ロボとチートで異世界生活

岡島

プロローグ

1「旅立ったら異世界」

(僕は、今、異世界にいる)


 夜空に浮かぶ、二つの月を見ながら、その青年、煌月達也は思った。


 彼は、今年で二十歳なので、青年と称したが、見た目的には、若く

少年と言う方が会っていると言いたいが、

その顔は、女性的で、声も高めの為、初対面の人は、

少女と認識してもおかしくない。


 さて自分が異世界にいると認識した彼が、最初に思った事は


(旅費が無駄になったな)


達也は、旅行者、バックパッカーであった。異世界に来る直前、

彼がしていたのは大きなリュックをしょって、家を出て、

駅に向かい歩いていた。そして途中、落とし穴に落ちたような感覚がしたと思うと

気が付くと、森の中にいた。


 その時は、日は上っていて、突然の事に訳が分からなかったものの

暫く森をさまよいながらも、野営に適した場所を見つけ

一人用の小型のテントを設営

獣除けの為、枝を集め、焚火をし、持っていた缶詰を、その日の夕食とした。


 彼の旅は、ちょっとした国内旅行と言うものではない。

長期にわたる放浪を想定し、それに合わせて道具も持ってきている。

だからこんな森の中に放り出されても、問題はない。


 食事を食べ終わった達也は


「ふぅ……おいしかった」


と言って一息つき、そしてポケットから

黒く小さい長方形のキーホルダーを取り出した。

キーホルダーには直径1cm位のランプがついているが、

それが、青白い光を発していた。


「やっぱり、いつもと違う」


なお、光を発しているのは、いつもの事、このキーホルダーのランプは

達也が手にすると、光るのだ。

彼が違うと言っているのは、雰囲気的なものである。


 このキーホルダーは、昔から不思議な存在であった。

これは、幼いころ公園で、知らない女子学生から貰ったものだ

見ず知らずの人からものを貰ってはいけないと言うが

達也は直感で、この女子学生は、信頼に値すると思い

本来なら、そのまま、受け取るところ、しかし受け取りにくい理由があった。


「ちょっと待て、それ落とし物だぞ」


女子学生には、連れと思われる二人の男子学生がいて

その一人が注意をした。そのキーホルダーは拾得物であった。

達也も、拾う瞬間を見ていたので


「だめだよ、交番に届けなきゃ……」


と言ったので、女子学生は


「それも、そうね……」


と言った後


「貴方が拾った事にして交番に届けなさい」。


押し付けるように、キーホルダーを達也に渡した。


「それもどうかと思うぞ」


と男子学生が言うが


「あのキーホルダーの、落とし主は絶対に、現れないわ……」


この後の会話は、上手く聞き取れなかったが


「……強い『因果の糸』で結ばれてる。あれは、あの子が持つべきものなのよ」


と言う話は聞こえた。


 その後、女子学生は達也のもとに来て


「交番に届けて、三か月経ったら、貴方の物になるわ

その時に、ちゃんと受け取りに行きなさい。受け取ったら大事にしなさい」


そう言って、女子学生たちは立ち去った。名前は聞きそびれた。


 その後、達也は言いつけを守って、キーホルダーを交番に届け

三か月後、落とし主が見つからなかったので、

キーホルダーは彼の物になった。


 女子学生から貰った時から、彼が触った時だけランプが付くと言う事があったが

このキーホルダーが、その不思議さを発揮するのは、

母親に付き添ってもらい警察に行って、キーホルダーを引き取った日の事である。

その時、彼は、何に気なしに、キーホルダーをいじっていて、

ランプに指がふれた瞬間


「!」


胸に、何かが刺さったような気がした。すぐにそれは収まったが

以降、不思議な事に、キーホルダーは、どこに置いてきても

いつの間にか彼のポケットに入っていた。ポケットが無い時は

彼の側、現れるようになった。


 不思議と言うよりも不気味である。この事を知った友人や先生、親族は

当然、気味悪がった。勝手に捨てようとした奴もいた。

でも常に達也の元に戻って来た。


 そんなキーホルダーを達也自身は、気味悪がることなく

常に、彼自身の意思で持ち歩いていた。

女子高生の言いつけを律義に、守っていると言う事もあるが

彼自身、このキーホルダーが、お守りの様に思えたからだ。


 この旅にも、当然キーホルダーを持ってきていたのだが、

丁度、この世界に来たあたりで、キーホルダーから、達也は

いつもと違う何かを感じていた。うまく表現できないものであるが


「さてと、ちょっと早いけど寝ようかな」


テントに向かおうとした時


「!」


この時、達也は、自分のもとに向かってくる二つの気配に気づいた。

一つは、彼の経験から、車じゃないかと思われるが、

人の気配を感じない。だと知れば無人で走っている車と言う事になる。


「暴走車かな?」


これは、危ない事であるが、実際の所は、何とも判断が付かない。

もう一つの方はと言うと


「なんだこれ、生き物みたいだけど、大きくて、荒くて……」


そしてもっとも、重要な事


「こいつは、僕の敵だ!」


最初の方は、生物じゃないからか、敵意を感じなかった。

もう一つの方は、明確な、敵意を感じた。


 そして、生物の方が先に姿を見せた。そいつは、空からものすごい勢いで

降り立った。衝撃で、火は消え、テントも吹き飛び、荷物も散らばった。

灯は消えたが、月明かりが、巨体を照らす。


「ワイバーン……」


達也も、RPGで遊んだことがあるし、ファンタジー系の小説、アニメ、映画も

見たことがある。それに出てくる竜の一種、ワイバーンそのものだった。


 達也は、さっきの衝撃で、怯んだものの、直ぐに体勢を立て直し、

武術の構えの様な、体制をとる。達也は、さっきから感じていた敵意を

ワイバーンを目の前にして、より強く感じる。


「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


威嚇のつもりか咆哮を上げるワイバーン。そして達也は思った

この相手とは、決して仲良くなれない。殺しあうしかないと。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


武器も持たず、素手で、自身の何倍もの大きさのワイバーンに

向かっていく達也、それは、一見、無謀あるいは絶望的な光景であった。




 一方、達也が、「暴走車?」と思ったものは、最初、洞窟に隠されていた。

それは、彼が異世界に来ると同時、動き出し洞窟を飛び出して。

彼のもとに向かっている。

 

 もちろん暴走しているのではない。そしてワイバーンがやって来た時には、

それを察知して更に速度を上げた。まるで彼を助けに馳せ参じようとする如く。


 やがて、達也のもとに到着するのだが、その時には既に事は終わっていた。




「ふぅ……」


 一息つく達也。その側ではワイバーンが屍になっていた。やがて


「車……」


それは、彼が暴走車と称したもう一つの気配の正体であるが

彼の近くに、スピードを落としながらやってきて、彼の近くに止まった。


「スーパーカー?」


 さて、異世界に行って、途轍もない何かを得ると言うのはよくある話

実際、達也もその予定、と言うよりやって来たスーパーカーの様な物が

それなのだ。


 しかし、それ以前に達也自身が途轍もない力の持ち主なのである。

それこそ、素手でワイバーンを倒してしまうほどに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る