とか。

母さんは一通り聞いた後うなずいたので安心した。

朝食を食べた後はみんなで宿題をした。鬼奈子さんは黙々と問題を解いているが、一人で解決できるような問題ではない。僕と秋山は教えあいながらやってようやくできたが、終わったころにはもう鬼奈子さんはゲームをしていた。

「今日は別のゲームみんなでやろうよ」

僕がそう提案すると鬼奈子さんと秋山はすぐに了解してくれた。

「これなんかどう?」

NE GAMES社が出している「Last Health」という様々なモードで遊べる3Dオンラインシューティングゲームを提案すると、

「もう持ってる。」

と鬼奈子さんは言った。少々乗り気なようだ。

「お、いいぜ。ちょっと入れるから待ってろ。」

僕と鬼奈子さんは秋山がゲームをインストールしている間に試合をしたが、異常なほど上手い。もうゲーマーを疑うレベルで上手い。なので運営が「これクリアできるやつおらんやろ」という感じで設定したミッション「ネメシス」をクリアしてしまった。内容は連続で20試合を勝つことだった。

「入れたぞ。ゲーム操作はminecratteと一緒か?」

「ああ。WSADの操作と、SHIFTでダッシュ、クリックで射撃、右クリックでエイムだ。」

「オーケー!じゃあやりますかねえ!」

秋山が入ったらもう絶対試合は勝てる。

その日は一日中ゲームをした。見事なまでに全勝だった。

昼ご飯は母さんの手料理だった。鬼奈子は黙って食べていたが、鬼奈子さんの性格を知っている母さんは何も言わなかった。

その日は夜中までゲームをせずに寝た。鬼奈子は母さんと何か話しているが、盗み聞きはNGだ。ガールズトークを盗み聞きするのは重罪だからな。

寝た後にまたあの空間が広がる。

「やあ、また会ったね」

あのおじさんがいる。あの神様が。

「どうだい?彼女候補とかできたかい?」

できるわけがない。多分鬼奈子さんのことだろうが、好きになる気は全くない。

「NO。いないよ。」

おじさんは少し驚く。

「ええ!?ちょとまて・・・僕の台本では君が鬼奈子を好きになっているのだが・・・」

台本があるのか・・・僕はちょっと困惑した。

「不味いな・・・だいぶ未来が変わってしまうぞ・・・」

「そんなに変わるんですか?」

「いやそれほど世界は変わらん」

まあ、だろうな。僕と鬼奈子さんが付き合ったぐらいで世界は動くわけないし。

「ま、まあ・・・別の"シナリオ"を用意すればいいか・・・」

だいぶ神様は焦っているようだった。僕も驚いた。神様の「台本」に逆らうとは・・・僕ヤバくない?と

「あ、罰とかそういう心配はいらないからな。・・・ただ・・・この台本と違うことになったのはお前だけだ・・・おめでとう」

いやいやいやいや。何がめでたいんだ?神様としては一大事だろ・・・

「じゃあ・・・まあ、話すことないんで起きていいですか?」

なかなかこのワードを言うことはないだろう・・・多分貴重な体験をしたはずだ・・・

「ああいいぞ。呼び出してすまなかったな。」

そこで目が覚める。鬼奈子さんが隣で寝ていた。秋山はやっぱり寝相が悪い。

今日は母さんが鬼奈子さんの手料理を食べてみたいと言ったので、鬼奈子を起こそうとしたら急に起きたので驚いてタンスの角に頭をぶつけてしまった。鬼奈子さんは頭を抱えていたがっている僕を少し見た後、階段を下りて行った。

鬼奈子さんが作ったのはみそ汁と、ご飯と、鮭のムニエルという日本の代表的な朝ご飯を作った。母さんはおいしい、とか腕がいい、とか言いながら食べていたが褒められた鬼奈子さんはすごく恥ずかしそうだった。

今日は近くのショッピングモールに行くことにした。行く途中に横田と原田さんがいたので一緒に行くことになった。

「どうだ?横田。」

「まあ、原田さんも喜んでくれてるし・・・いいと思う・・・」

「ところであの子は誰?クラスにいたような気がするけど・・・」

「ああ、鬼奈子ってやつだ。なんかうちに泊まりに来たから、秋山と僕とシューティングゲームしたりしてるよ。」

「つ・・・付き合ってたりとか?」

「いやいやいやいやいやいや!ないない!」

「だよね・・・(笑)」

付き合ってからも性格は全く変わってないようで安心した。これで思いっきり変わったら分かれる羽目になっていたかもしれないからな・・・

ショッピングモールを回っていると、鬼奈子さんがいなかった。探してみるとホビーショップでエアガンを眺めていた。原田さんが話をしてくれると言ったので、まかせた。

原田さんは笑顔で鬼奈子さんに話しかけて回る店を説明してくれた。助かる。

「おい横田。いい彼女持ったな(笑)」

「まあ、うん」

僕たちが一通り回ったあと、12時になったのでフードコートに行くと、箱を持った鬼奈子さんがいた。もう食べた後らしい。僕たちは鬼奈子さんのいるテーブル席とほかのテーブルをくっつけて五人席を作った。みんな食べるものは様々で僕は桜屋の海鮮丼にした。

そのあとは鬼奈子さんがクレーンゲームで大量にぬいぐるみを取ったぐらいしか出来事はなかった。やはり鬼奈子さんはゲームが上手いらしい。

秋山と鬼奈子さんはそれぞれの家に帰っていった。なんとなく疲れた気がする。

その夜は例の夢を見なかった。

朝、学校に行くとなんだかざわついていた。

うちの学校を代表する問題児大山が鬼奈子さんの猛攻を受けて泣いていたのだ。

周りのやつらは驚きのあまり固まっていたので僕が先生に報告して、なんとか大事にならないですんだが、大山は右の腕を骨折していた。いつものように低学年に怒鳴り散らしている大山は恐怖のあまり下を向き黙っていた。僕は第一発見者として校長室へ呼び出されて、事情を聴かれたが僕は報告しただけなので事情を知らないと説明するとすぐに返してくれた。後で聞いた話なのだが大山が最初にわざと鬼奈子さんにぶつかって無視してしそれで腹を立てて殴ったところ、鬼奈子さんにやられたらしい。ちなみに、その時の鬼奈子さんの様子は名前の通り「鬼」のようだったと、誰しもが言っていた。

やはり、秋山の隣に鬼奈子さんが寝ていたら秋山が危なかっただろう。

にしても腕をすぐに折るほどの力を持つ鬼奈子さんは恐ろしい。何があったらそんな力が付くのだろうか・・・

その日から鬼奈子さんは学校で有名になり、「鬼」として恐れられるようになった。

やっぱり鬼奈子さんを好きになるのはないな・・・

・・・鬼奈子さんには不自然な点がある。なぜ子供が一人暮らしをしているのか。

ふつうは親族の元で暮らすのだが・・・。それと、食費はどうしているのか。中学二年生が稼げるわけがない。どこから食費が出ているのだろうか・・・

あと、「鬼奈子」という名前も不自然だ。わが子に鬼と名付ける親はいないと思うのだが・・・

僕はそれ以上考えてはいけないと思い考えるのをやめた。

もうあの明晰夢は定番化していて、もうあのおじさんとはゲームをする仲となっている。・・・神様とゲームするってすごくないか?

そしてある日、秋山がこんなことを言ってきた。

「昨日変な夢を見たんだよ・・・50代くらいのおじさんが恋愛関係の話をしてきたんだよ・・・」

「おまえ・・・それ、いろんな人が見ているみたいだぞ?」

「えっお前も見たことあるのか!」

「ああ。もうあのおじさんとゲームする仲だ。」

「ええ(笑)めっちゃ仲いいじゃん(笑)」

今日もあの夢を見る。

だが、今日は部屋の外にいた。中から鬼奈子さんの声が聞こえる。

「...だれ?」

「誰と言われてもなあ...おじさん。かな?」

「...。」

「やっぱり無愛想だなあ。」

「失礼な。」

「おっと、すまなかった。」

「ところで君は恋愛に興味はあるかい?」

「.............。」

長い沈黙が流れる。

「私に恋愛なんて関係ない。私は友達すらいない。」

「いるじゃないか。山田くんが。」

「!....」

「なんで知ってるの?」

「まあ...うん、超能力みたいなものさ。」

僕と同じ感じの話をしている。超能力じゃなくて神様だからだよ・・・

「・・・私がなにかも知ってるってことね。」

「ああもちろん。の前にお客さんだ。」

目の前の障子が開く。

「すまん、聞いてた。」

「いいのだが...どうやって入った?ここは一人が入ってる間は入れない空間だよ?」

おじさんが戸惑った表情で言ってくる。

「聞いちゃいけないよな、あの質問の答えは。」

「・・・聞いたら、殺す。」

「あ、ああ...じゃあ先起きるよ...」

「それじゃ。少年。」

鬼奈子さんはいつもより怖い顔をしていた。どういうことなのだろう。「私がなにかも知ってるってことね」という質問。

その日から鬼奈子さんは僕を避けるようになった。

そんなある日。その日の夜を境に全く明晰夢を見なくなってしまった。

僕はまあ、それでも別に慌てることはなかった。恐らく人がいるところに入ってしまうといういけない行為(?)をしてしまったから追い出されたのだと思う。

今日も授業開始まで絵を描く。と、視線を感じたのでそちらを見てみると鬼奈子さんがいた。

僕が見ると鬼奈子さんはそっぽを向くのでなんだか面白くなり遊んでいると、親指を下に立てられた。これ以上やるとボコボコにされるのでやめておいた。

明日は席替えだ。


朝学校に来て、場所を確認すると不運なことに鬼奈子さんの隣だった。ものすごく気まずくて、勉強に集中できそうになかった。

秋山は普通の女子の隣だった。

「ラッキーだったな(笑)鬼奈子の隣で」

「いやいやいやいやめっちゃ気まずいぞ...(笑)」

英語の時間でペアでやるやつが一番怖かった。

なので基本、やらなかった。

たが、鬼奈子さんに一回だけ話しかけたことがある。鬼奈子さんが珍しく筆箱を忘れてボーッとしていたので

「シャーペンと消ゴム貸そうか?」

と言ったら無言でうなずいた。とても恥ずかしそうだった。

そんなある日、机の上に紙がおかれていた。「鬼奈子。RINE ID。」

とだけ書かれていた。僕はその紙を筆箱にしまい、家に帰った。

RINEに鬼奈子さんを追加して数秒後に早速メッセージが届いた

「夏休み、お前の家にいっていいか?」

僕は突然のメッセージに驚いたが、

「来てもいいが...いつだ?」

「夏休み中ずっと。」

い!?夏休み中ずっとうちにいるのか!?それは少し困るかもな....鬼奈子さんが家にずっといたという噂がたっては学校にいけなくなるし。

「心配要らない。食材、全部自分で買ってくる。」

そういう問題じゃないんだよなあ....

「なんでうちに来るの?」

「............寂しいから。」

いやいや。そんなことあるのか...まあ、学校もいかなくて、家には一日中誰もいないってなったら寂しいか...

「...だめ?」

「許可もらってくる」

僕は母さんと父さんに電話をしたが、どちらとも

「僕がいいならいい」

だった。まあ、別にいいか・・・鬼奈子さんは独り暮らしだからばれにくいし。

というわけで夏休みに入ると、大きなカバンを持った鬼奈子さんがうちに来た。両親は温かく迎えたが、ふつうは異常なことだ。親戚でも夏休み中ずっと泊りに来ることはない。

はあ・・・毎晩毎朝鬼奈子さんに会うことになるのか・・・少し心配だ。

毎晩毎朝会う割には全然僕と鬼奈子さんは仲が良くならない・・・というかあっちから突き放しているような気がする。より一層気まずくなるからやめてほしい気持ちもあるが、まあそれが鬼奈子さんの性格なのだろう。鬼奈子さんは毎日ゲームをしているが、視力とかは落ちないのだろうか・・・

ある夜、腕が痛かったので起きようとしたが左を見てみると鬼奈子さんが僕の腕に抱き着いて泣いていた。本人は寝ているようだが、何か怖い夢でも見ているのだろうか。とりあえずそのまま寝た。朝になると鬼奈子さんは向こう側で寝ていたので安心した。僕に抱き着いて寝ていたことを知ったら鬼奈子さんもう完全に心を閉ざすであろう。にしても抱き着く力も強いのか・・・

僕の腕はまだ痛かった。何時間抱き着いていたのだろうか・・・

朝ごはんは僕が作り、昼ご飯は鬼奈子さんが担当することになった。鬼奈子さんは料理は上手いのだが、基本的に和食しか作らない。前に寿司を作っていたがその材料費はどこから出したのだろうか。

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