第21話 少年少女は荒野を目指し荒野を歩く
次の日も僕達は砂漠を歩いていた。サソリみたいな魔物や、砂から飛び出してくる魚のような魔物を今日も叩き潰す。
今日は僕は前の方を歩いていた。隣にはエドワードさんがいた。
「そういえば、エドワードさん。僕、槍も使ってみようと思うんです。槍の稽古をつけてくれませんか。」
エドワードさんに話しかける。少しは他人を頼りにしてみようと思ったのだ。
僕の特大剣は捨てるわけでない。ただ槍も使えるようになるだけだ。槍の戦い方でもきっと参考になるはずだ。
「うーん、そうだなぁ。俺の槍は100階層まで貫ける槍じゃないんだ。正直カンタの性格と体にあった槍術じゃない。お前にはそのでっかい剣を振り回してるのが一番強いぞ。変な癖がつくとお前の成長を邪魔するかもしれない。同じような武器を使うやつでカンタに剣を教えてくれそうなやつはいないのか?」
「一人だけいますけど…。」
司書さんに頼みに行くのは少し面倒くさいのだ。
「だったらそいつに教えてもらうといい。俺では力不足なんだ。すまんな。」
「いえこちらこそ、都合の良いことを頼んでごめんなさい。」
「いや、俺はカンタのこと応援してるぜ。特大両手剣を使う知り合いはこの辺にはいないんだが、エルフォールに一人いるな。機会があれば頼んでみよう。」
「いや、とりあえず、私の知り合いを当たって見ます。それがだめだったら、お願いします。」
まずは、司書さんに強くなる理由を言いに行く方が良いだろう。
後ろから背中を叩かれる。
「ハハ、残念だったなぁ。」
「ダン、別に残念ってことは無いだろう。これがカンタのためなんだ。」
後ろから声をかけてくる二人のおっさんはダンフィールドさんとカイルさんである。ハンサムおっさんでまさかの妻子持ちである。妻子持ちがこんな危険な所にいていいのか。
俺も章子ちゃんみたいな娘が欲しかったなぁ。とか、お前んところは野郎だけだもんな。とか話してた。
「なぁ、カンタ、自分の武器っていうは欲張っちゃいけねぇ。一つのものを極めるのが一番の近道だ。今では俺の槍は俺の体の一部だ。他の武器をいろいろ使ってたら武器の感覚が鈍るぜ。」
「そうだな。カンタには時間が無いなら、なおさらそうだな。」
「そうですか、まぁそうですよね。」
「基本的なことしか言えねぇが、カンタ、自分の使う武器の大きさをもっと考えた方が良いぞ。」
「確かにそうだね。目をつぶってでも自分の剣先がどこにあるのか分かるようになると良いな。初歩的なことだけど、カンタにはまだできてない。自分の武器を振り続けていれば身に着く感覚なんだ。」
「なるほど、ありがとうございます。もう少し意識してみます。」
二人は頑張れとか何とか言うと離れていく。自分の剣の長さと間合いはしっかり意識しているはずなんだけど、この熟練の戦士たちにとっては僕はまだ不十分なのだろう。もっと頑張らないといけない。
僕はしばらく周りを見ながら歩く。
エドワードさんはカンタの知り合いの巨大剣使いって誰なんだろうなぁ。と言って腕を組んで考えている。
司書さんのことは言わない方が良いだろうな。おそらく、剣士であることは裏の顔なのだ。表の顔は学校や図書館を建てる懐の深い誰かさんなのだろう。
気づくと僕の隣を狼の獣人ノアールさんが歩いている。
ノアさんはクールな人であまり自分に話しかけてこない。近くにやってくるといつも僕から声をかける。
ちなみに、精霊の風のドワーフのグレッグさんはもっと寡黙な人で、ぼくは話したことが無い。ネイトさんが言うには僕の使っている装備に関心があるみたいだけど、近くにやってこないので、なんだか話しかけづらいのだ。
「ノアさん、妹の章子が迷惑をかけていませんか。」
僕からノアさんに話しかける。
「いや、とても元気だ。」
「面倒を見ていただて、とても助かっています。何か変なことをされているのではありませんか。」
キャンプするときはテントを四つ建てている。僕達のテントと、太陽の団と、精霊の風の男用のテント一つずつと、女性用のテントだ。つまり、章子はノアさんと一緒のテントで寝ているのだ。
章子は生粋のケモナーだ。何か迷惑をかけているに違いない。
「面倒を見るというほどではない。ただ、耳と尻尾を触らせているだけだ。この年になって、年下の娘に頭を撫でられるとは思っていなかった。」
やはりか、あいつはすこし欲望に忠実すぎるな。
「それは妹が失礼なことしました。今度注意しておきます。」
「いや、大丈夫だ。子供は元気な方が良い。」
「そうですか、ご迷惑をかけますが、今日もよろしくお願いします。」
「ああ、大丈夫だ。」
しばらく沈黙する。何か話題はあったかなぁ。
「昨日の夜の話面白かった。」
「?」
ノアさんが話しかけてくる。僕は少しだけ話について行けず、困惑する。
「テントで話していた神話だ。私はこの世界に生きているのにそんな話聞いたことが無かった。」
お兄ちゃんに話した神話のことか。聞いていたのか。いや、起きていたら、聞いているだろうことは理解していた。別に聞かれて悪い話ではない。
だが、僕の長ったらしい説明を面白いと言ってくれたのはとても嬉しい。
「ああ、そうですか。楽しんでもらえたなら、僕も嬉しいです。良かったら読みますか?」
僕は本をノアさんに勧める。借りた本を貸すのはあまりよく無いかもしれないけど、ノアさんなら大丈夫だろう。それに何よりこの本の分かりにくさを共感して欲しい。
「いや、いい。」
やはり、断られる。
「どうしてですか、試しに読んでみてくださいよ。」
少し落ち込む。まぁ、そうだろう、兄にも断られた。しかし、僕はあきらめないで勧める。
「私は本を読むのが苦手だ。昨日大体の話は聞かせてもらったからな。もう読んでも面白いことは無いだろう。」
「もっと小さい声で話せばよかったです。」
「カンタ、私達はお前のことを気に入っている。その強さも気に入っている。困ったら私を頼るといい。力になる。」
「は、はい。ありがとうございます。ぜひ頼らせてください。」
ノアさんはそう言うと離れてどこかに歩いて行った。
ノアさんに頼れることって何だろうか、盗み聞きによる情報収集とかかな。
そんなこんなのいろんなことを話しながら、僕達は砂漠を歩き続けた。
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