第4話 剣の道

ずっと一人で考えていたんだ。

夜までずっと、、、


俺は、どうしたいんだ、、、?

何が出来る?


逃げてしまえばいいじゃないか。

なあ?逃げよう、、、俺


分かってるだろ?

なぁ、自分でもさ、、、


何も出来ない事ぐらい、、、

分かってるだろ?


悩む必要なんて無いんだよ。

勝手に決められた事だ

逃げるなんて言葉はおかしいだろ?

好きに生きようぜ、、、

、、、、な?


好きに、、、生きて、、


・クソがぁぁぁぁ!


魔力が爆発的に膨れ上がる。

そして、膨れ上がった魔力が収縮し、

裕輝の右手に集まる。

そして思い切り足元を殴りつける!


・うらぁぁぁぁぁぁぁ!


ズドォォォォォン


裕輝の立っていた小高い丘が消滅する。


・何だ?敵襲か?


村にいた兵士が出てくる。


・総員、迎撃態勢!

陣形を組め


ライルが指示を出す。

砂埃が立ち込める中、影が映る


・指示を出すまで待機!

いつでも迎え撃つ用意をしておけ


緊張が包む中、

ついに姿を表す。


・俺は、風間裕輝!

この世界を救いに来た。

俺と一緒に、死んでくれる勇者を探している。

頼む、俺に力を貸してくれ。


そして、目の前の兵士達に土下座をする。

呆気に取られる兵士達。

沈黙が周囲を包み込む、、、

次第に正気を取り戻して、

歓声に変わる。

その最中、1人の男が裕輝の前に立つ。


・裕輝、お前の出した答えはこれか?

確実に死ぬんだぞ?

それでも良いのか?


・ライル、、

俺は死なねぇ、、

何故なら誰よりも強くなるからだ。

強くなって、、、

お前や仲間を死なせてやらねぇよ。

俺を目覚めさせたのはお前だ!

ライル、、、俺について来い!


驚きを隠しきれないライル。

先程まで完全に折れていた心が、真っ直ぐに、

さらに強固になっている。


・これが、、、勇者か、、


・バカ言ってんじゃねぇ、

情けない俺について来てくれる奴が勇者だ。

お前のようにな!


そう言ってライルに指を刺す。


・フッ、、、フフフ

はっーはっはっはっ!

最高だ、俺の友達は最高だぜ


・親友だろ?

俺は、そう思ってる。


俺とライルは頷く、、、

そしてハイタッチを交わす。

風間弘樹が自分自身を乗り越えた瞬間だった。

その後、ライルの指示により騒ぎは収まり、村に静寂が戻ってくる。

そして、宿舎の食堂では、、、


・ライル、カール。

心配掛けて悪かった。


2人に頭を下げる裕輝がいた。


・気にするな。

寧ろ、戻ってきてくれてありがとう。

もう、2度と会えないかと思ってたぜ。


・裕輝さん。

お帰りなさい。


裕輝を暖かく迎え入れた2人。

、、、、、2人?


・なぁ、ライル、、、

あの、、


・リーシュか?


食い気味で突っ込まれる。


・あ、あぁ、

どこ行ったんだ?


・リーシュなら、王国に帰ったぜ。

夕方にお前が集まらなかったからな。


マジか!

早くない?リーシュさん


・リーシュを責めるなよ?

帰還の指示を出したのは俺だ。

元々、余り乗り気じゃないのを無理にお願いした。

医療部門は軍部1忙しい所でもある。

そこの隊長を借りていたんだ。

必要ないかも知れないと感じれば、帰すのが当然だろ?


・まあ、、、確かに、、


納得できるが、何だかなぁ〜。

ちょっと寂しいなぁ、、、


・回復要因が居なくなった今、無理にダンジョンに挑む必要もないだろう。

レベルも最低ラインはクリアしている。

明日の朝、俺たちも王国へ帰還する。


・そうか、戻るのか。

戻る途中や今からでも出来る事ってないか?

例えば魔力制御の練習とか、、


・いつになくやる気だな。

後で教えてやるよ。

寝る前や移動中の暇な時にやっててくれ。


・ありがとう、ライル。


・とりあえず今日はもう寝るぞ。

明日は早いから遅れるなよ。


ライルは部屋を出て行く。


・裕輝さん。

戻って来て下さって、、

本当にありがとうございます。


カールが頭を下げてくる。


・カール?


・自分には、戦う力がありません。

出来るのはサポートだけ、、、

それでも、守りたいものがあります。

、、、、この国の人々を助けたい。

貴方なら出来ると信じています。

私は、貴方を信じてサポートします。

どうか、私にも力を貸してください。


・カール、、、

何故かは知らないが、、

俺には戦う力が備わっているらしい。

力の限り足掻いてみるよ。

その、、、改めて宜しくな。


カールと握手を交わす。

そして2人は笑い出す。

お互いの健闘を祈りながら、、、


そして夜が深けて行く、、、



次の日、、


・おはよう、ライル


・おはよう、裕輝。

感心だな、もう起きて来るなんてな、、

カールの準備が終わり次第王国に戻る。

裕輝の準備は良いか?


・俺の荷物はコイツだけだからな。


愛用の剣を腰に刺す。

すると、


・ライル団長、準備が整いました。

いつでも出発出来ます。


・よし、では王国に向けて出発する。

裕輝、帰りは一緒に走るか?


・おぅ、そうするよ。

魔物がエンカウントしたら俺が倒してやるから安心しな。


・ふっ、頼もしいな。

ではカール、馬車は任せたぞ。


・はい。


一行は王国に向けて動き出す。

帰りの道中、魔物に会う事はなくスムーズに進む

裕輝は走りながらも魔力制御の練習をする。

1日でかなり上達した。

今ならちゃんと魔法も使えそうだ。

王国に帰ったらやりたい事がある。

初めに知らなければいけなかった事、

早い段階で気づけて良かった。


・なぁ、ライル、


・なんだ?


・王国に着いたら頼みがある。

ちょっと無理な事を言うが、何とかして欲しい。


・俺に出来る事なら任せろ。


・あぁ、頼んだぜ。

確か、闘技場が有るとか言ってたよな?

そこに、オーランドの爺さんを呼んで欲しい。

出来るか?


・総統をか?

ふむ、出来るか分からんがやってみよう。

王国に到着したらすぐで良いのか?

カールは裕輝を闘技場まで案内しておいてくれ。


・わかりました。


・悪いな、ライル、カール。

どうしても、やらなきゃいけない事なんだ。


・任せておけ。


・任せてください。


3人は王国に向かって進んでいく。



王国にて、、、


・裕輝さん、こちらです。


カールに案内されて闘技場に到着する。


・カール、

すまんが誰か回復出来る人を連れて来てくれ。


・わかりました。


カールが走って行く。

俺は瞑想を始める。

今までの事を思い出す。

まだ短い時間しかここに居ないが、それなりに濃厚な時間を過ごした。

ダンジョンに行き、レベルを上げ、魔法を経験して、、、

そして、弱い自分も見詰めた。

これから強くなる為に必要な物。

足りない物。

それを今から掴むんだ。

目を開ける、、、


・裕輝殿、、、

良い顔付きになりましたな。


そこにはオーランドが居た。


・急に呼び出して悪かったな。

どうしても、

この剣のお礼をしなきゃなって思ってな、、、

全く、、、いきなり魔剣とか危ねぇだろ?


裕輝は剣を抜く。


・おい、裕輝?


・ライル、悪いが、

何が起こっても止めないでくれ。

俺が先に進む為に、、、


そして、オーランドに向けて剣気を放つ。


・ほぁ、いつの間に、、、

裕輝殿は想像を超える成長をしている様ですな

たが、まだまだひよっこ。

このワシに剣を抜かせる事が出来ますかな?


オーランドは構えない。

わかっている、それ程の差がある事ぐらい、、


・ひとつだけ確認だ。

じぃさん、この国であんたより強い奴は居るか?


・居ない!

そう答えれば満足か?


・あぁ、満足だ。

あんたの力、見せて貰うぜ!


シッ!


裕輝は一瞬で間を詰める。

左下から切り上げ、、、


オーランドは難なく躱す。


そのまま回転して横なぎ、、、


バックステップで躱される。


返す刀で右から横なぎ、、、


更に軽やかに後ろに下がり避けられる


踏み込みながら突き、、、


躱すと同時に殴られる

カウンターで喰らう形になる。


・ぐはぁ、、、


だが、裕輝は倒れない。

一撃で鼻が折れた、、、

目がチカチカする、

鼻血が止まらない、

膝が笑う、


・ふぅふぅふぅ、、、

痛ぇ、、、信じられないくらいに痛え、、、

くそ、ビビるな。


再度突撃、

次はフェイントを入れろ、

右、左と横なぎの連発。

時々袈裟斬りも加える。

オーランドは少しずつ下がりながら全てを避ける

そして全力の突き、、、

オーランドは反応する。

右手を握った、、、


・ここだ、


俺は突きと見せかけて途中から横なぎに軌道変換させる。

だが、オーランドはそのまま踏み込んで来る。

俺の斬撃が届く前に拳を叩き込んでくる、、、


・がっ


ブッ飛ぶ、、、

何が起こった?

立たなければ、、、


・ふぅふぅふぅ、、、

くそっ、足が言うこと聞かねぇ


・ひとつ、聞いて良いですかな?裕輝どの。


・?


・何故、戦うのですかな?


そんな事か、、、もう答えは出た。


・決まってる、、、

俺自身が、、、死なない為だ、


・ほぅ、、、


・俺が死ねば、、、死なずに済んだ奴も死ぬ、、

何より、俺が、、嫌なんだよ、、

死ぬのも、、、死なせるのも、、、


無理無理立ち上がる。


・ガキみてぇだろ?

世界を救うとか、、、そんな大層な事は知らねぇ

ただ、、ただ、、死なない為に、、、

強くなるんだ!


三度突っ込む、、、


・おぁぁぁぁぁぁ


フェイントも何もない、ただただ剣を振る。

オーランドは避ける事に専念する。

裕輝の何かを見極める為に。


・はぁはぁはぁ、


・それで終わりか?


・終わって、溜まるかぁ


尚も突っ込む、、、

確実に死が近寄ってくるのがわかる、、、

死が迫ってくるにつれて見えて来る。


・もう少しだ、、、


・よそ見かね?


オーランドのミドルキック、、

裕輝の横っ腹に入る。

闘技場の壁まで吹っ飛ばされる。


・裕輝!


・下がっていろ、ライル


・しかし、オーランド総統、、、


・まだだ、裕輝殿を信じるんだ。

ここで見付けなければ、この先死ぬだけだ。


・うぐぐぐ、、、

お、、、俺は、、、こんな、、所で、、


ゆっくりとオーランドに向かう裕輝、、


・裕輝殿、、、


右瞼は腫れて既に前が見えていない。

辛うじて見える左目でしっかりと目標を捉える。


・まだ、、、、終わっちゃいねぇ、、


裕輝の周囲が歪み始める、、、

裕輝は居合いの構えを取る。

そして、ゆっくりとだが、確実に剣を抜く。

すると歪みが波となりオーランドに飛んでくる


・!


オーランドの頬から血が流れる、、、


・ついに、、見付けたか。

剣気の奥義、『剣義一閃』

死と隣り合わせとなり、確かな死を感じた時、

生きる為に放つ剣気による斬撃。


裕輝は動かない、、、

意識があるかもわからない、、、

しかし、闘志が上がる、魔力が渦巻く

そして、、

裕輝がオーランドを睨む


・うぉらぁぁぁぁぁ


裕輝の最後の突撃、、

オーランドの近くまで突進した瞬間、右手を前に突き出す!


・『フラッシュ』


閃光の様な光がオーランドの目を襲う。

オーランドはモロに喰らう


・ぐっ!


・いけぇぇぇ


裕輝は剣をオーランドに叩きつける。


キンッ!


オーランドが剣を抜いた、、、

尚も裕輝は剣を振るう、剣気と共に

剣を右から振る。

同時に左から剣気で斬りつけてる。


・フフフ、もうここまで使いこなすか!

面白い!


オーランドは目を瞑っている。

フラッシュのせいで目が使えないのだ。

だが、裕輝の剣は当たらない。

目を瞑ったまま避ける、受ける、受け流す


・うらぁぁぁ


当たらない、

当たらない、


・くそっ、当たらねぇ、

まだだ、まだ倒れるな、俺、、、


気を抜くと意識が飛びそうになる、

だが止めるわけにはいかない。


・裕輝殿、、、分からぬか?

お主の殺気が、剣気が、、

ワシに軌道を教えているのだ!

掴め、、、その先の、、無我の境地を!


オーランドの目は既に開いている。

フラッシュの効果が切れたのだ、、


・もう、何言ってるかわからねぇ、、

だが、剣を止める訳には、、、


裕輝は尚も剣を、剣気を振るう、、、が、


・ぁ、、、


裕輝の膝が崩れる。

限界が来た、、、


・裕輝殿!


オーランドが支えようと前に出た瞬間、、


シュン、、


・なっ!

ば、、、バカな、、、

何も、、、感知できなん、、、だ、、、


ドサ、、、


オーランドの腹がパックリと破れた。


・総統ぉぉ!

カール、医療班を呼んでこい!


・大丈夫です、既に待機済みです。


リーシュと数人の兵士が治療を開始する。

みるみる傷が塞がる。


・ライル、、、見たか?

裕輝殿の最後の一撃、、見事だった、、、

何も感知出来なんだ、、、

まさに、無我の境地、、、

フフフ、本当に、、、驚かせてくれる


・総統、今は治療を優先に、、

喋ると傷に、、


・大丈夫だ、、、既に傷口は塞がった。

血を流したのは、本当に久しぶりだ。

リーシュ隊長、、、裕輝殿は?


・はい、

裕輝さんは打撲や骨折は多くありますが、命に別状はありません。


・そうか、、、

良かった、、、

後は、任せたぞ、、、


オーランドは気を失う。

そして、裕輝と共に医務室に運ばれる。



、、、夢の中


裕輝はまだ戦っていた、、


・くそ、何で当たらねぇ、、


剣を振る、剣気を飛ばす。

だが、ことごとく当たらない。

何故軌道がわかる?

何故だ、、、

、、、、軌道が、、、わかる?


目を瞑って避けるなど不可能だ。

見えていないのだから、、

なのに避けられる理由、、、

じぃさん、には何かが見えているんだ。

何を見ている?

何を、、、


裕輝は剣を止める。

だが、殺気を剣の軌道で走らせる。

剣気も走らせる。

オーランドは見事に避ける。


これだ、、、、

これを見ているんだ、、、

わかった、わかったぞ!


・わかったぞ!

ぐっ、、、


ベットから転げ落ちる。


・騒がしいな、、、裕輝殿。

落ち落ち眠っていられぬ。


・いてててて、、、

じぃさん?

あれ、ここは?


・医務室だ。

私達は数時間ほど気を失って居たらしい。


・そうか、、、

じぃさん、悪かったな。

その、、無理なお願いをして。


・気にする必要は無い。

この傷は勲章だな。

勇者を追い込んで出来た傷だ。


・俺がつけた?


・あぁ、最後の一撃は避けれなかった。

何も感知出来なかったよ。


・、、、、俺の、殺気を見ていたのか?


・その通りだ。

よく、気付いたな、、、

そして、その先もよく掴んだ。

殺気を押し殺して、相手を殺す一撃を放つ。

無我の境地から放たれる一撃は誰にも避けられぬ


・無我の境地、、、か。

正直、何をしたかわからねぇ。

だが、体は覚えている。

理屈じゃ無いんだな、、、剣ってのは。


・理屈か、、、

剣を頭で考えても仕方なかろう。

考える暇があるなら斬ってしまえ

ワシは若い頃からずっとそうしておるよ。


・マジか!

それなのにあんなに強いのかよ。

反則じゃねぇか!

相当、、、、努力したんだな。


裕輝は痛みを堪えてオーランドの前に正座する。

そして、、


・、、、、オーランド。

ありがとう。

ありがとうございました。


深く、深く頭を下げた。

剣の奥深さに直接触れて、少しだけ自分が強くなれた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る