第20話 依頼
~国境の町 オキサス~
昔は獣人国との商いが盛んだった町
国交断裂の影響もあり、今は苦しい経営状況下にある。しかし、その苦境の中でもギルドを中心として栄えている町だ。
キロスと別れてから、俺たちは国境の町でギルドに通う事にした。
本格的にギルドを利用したのは初めてだ。
ギルドカードってのも貰えたしな。
この世界に来て自分の力で入手した証明書って、これが初めてだよな。
心機一転、冒険者としてここから頑張ろう。
・ハナ
「ねぇ、裕樹。
ギルド依頼はどんなものをやるつもりなの?」
・「そうだな、、、基本的には討伐系かな。
割に合わなくて放置され気味の依頼を狙う。」
・ハナ
「放置され気味の依頼?」
・「そうだ、放置されているって事は報酬の割にキツイ仕事って事だろう?
その中には魔物が出現し、強敵過ぎて手が出せないって依頼があるかもしれない。
そんな依頼を受けようと思う。」
・ハナ
「そっか、元々レベルアップが目的だものね。
少しは無理して強敵と闘わないと強くなれない。
でも、いざとなったら逃げましょう。
死んでしまっては意味がないから。」
俺は深く頷く。
死んでしまっては意味がない、全くその通りだ。
だが、少しは無理をしないと短期間で魔族に勝てるほど強くなれない。
線引きをしっかりしておかなきゃな。
今、守るべき人はハナだ。
何を犠牲にしてでも守り抜いて見せる。
・「さて、どれにしようかな、、、」
俺は依頼掲示板と向き合う。
ここ数日で分かった事がある。
この町での討伐依頼は少ないらしい。
ランバート大橋建設時に近場のダンジョンは攻略された。
それから数十年、新しいダンジョンの発見は報告されていない。
さらに言えば、国交断裂と共に盗賊団も別の地に移動した。
結果、治安が良くなったと言うわけだ。
近隣の村と連携して、平和な日々を送る人々。
基本的には輸送の依頼が多くなる。
盗賊が居ないから護衛も少数で済む。
依頼が全然無いのだ、、、
良い事なんだけど、、、、ちょっとね。
・「平和な所だ、、、
こんなにも討伐依頼が無いとは。」
・ハナ
「王都のギルドなら、いつでも結構あるんだけどね。どうしましょうか、、、」
もう一度言う、、、良い事なんだがな。
さて、困った。
・「無いものを探しても仕方ない、、、
とりあえず放置され気味の依頼でも受けようか。」
俺達は今日も人気の無さそうな依頼を受ける。
ライルのお陰で比較的金には困ってい居ない。
ならば効率の良い依頼や簡単なものは、ここに住む冒険者に譲った方が良いだろう。
そんな風に考えてたんだ。
依頼を熟しながら獣人国の渡り方を探す日々。
何だかんだでハナと二人で楽しく過ごしていた。
平和な街とは言え魔物が出ない訳でもない。
近場の森に入れば普通に魔物は存在する。
少し離れた山にはそれなりの強敵もいる。
人気のない依頼ってのは山の薬草と取ってくる依頼が多い。
山の食材も人気かな。
だからレベル上げが出来ない訳でもない。
数日間で少しは強くなった。
魔法の扱いも慣れて来たし、自分が強くなっていると実感できている。
案外ゆったりした時間があった事に感謝するべきだろうか。キロスに会えてなかったら焦ってたかもしれないな、、、
彼の魔力操作は目を見張るものがあった。
色々と教わった中で、魔力を自らの体に纏わせ、能力を引き上げる技を思いついたんだ。
今はその技の鍛錬を欠かさずやっている。
どんな時でも薄く展開させて、魔力の総量と魔力操作を鍛えているんだ。
そんな日々が続いたある日・・・
~オキサスギルドにて~
・受付嬢
「あ!裕樹さんとハナさん。
実は折り入ってお願いがあるのですが、、、」
いつもの様にギルド掲示板とにらめっこしている時に話しかけられた。
・「どうした?何か困りごとか?」
毎日ギルドに顔を出していれば仲良くもなる。
面倒な依頼などは直接依頼して来るほどに顔見知りになった。
長い間、同じ依頼が張られ続けているのはギルドの信頼問題になる。
逆に、依頼がドンドン熟されていけばギルドの評判も上がる。
必然的に依頼する人物が増えると言う訳だ。
そうなれば面倒な依頼も増えてくる。
そんな面倒な依頼は俺達に直接お願いして来るようになったのだ。
気分は街の何でも屋って所だな。
・受付嬢
「実は、いつも薬草と取って来て下さるオーキス山脈の奥にマデオ火山があります。この時期はファイヤーリザードの繁殖期になるのですが、、、
そこの調査に行って来て欲しいのです。
マデオ火山までの道のりが厳しく、魔物も多い為なかなか難しい依頼となっています。
今まではこの町出身の12人で編成された「オキサス防衛団」の方々が行って下さっていたのですが、去年遂に解散してしまったのです。
現在、防衛団の方はギルド員の5名だけになってしまい依頼遂行が厳しいと感じていた所で、、、」
ふむ、、、
確かに冒険者にとってはあまりおいしい仕事が無いから街を出る奴も多くなるだろう。ファイヤーリザードか、今まで戦っていない魔物だな。
・受付嬢
「昔からファイヤーリザードは、獣人の冒険者の方がいつも倒してくれていたらしいのですが、獣人国と親交が途絶えてからは年に一度の調査しか行えていません。
年々増えるファイヤーリザードです。少しずつ生息範囲が広がってきているので困っています。」
成る程、そりゃ増えていくだろうな、、、
要するに、、、
・「依頼内容は、、、
ファイヤーリザードの生息範囲の調査。
出来る限り討伐してほしいって所か?」
ちょこっと舌を出しつつ笑顔で頷く受付嬢、、、
調子のいい子だ。
でも憎めない可愛さがあるから不思議だなぁ~。
・ハナ
「裕樹、、、、」
おっと、後ろで殺気が、、、、
・「そ、そうだな。
その依頼受けよう、依頼内容の詳細を頼む。」
少し焦りながらも受注する。
ファイヤーリザードか、どんな敵だろうか。
一年に一度しか行けなかった調査依頼、今までは獣人の冒険者が倒していたと言ってたな、、、
何故、人間の冒険者が受注しなかった訳を探るのも良いかもな。
・受付嬢
「受けて下さるのですか!さすが裕樹さん。
詳しくは元調査団のギルド員に話を聞いてください。直ぐに呼んできますので、奥の部屋でお待ちください!」
そう言って2階に走っていく受付嬢。
受付無人にしていいのか?
まあいい、とりあえず言われた通りにしておこう。
俺とハナは奥の部屋に進む。
そしてハナと雑談していると男が入って来た。
・ギルド員
「初めまして、ギルド長のオシナガと申します。
依頼を受注して下さりありがとうございます。」
見たところ、50代辺りかな?
物腰の優しそうな人物が入って来た。
あの動き、、、何となく解る。
強いな、、、
・オシナガ
「裕樹様とハナ様ですね、、、」
俺達をじっと見つめるオシナガ。
少しの間見つめた後。
・オシナガ
「成る程、、、凄まじい実力の持ち主ですね。
お二人に依頼遂行の許可を出します。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
必要なものはこちらで用意しましょう。
移動手段、食料、補佐4名。
調査期間は約1週間となっています。
出発は明日で宜しいでしょうか?」
見ただけで相手の力量が分かるような話し方だな。
そんなスキルでもあるのだろうか?
とりあえず今は依頼が受けられた事を喜ぶか。
・ハナ
「裕樹、準備とかお任せしちゃっていいのかしら?
それに、いつも薬草取りに行ってる所から見える大きな山だよね?
馬車で移動する必要あるのかな?
一日で着いちゃいそうな気もするけど。」
・「山ってのは見た目以上に大きいものだよ。
すぐに登れそうだと思える山でも想像以上に掛かったりするものだ。それに、補佐の4人は恐らく元防衛団の面々だろう。
経験者に着いて来て貰えるのは何よりもありがたい事だ。万全を期す、今はそれが大事だと思う。」
オシナガは感心しながら頷いている。
・オシナガ
「山を知っていらっしゃるのですね、、、
山は恐ろしい場所です。
更に魔物も徘徊していますので、軽率な行動が命取りになる。そう伝えようと思いましたが、裕樹様なら安心です。」
・「そうでもないさ。
俺も山については危険だと認識している程度だ。
補佐を付けてくれるのは正直ありがたい。
この依頼、期待に応えられるように努力しよう。」
オシナガは深く頭を下げて答えた。
この日は少し豪勢な食事をして、ハナと二人でゆっくりする事にした。
明日からは忙しくなりそうだ。
~翌日~
俺達は早朝からギルドに来ていた。
時間指定されていなかった為、朝早くいけば良いと考えたからだ。
早ければ待てばいい、それだけの事だ。
・オシナガ
「お待ちしておりました、裕樹様」
結構はやくギルドに来たつもりだったんだけどな、、既にギルド側の準備は整っていた。
・オシナガ
「時間を指定していませんでしたか、早朝にいらっしゃるとは素晴らしい。
正直驚きました。
遠征のご経験があるのですか?」
・「いや、全くない。
たまたま早く出ただけだ。」
色々と試しているのか?
悪いが俺は何も知らないぞ?
何となく向こうの世界でスキーに行った時の事を思い出したから早く来ただけだ。
「遠出はやっぱり早朝だよね~」って誰かが言ってた気がしたし、、、
・オシナガ
「では早速出発してもらいましょうか。
必要なものはご用意しました、説明は道すがら。」
こうして、俺とハナ。
あと補佐4名でマデオ火山へと向かう事になった。
道中、自己紹介をしながら進む。
ここで補佐の名前を教えてもらった。
ダン ギルド員 戦闘担当
リズ(ジズの姉) ギルド員 戦闘担当
コース 料理担当
ジズ(リズの妹) 世話係
食料と水は3日分しかないと教えられた。
残りは現地調達だ。
保存方法が確立していないこの世界なら頷ける。
補佐が多いと思っていたが、恐らく食糧調達等を担当するのだろう。
マデオ火山までは一日で到着するらしい。
火山入り口辺りまではちゃんと道が整備されていたからだ。
こんな道があったとは、、、
・ダン
「裕樹殿、ここが火山の入り口です。
今日はこのまま中腹辺りまで進みたいと思います。
道中は魔物は出ますが、キャンプ地は比較的安全なのでご安心ください。
到着後、我々はキャンプ地を防衛しつつ食糧調達などを行います。裕樹殿とハナ殿は明日から調査を開始して頂きたい。」
補佐のリーダーであるダンが説明してくれる。
思った通りの展開だな。
・「解った、調査は明日から始めよう。
キャンプ地までの魔物は俺達が倒す。
ダン達は道中ゆっくりしていてくれ。」
俺の提案に驚きと共に笑顔で頷くダン。
他のメンバーも少し驚いた後に笑顔になった。
・リズ
「オシナガ様が推薦する理由が分かったわ。
裕樹、あなた普通の冒険者じゃないわね?
あ、褒めてるんだからね、勘違いしないでよ?」
リズが笑顔で話しかけてきた。
・ダン
「リズは口が悪くてな、、、
誤解しないでやってくれ。
実は他にも冒険者が数PTこの依頼を受けた。
だが、大抵の奴は俺達の話を聞かない、、、
初日から調査に行きたがる奴等が大半でな。
冒険者ってのは身勝手な奴が多いから仕方ないんだが、身勝手な行動は団員の死を招く。
経験者の話も聞けない奴は連れていけない様な危険な調査なんだ。」
成る程な、、、
だから色々と試していたのか。
このやりとりの後、この依頼について詳しく話してくれた。どうやら、今まではキャンプ地に行く前に引き返していたらしい。
この先の依頼は本当に危険だという事を伝え、連携の取れないこのままの状態では死ぬだけだと伝え引き返した。もちろん激怒する奴もいたと言う。
そんな冒険者の方にはダンが責任をもって半殺しにしていたと言う。
自身の実力を知ってもらう為に、、、
何とも、恐ろしい世界だ。
火山までの道中は主にウルフ系の魔物が多い。
ウサギによく似た魔物もいたな。
かなり狂暴だったが。
そんな魔物を狩りながらキャンプ地に辿り着いた。
キャンプの準備は全て任せよう。
ウサギ型とウルフ型の魔物は食料になるらしい。
倒した数体をその場で捌いていたのが印象的だった、、、まさにサバイバル。
明日からは本格的に調査開始だ。
今日はゆっくりしておこう。
色々と忙しなく動いている団員達を見ていて、手伝いたそうなハナを引き留めて俺達は休む事にした。
そんなやり取りを笑顔で見ていたダン。
目があった時に頷かれたのは、それが正解だと言う合図だったと思いたい。
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