10-②

 映画を見終えて、俺らは下の階にあるロッテリアで夕飯を食べることになった。しかし俺にはお金がありません。仕方ないだろ、多数決で負けたんだから。民主主義と資本主義を赦すな。ブルジョワジーに正義の鉄槌を、と益体もないことを考えながら、鋼の意思で提示されるあらゆるサイドメニューを突っぱねて、なけなしの一七〇円を支払う。

ちなみにロッテリアは千葉を本拠地にする野球チーム、千葉ロッテマリーンズを所有するロッテの系列だ。つまり千葉に馴染み深い……わけでもない。千葉県の学生もマックを使います。ここにマックがないだけです。ロッテリアとかモスバーガーで飯食うとオシャレな大人になった気がするよね。まあハンバーガーしか頼んでないからほとんどそんなこと思っていないけれど。

テーブルにつくとすぐ、隼人が楽しげに語り始めた。

「いや〜面白かったな!特に最後の主人公の父親が親指を立てながら沼に沈んでいくところとか!危うく泣くとこだったわ!」

「隼人くんダメだよそんな大声で感想言ったら……。まだ見てない人もいるかもしれないんだから!」

 めっ!といった感じで注意する歩。俺もネタバレして怒ってもらおうかしら、なんて考えながらむぐむぐとハンバーガーを頬張る。高いぶんちゃんと美味いな、うん。

 映画は……まぁ面白かったな。原作のマンガ読んでたからどこまでやるのか気になってたけれど、キリがいいところで終わっててよかったんじゃなかろうか。実写にありがちな大幅な改変もないし。俳優も申し分なかったろう、とかなんとか一人品評会をしていると不思議そうに二人が俺を見つめていた。

「……なんだよいきなりこっち向いて。顔になんかついてるか?」

 すると今度は互いに顔を見合わせて、『やれやれ……』といった風に肩をすくめて苦笑している。だからなんなんだよ。気になっちゃうだろ。隼人が俺の肩に手を置き、鷹揚に語りかけてくる。

「いいか?雄太、よく覚えておけ。気持ちとか考えがすっげぇ顔に出やすい人はまあまあいるんだろうが、お前はその五倍くらい顔に出る。どれくらい出るかというと、泊まりしてトランプでも麻雀でも絶対に負けるとは思えないほど顔に出る。役満狙ってる時の顔は写真撮りたくてしかたなかった。」

「雄太くん、今日ずっと浮かない顔してたんだよ?気づいてた?」

 俺は言葉を失った。これで俺の周りの人全員に同じことを言われたことになる。てか気づいてんなら早く言えや。恨みがましい俺の視線をすり抜けて隼人は続ける。

「俺は別にお前の修羅場に一ミリの興味もねえ。刺されたら笑ってやるけどな。…ただまぁアレだ、あの二人がクラスでピリピリしてるとちょっと過ごしにくいっていうか?歩も怖がるし?部活にも支障あるっていうか?」

「まぁそんな感じにしとくよ」

 尻すぼみになっていく隼人の声を聞きながら、大人びた顔をして笑う歩。……そうかよ。心配してくれてたのかよ。良い友達を持ったなと少し思ってしまった。いやまったく。

「……わかったよ。ありがとな」

 俺はぽりぽりと頬を書きながら礼を言った。照れが入ってるのが見て取れたのか、二人はふっと破顔する。ありがたいけどやっぱりなんか癪だな……。こいつらとはもう賭けとかやらないでおこう。絶対負けるし。

「まぁ頑張ってくれよ、企業見学でなんとかするんだな。せっかくこんなクソ田舎から東京の都心まで出るんだから」

「おい千葉バカにすんなシバき倒すぞ」

「なんか怒るポイントが違うような……?でもまあいつもの雄太くんに戻ってきたしいっか‼」

「さてと、飯も食ったしぼちぼち帰るか。いい具合に休めた気がするし」

 二人は俺の千葉愛を軽くいなしてから帰る準備を始めた。そういえばこれこいつらの慰労も兼ねてたんだったな。まぁしかし、俺らのせいでちょっと負担をかけてしまっていたのならちょっと申し訳ない気がしてきた。もし歩の疲れが取れてなければ別個で対処しよう。隼人は自分で休めたつってるし大丈夫だろ。

 ちらりと時計を見れば、結構な時間になっていたので俺も隼人の提案に乗ることにする。

「職場見学ねぇ……明日朝早いんだよな確か。そうした方がいいかもな」

 俺らが選んだ企業は料理レシピを紹介したりする会社で、本社が恵比寿にある。恵比寿ですよ恵比寿。あの大都会ですよ。現地集合現地解散。素晴らしいですね。いつもより早起きしなければいけないのが玉に瑕だけど。

「じゃあ帰ろう!」

 言うが早いか、歩がバッグを持って立ち上がったので、俺らもそれに続いた。とりあえず明日の目標は立ったし、頑張ることにしよう。

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