AllWish

AILI

第1話 プロローグー夢園ー

 不思議な感覚で目が覚めた。気が付けば暗い空間の中を浮遊していた。

 その現実感の無さにこれは夢だとさとった。

 体は宙を浮いているだけで体は動かせる。

 振向いたりもしたが、辺りは真っ暗で闇そのものだった。

 足元に違和感を覚えた僕は視線を下に向けると白く光る床が見えた。

 すると体が沈むように純白に光る床に近づいて行く気がして、

―僕はあの床に着陸するんだとそんな予感がした。

 そしてそのまま足はその床の中央にゆっくりゆっくりと降りて足から頭にかけて重力を取り戻していった。

 目的地であろう所に着いてみたものの結局何もすることがない。

 床と闇の境目を見つめて床の外側は足が着くだろうか、歩けるだろうかという疑念が頭に浮かんだ。

 最悪の事態を想像していた時にその声がした。

―やあ、待っていたよ

 僕一人だけしか居ないこの空間で自分以外の存在が居ることに驚愕して辺りを見回して声の主を探すが暗闇の中何も見えるものはない。

「はぁ…気のせいか」

 この空間にいる自分の第一声が閑寂かんじゃく木霊こだまして虚しく感じていると

―気のせいではないよ。君には尋ねたい事があるんだ。何もやる事が無いんだろう?退屈凌ぎにいいだろう

 明らかに先程の声の主が存在して居る事が解る。内心、安堵あんど焦燥しょうそうを感じている僕を他所に声の主は淡々と喋る。

―君には選んでほしい

 そう言って僕の目の前に三つの光が現れた。

 右から順に赤、青、緑と並んでどれも自分を主張する様に輝いている。

―君にとって必要なモノ、守るモノ、捨てるモノを

「なにこれ?」

―単なるチカラだよ。さ、選んで。最初は君が必要とするチカラ

 小さい頃からゲームをしてきた僕は思った。

 ゲーム特有のチュートリアルみたいな夢だと。

 だとしたら、僕はゲームのし過ぎで、自分がそんな主人公に憧れてゲームのチュートリアル、ましてや主人公特有のステータス設定イベントを目の前に突きつけられる妄想を遂に夢にまで見てしまった、と。

 明晰夢(めいせきむ)まで見てかなり重症だ…もうゲームは控えよう、そうしよう。この夢が覚めたら顔洗って、メシ食って、学校行って部活して、家帰って、メシ食って、早寝しよ。うん、我ながら完璧なプランだろう。だがまずはこの夢から覚めなきゃ。ステータス設定だろう?初めは体力?攻撃力?防御力?だろうか…取敢えず、赤を選ぼう。夢だし親切設計で説明してくれるはず…。

 僕は赤く光るチカラとやらを指差した。

―なるほど、君はそれを選ぶんだね。じゃあ次は―――――――――

あれ?

「待て待て待て待って、ちょっと待って!」

 動こうとしていた赤い光を意地でも止めようと両手でそれに触れる。

―チカラに触れずとも全て分かるのかと思って感心していたけど、なんだ。違ったのか。

「当り前だよっ!神でなきゃあんなスゲー事できねーから!俺の夢だろうがっ!親切設計にしろよ!」

―君の言語はやや理解不能な箇所があるね。僕ももう少し勉強しておくよ。それと、いつまで抱きついているつもりだい?

 声の主はそう言うと赤い光はより一層輝きを増した。慌てて両手を光から放すとゲームでよく見かける剣に形を変えた。

「スキップ出来ない系のムービーイベント並みに何か疲れたよ。いや~一時はどうなるコトやらと思たヨ~、明晰夢って疲れるんだな~。これ何?攻撃力?」

―ほんの少しだけど君の言語が分かったかも、それは正義を貫くチカラだよ。自分を正当化する為ならどんな犠牲も厭わない傲慢なチカラ。君はこのチカラが必要かい?

「おう!攻撃力だな?剣だからあたりまえか。攻撃は最大の防御だからな!俺はそれが必要だ」

 そう言うと、剣はまた元の赤い光に姿を戻して暗い空間の上に飛んで行った。

「意外と凝ってるな~俺の夢。グラフィックちょ~キレー」

―次は守るチカラだ。二つのうちの一つを選んで

 僕は青い光と緑の光に目をやる。僕は順番に沿って今度は赤い光の隣にあった青い光に触れてみた。青い光はさっきの赤い光と同じ様により一層輝きだした。先程とは違い、剣ではなく魔法使いが使うようなロッドに形を変えて。

―そのチカラは夢と希望を信じ信頼し奉じるチカラだよ。闇に染まれば悪辣に与奪も排除も容易に出来る卑劣なチカラ。君はこのチカラを守るかい?

「あー。死亡フラグやらなんやらが乱立するやつですわぁ~こりゃ。だが、俺はそんなデンジャラスなチカラを守る。いや、守りきろう!」

 そう言うと、青い光は赤い光を追かける様に上に飛んで行った。

―そして君はこのチカラを捨てるんだね

 声の主はそう言うと緑の光はスゥと音も無く消えた。

「何だったんだろ。確認すりゃあ良かった………」

 そんな時後ろから物音がした。

 顔を後ろに向けると、宝箱があった。僕は迷わず宝箱に近づいて開けた。中には得体の知れない液体の入った瓶があった。それが序盤に与えられる回復アイテムだと僕は瞬時に判断して、手に持てるだけ持って、服のポケットに入るだけ入れた。残りの瓶も手に入れないと勿体無い気がして、結局腕いっぱいに抱えた。自分で自分を褒めてやりたい!

―君はとても勇敢な勇者になるだろう。そんな君はあまりにも光が強すぎる。光は強ければ強い程対立する闇も同等に存在し強くなる。光は常に人を照らす。その光はやがて人に影を作らせる。光が強ければ強い程影を長く、広く、濃く伸ばして闇を産む道となり闇が光を…君を呑み込もうとするだろう

 回復アイテムに気を取られていて分からなかったが、声の主が話している間に僕の背後には今声の主が言っている影が大きく広がっていた。

―どうか忘れないで

 僕は耳を疑った。そしてその後今度は目を疑った。僕の足元で大きく広がる影が自ら動き出して、怪物と化したからだ。巨体から見下ろしてくる淡黄たんこう色の眼が僕を見据える。

―光には必ず影が在る事を。それが皆に憑いて居る事をその目は語っていた。

 こんな危険な状況の中、声だけが淡々としている。影の怪物の大きな手が僕に近づいて来る。僕は目を閉じて恐怖に慄く。

―それを取除くのも光である事を

 その声の主が言うと、怪物の手から徐々に光の粒子が出て来て上に徐々に飛んでいく。やがて消えた時に、怪物の居た場所に光輝く剣が床に刺さった状態であった。これが自分の初期装備と判断して近づいた。その剣は近づく度に眩しく煌いた。

―決して挫けないで。君は選ばれた光の勇者だ————

 その声を耳にして僕はニヤつきながら片腕で回復アイテムを抱えながら手を剣に伸ばすと同時に今まで何も起きなかった床が僕を中心にして亀裂きれつが入り、破れた。

 時間が止まった様に滞空たいくう時間を感じて零れ落ちる回復アイテムの瓶と光輝く剣を眼だけで捕える。さっきの声だけの主の言葉が頭で流れる。体が急に重くなり、重力が働いた事を理解し、意味もなく手を剣に触れさせようと伸ばす。

 そして届く筈も無く僕の体は急速に光の無い暗い底無しの空間に堕ちた—————————

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