第15話 物語は知らない間に加速していた
戦いを見た他の冒険者に戦い方を驚かれた後、また迷宮をひたすら歩く。クリスさんが気配を消す魔法をかけているらしく魔物に会う回数は少なかった。
お兄ちゃんは狼獣人のノアさんをモデルにして、石の人形を作っているらしい。お兄ちゃんの隣では氷の魔法を使う魔術師さんも氷の人形で挑戦しているらしく二人で盛り上がっている。
魔法でできた氷は綺麗ですね。
とか、
カズキさんの石の魔法の精密さは凄いですね。
とか、
毛並みの表現はどうしましょうか。
とか、
細い部分はやっぱり難しいですね。
とか、
あんまり似てないですね。
とか、
こんなに胸は大きくないですよ。
とかいろいろ話している。
楽しそうである。氷の魔術師さんは金髪碧眼のエルフさんである。クリスさんの妹らしくクリスさんに似ている。名前は確かエリスだったかな。
モデルにされている狼獣人のノアさんは耳をぴくぴくさせて、尻尾を振り振りさせながら前の方を歩いている。
モデルにされてもあまり悪い思いはしていないらしい。
章子は相変わらず、レッサーリザードの上に乗っている。章子の後ろにはクリスさんがいて、章子を後ろから抱きかかえるようにして座っている。
章子はクリスさんのお気に入りである。落ちないように支えてあげると後ろから抱きかかえているが、本当のところは妹をただ抱き抱えたいだけなのではないだろうか。
まぁ、妹の章子は嬉しそうなので、別にいいか。
僕はレーサーリザードを撫でる。リザードの固い鱗はひんやりと冷たい、でも、どこか生き物の温かさと柔らかさを感じる。
この鱗には触覚あるのかなと思いつつ、リザードを撫で続ける。
「レッサーリザードがずいぶん気に入ったみたいだね、カンタ君だっけ。」
黒髪赤目のお姉さんが僕に声をかけてくる。
「ええ、アンジェリカさん。このリザード可愛くないですか?」
「可愛くはないかな…、あと、アンで良いよ。みんなそう呼ぶから。」
アンさんは困ったように言う。可愛いよなぁ。かわいそうだ。レッサーリザード。
赤目のアンさんと僕はリザードの顔を二人で眺める。
「知ってる?このレッサーリザードは100年くらい前まではリザードって呼ばれてたんだよ。それが迷宮のもっと大きなリザードの方が有名になってね。いつしかレッサーリザードって呼ばれるようになったんだ。そういう動物は多いんだよ。」
「へ―知れば知るほど、かわいそうになる動物ですね。」
レッサーパンダみたいだ。
「さっきから、妹さんを羨ましそうに見てるけど、カンタ君も乗ったらどう?もう一人くらい乗っても大丈夫だよ。」
「いえ、こいつがかわいそうなんで。」
僕が羨ましそうに見てたのばれてたのか。でも、美人のエルフさんに抱きつかれているのが羨ましかっただけですから。
「カンタ君は、派手な戦い方する割には、繊細なところがありそうだね。」
「派手ですか。」
派手でも、繊細でもないと思うけど。
「派手というか、大雑把かな。エドがカンタ君の戦い方気に入ったみたいだよ。愚直さが良いって。」
「それって、褒められてるんですか?」
「アハハ、どうだろうねぇ。」
「アンさんはガシア人なんですよね、その血族魔法ですか、お兄ちゃんが興味を持ってましたよ。」
「あー、そうそう、この辺じゃ珍しいよね。ギルド長からは三人もガシア人って聞いてたから興味あったんだけど、違うみたいだね。そういえば、何人なの?」
「一応、ペルマ人っていうんですかね。」
銀髪司書さんは僕のことをそう言っていた。
「ふーん、聞いたこと無いなぁ。別の大陸の少数民族かな?」
「さぁ。僕もわかりません。そうかもしれませんね。」
「えぇ、なにそれ。」
「そんなことより、血族魔法って何なんですか?」
僕は強引に話題を変える。
「血族魔法っていうのは、ガシアで家ごとに長年受け継いでいる魔法だよ。血族魔法を受け継ぐ人たちは生まれた瞬間から、独自の魔力術式を流され続けるんだよ。そうやってその属性に特化した魔法使いにさせるんだ。」
「へーすごい教育システムですね。ガシアだけじゃなくて、他の所も同じことをして、皆が血族魔法を使えるようになったら良いですね。」
「ガシアの貴族が聞いたら喜ぶ言葉だね。でも、血族魔法はそんな良いもんじゃないよ。人間の魔力の流れを歪めて、生き方を歪めてしまうから。他の魔法が使えなくなっちゃうんだ。私も火の魔法しか使えないの。」
アンさんは少し暗い顔をしている。
「へー。」
あまり言ってはいけないことを言ったかもしれないな。
「それにね、めったにないけど、失敗したら魔法が使えなくなっちゃうんだよ。それをまだ小さい赤ちゃんに迷いもなくやるんだよね。私はそれが嫌で逃げてきたんだ。私の子供には私の魔法を刻み付けることはさせたくないから。自分が使いたい魔法を学んで自由に生きて欲しいなぁ。まぁ、子供ができる予定なんてないけど…。」
「アンさんって案外繊細ですね。」
「案外ってどういう意味―。私は繊細な乙女だよ、見ての通りでしょ。」
アンさんは少し怒ったふりをする。
「ハハ、ごめんなさい。それにしても、良いですね、魔法。僕は魔法使えないので羨ましいです。」
「え?」
アンさんはきょとんとする。
「使ってたじゃん、加速魔法。戦士は加速魔法と、強化魔法を使うでしょ。」
「え?」
今度は僕がきょとんとする。
いや、あれはスラッシュと高速移動のスキルなんだよな。それが加速魔法に見えたのか。
いや、待てよ、そう言えば、お兄ちゃんもスキル名自体はストーンショットなんだ。それで土の魔法を自由に使って石の人形を作っている。スキル名に土の魔法と書かれているわけでは無かったはずだ。
僕も使う才能があるんじゃないか、加速魔法。
あたりがずいぶん暗くなった頃、僕達は35階層に到達した。今日はここでキャンプするみたいだ。僕達以外の冒険者はキャンプの準備をしている。
「そうだよね、ショーコちゃん帰っちゃうよね。また明日ね。」
クリスさんは章子に名残惜しそうに別れを告げている。
「うん、クリスお姉さんたちは帰らなくて良いの?」
「そうね、私達は迷宮中毒者だからね。」
クリスさんは笑って言う。
「迷宮中毒者?」
「迷宮の中に泊まるのは私たちにとっては幸せなことなのよ。仲間と一緒に夜を明かすのも楽しいわ。章子ちゃんとも、もうちょっと一緒にいたかったわ。」
「そうなんだ…。明日はもしかしたら迷宮に残るかも。」
「本当、楽しみにしとくわ。」
妹はよほどクリスさんと仲良くなったようだ。
「あまりあてにしないで、お兄ちゃんに聞いてみるから。」
「分かってるわ、じゃあね、ほらお兄さんたちが待ってるわよ。」
「うん、ばいばい、気を付けてね。」
妹はクリスさんから離れてゲートの前に立っている僕達の前にやってくる。
「もういいの?」
「うん、帰ろう。」
僕達はメニューの転移を使ってギルドに帰って宿で体を休めた。
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