ぽむぽむ妖怪奇譚 〜妖怪すねこすり痴漢冤罪者を救う〜
また市21
第1話 出会い
7月25日23:00
「くそっ、冤罪だ」
7月の終わりに近づいても梅雨が明けず、じっとりとした湿気が中村康介の苛立ちに拍車をかけていた。なぜ自分が痴漢で捕まり、留置場にいるのか。自問自答を繰り返しても答えなど見つかるはずもない。
30半ばを過ぎた昨年に結婚をし、郊外にマイホームを建てた康介にとって、つつがない人生こそが至上命題となっているはずなのに。
妻が海外旅行に出ていて、知られていないのがせめてもの救いだった。だがそれも時間の問題だ。
「痴漢は男が圧倒的に不利だって、本当なんだな。ろくに調べもしないで状況証拠だけで、、、しかしよりにもよってなんであんな物を持っている時に」
「板垣かすみ、夏服オフィスワーカー痴漢バス」
「えっ、誰?」
「副題は〝夏のむれたパンスト祭り、セイヤ!〟だったかな。なかなか良い趣味をしている。オレはニーソ派だがな」
康介が声のした留置場の暗がりにじっと目を凝らすと、そこに目を爛々と輝かせる何かがいた。
茶褐色の被毛は硬く、でっぷりと丸みをおびた体型は異様な存在感を放っている。
「しゃべる猫?」
「はいきたー。初見で言われること第一位!まぁ、君が悪いってこともないんだけど。同じこと言われると、もう少し気の利いたこと言えないのかなって思っちゃうわけよ。マンネリ感否めないのよ。じゃあ正解を教えてって、言われると困っちゃうんだけど。たまには〝あれ、あなたは生き別れたお父さん〟、〝いやいやお父さん毛深すぎるっしょ〟くらいの飛び道具がたまには欲しくなるわけよ」
「いやむしろ、分類自体が違う気が、、」
「分類、、、お前インテリか!リンネか!分類学の父か!そういえば乳といえば、板垣かすみもAVにカムバックした時に乳がでかくなったような」
「うわー、おじさん。そうやって下ネタを無理に連想させるのやめた方が良いですよ」
「お前もおじさんじゃねえか。30過ぎたら、すべからずおじさんだよ。それにしても雑誌でも特集してる大人男子ってなんだよ、〝大人男子は夏こそショーパン〟って誰得よ。スネ毛を隠せと声を大にして言いたいね。まぁ、女にも図々しい奴はいるけどさ」
「えっ、ちょっと待って」
「なんだお前もいつまでも〝少年の心を忘れないオレ〟が好きなタイプか」
「なんで僕が捕まった時の持ち物を知ってるんですか?板垣かすみのAV販売握手会に行って、その帰りにあんなことになって」
「それが決定的な状況証拠ってわけだよな。警察の方もお前が痴漢趣味のあるヤバい奴って、最初から決めつけてたものな」
「えっそれが、そのあなたは一体、、、」
「すねこすりだ。オレの名は妖怪すねこすりだ」
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