第14話 顔合わせと戦い方
ギルドに着くと、お兄ちゃん達は見当たらない。ギルド長もいないようで、受付には違う人が座っている。
どこにいるのだろうか。まだ迷宮にいるのかな。
キョロキョロしていると、受付の女性が声をかけてきて、三階の第一会議室で会議中ですよ。と教えてくれた。
もう40階層攻略の打ち合わせが始まっているようなので、急いで向かう。
会議室の前に着くとノックをして中に入る。
中には、兄と妹、ギルド長、他の冒険者10人くらいがいた。
「遅れて、すみません。」
入り口に近い妹の隣が開いているので、そこに座る。
「遅すぎだよ。今ちょうど自己紹介が終わったところだよ。」
章子が教えてくれる。
「ブラックブラザーズのミドルボーイ。自己紹介を頼む。」
一番奥に座るギルド長が声をかけてくる。
なんだよその言い方。初めて聞いたぞ。ブラックブラザーズのミドルボーイという呼ばれ方は結構嫌だ。
僕は立ち上がって、自己紹介する。
「遅れました。初めまして、幹太と言います。戦士です。剣を使います。よろしくお願いします。」
見渡すと、エルフのような人や、黒っぽい犬の耳が生えた人、この世界では珍しい黒髪の人がいる。
「よろしく。」
僕が席に座ると、前に座った黒髪の女性が声をかけてくる。
「はい、よろしくお願いします。」
目の前の女性は赤い瞳をしていた。何回か聞いたことがあるガシア人だろうか。
赤目の女性は、短めの黒髪だったが、堀の深い顔をしていて、日本人のような顔つきではない。クールな印象とでも、どこか優しそうな温かい印象を感じる美人さんである。
「よし、全員そろったな。ここにいる三つのパーティ合わせて13人で40階層に到達してもらう。今回は41階層から40階層に向かうのではなく、31階層から出発してもらう。ブラックブラザーズの転移は、お互い行ったことがある階層ならば接触している他人を連れていけることが分かった。40階層まで全員の戦い方を把握し、連携を深め、適宜帰還しながら、階層の主を討伐してくれ。」
ギルド長が今回の作戦内容を説明する。
今度はギルド長の近くで腕を組んで座っている男の人が口を開く。
「別に、31階から出発するのは構わねえが、俺達、太陽の団はさっきの彼らの転移を使うつもりはない。前回と同じように三日分の物資とそれを運ぶレッサーリザードを用意して欲しい。」
どうやら男の人は迷宮に潜りっぱなしをご所望らしい。
それに続けて、透き通る女性の声が響く。
「私達、精霊の風もそれが良いわ。ちまちま帰ってくるのは面倒くさい。慣れてるやり方が良いわ。もちろん、彼ら三人は帰ってもらっても大丈夫よ。これは私達の都合だから。」
ずっと潜りっぱなしの方が面倒くさいことが多い気がするが、感性は人それぞれなのだろう。
声の主は自分の位置からはよく見えないけど、さっき立ち上がった時に見た記憶では、耳がとがったエルフと思わしき女性だったと思う。
「そうか。まぁ、良いだろう。せっかく便利な能力があるのにもったいないな。」
ギルド長は呆れた声で了解する。
「作戦開始は明後日だ。明後日の朝また集まってくれ。何か質問は?」
「無いな。」
「無いわね。」
しばらく静かになる。
「じゃあ、今回はこれで解散だ。」
そう言うとギルド長は立ち上がって外に出る。
それに続いて、他の冒険者たちも立ち上がり、ぞろぞろと外に出ていく。明後日はよろしくなとかそんな声を僕達にかけてくれる。
会議室はすぐに僕達三人だけになった。
打ち合わせってこんなにあっさり終わるものなのか。
「今日はこれからどうするの?」
僕は兄に聞く。
「どうしようか。明日も暇になったからな。」
「久々に宿でゆっくりしようよ。」
「幹太はどうしたい?」
兄が僕に聞き返す。
「僕は迷宮に行ってレベルを上げたい。」
「じゃあ、迷宮に行こうか。」
僕はレベルを上げることがこの世界で強くなる近道だと思う。
「久々に宿でゆっくりしようよ。せっかくトランプ作ったじゃん。」
章子はゆっくりしたいらしい。
「章子。」
「私ね。日本には帰りたいけど、そんなに焦ってないよ。もっとゆっくり余裕をもっていこうよ。」
章子は寂しい顔をしている。その顔見ると胸が締め付けられる。
「じゃあ、今日は宿でゆっくりしよう。でも、明日は迷宮だ。それでいいな。」
「分かった。」
「うん。ありがとう。」
今日は、僕達は宿でゆっくりすることにする。
今日は40階層の主討伐作戦の開始日である。昨日はレベル上げをしたので、僕達のレベルは33になっていた。
ゲートの前は貸し切り状態で、ギルド長と職員さんに見送りがある。僕達13人と大きなリザードという動物は31階層に向かう。
31階層のゲートからひたすら歩く。隣では大きなレッサーリザードというでっかい爬虫類が地面を這って歩いている。この世界は人間だけじゃなくて、生き物もでかいなーと思う。
「カンタ、レッサーリザードが珍しいか?」
いつの間にか隣に来ていた筋肉ムキムキの大きな渋くてかっこいい男が声をかけてくる。この男の人は太陽の団リーダーのエドワードさんである。エドワードさんはレベル60である。太陽の団は人間の男性三人、狼の獣人の女性、黒髪の女性の五人で構成されたパーティである。
「ああ、はい。すごく大きいですよね。なんか食べられちゃいそうですね。」
「ハハ、こいつらは人間は食わねぇよ。迷宮の沼地に生える草が好物なんだよ。時々連れてきて、迷宮の食べ物を食べさせなきゃ弱っちまうんだぜ。」
「へー。このレッサーリザードはもともと迷宮のモンスターなんですか?」
「いや、違うぞ。外の世界で生まれた生き物だ。モンスター、魔獣、区別は曖昧だが、こいつらはモンスターでも魔獣でもない。ただの動物だ。倒しても魔石になんねぇ。」
「へー。」
僕はリザードを見る。
よく見ると可愛い顔をしている。僕はこのどこか少しのんびりした顔が好きだ。
外の世界で生まれたのに、迷宮の食べ物を食べないと弱ってしまうなんて、かわいそうな生き物だな。世界の魔力が薄くなっていることと関連しているのだろうか。
「エド、スライムが四体、ラージクラブが二体。こっちに向かってきている。どうする?」
近くに来た狼の獣人さんがエドワードさんに声をかける。
狼の獣人さんはノアさんという。頭に生えた魅力的な耳は飾りではなく耳が相当いいらしい。聞かれたくない話はしないで置けよとお兄ちゃんに注意された。
「少し多いな。まぁ良いだろう。クリス聞いてたか?」
少し離れたところにいるエルフのクリスティーナさんに声をかける。クリスさんは精霊の風のリーダーである。精霊の団は女性のエルフ三人と、男性のエルフ一人、ドワーフ一人の五人で構成されているパーティである。
「ええ、やりますか。」
クリスさんは杖を持つ。
「カンタ、カズキ、ショーコの三人は俺たちの戦い方を見ておけ。」
そう言うとエドワードさんは前の方に行く。クリスさんと他にも5人ほど前の方へ行き陣形を作る。
残った人と僕達三人はリザードの近くに集まった。
冒険者たちは、槍、ショートソード、エストックのような細めの剣、ハンマーなどの武器を使うようだ。
エドワードさんは大きい槍を手に持っている。そろそろ接敵するようだ。
スライムがかなり近くまでやってくる。クリスさんは杖から衝撃波を出し、スライムに充てる。スライムの体ははじき飛ばされ、コアが丸出しになる。同時にエドワードさんが突進し、槍でコアを貫く。
他の場所でも戦闘が始まっている。氷の魔法を使う人がいるらしく、凍ってしまったスライムもいる。コアは次々にカキィンと高い音を響かせ破壊される。
グレートクラブと呼ばれる巨大蟹はいつの間にか燃やされていた。沼の中でもがき苦しんでいるようだ。
もう一体のすこし離れた場所にいたグレートクラブはものすごい速さの横歩きで逃げて行った。
戦闘はすぐに終わったようである。
「すごい魔法だ。これがガシア人の血族魔法か。」
お兄ちゃんが赤目黒髪ショートカットの女性の方を見て、声を漏らす。
「僕は兄貴の魔法の方がすごいと思うけど。」
「あの火の魔法は上級魔法だろうか。カニがもう死んだぞ。おそらく外が燃える前に中身が燃えちまったんだ。沼の水でも消えないなら、単純な火力は俺以上かもしれん。」
「でも、お兄ちゃんなら、全部一人できるよね。」
「確かにな。」
僕は章子の言葉に同意する。
「章子、幹太、他人の強いところを見つけて学ぶんだ。」
「ふーん。」
戦闘はもうすでに終了している。僕は槍を持ったエドワードさんを見る。エドワードさんは大きな槍をくるくるさせている。カッコいい、槍の回し方教えてほしいな。
「まぁ、俺たちはこんな感じだ。すぐ終わっちまったから、分からなかったかも知んねぇが。」
エドワードさん達は魔石を拾うと戻ってきて僕達に言う。
「いや、勉強させていただきました。次モンスターが出たら俺達にやらせてください。」
お兄ちゃんが答える。
僕達はしばらく歩く。
僕はレッサーリザードを撫でながら歩いている。
章子はというと、レッサーリザードの上にまたがっている。エルフのクリスさんが章子の事を心配して上に乗せたのだ。
章子は迷宮ではお姫様扱いであった。
「幹太、そろそろモンスターを引き付けようと思う。」
お兄ちゃんが僕に声をかけてくる。
「分かった。距離は?」
「1キロくらいだ。」
それを聞いて、僕は挑発のスキルを放つ。赤い波動が伝わっていく。
「これぐらい?」
「ああ、結構釣れたな。」
お兄ちゃんに確認を取ると十分だったようで安心する。お兄ちゃんは探知スキルでこちらに向かってくる複数のモンスターを確認しているはずである。
しばらくすると、狼獣人のノアさんは耳をぴくぴくさせ、エドワードさんに声をかける。
「エド、かなり多い。スライム、グレートクラブ、ヒーポスまでいる。20体以上がこっちに向かって来ている。」
「そんなに多いのはおかしいな、ここは中立のやつらが多いはずなんだが。さすがに三人じゃ荷が重いだろう。全員でやるか。」
エドワードさんが答える。
「いえ、大丈夫です。俺達に任せてください。」
お兄ちゃんがエドワードさんの提案を断る。
「じゃあ、お手並み拝見と行こうか。こいつらはそんなに強くはないが、数が多いと厄介だ。危なくなったら手を出すぞ。」
水没林や池の方から、スライム、カニ、カバのような生き物が出てくる。
「章子。」
強化魔法を頼むために声をかける。もう詳しく言わなくてもわかるのだ。
「はーい。」
章子はレッサーリザードの上から僕達に強化魔法をかける。
お兄ちゃんは大きなとがった石をいくつも作り出し、飛ばしていく。モンスターの体には大きな石が次々にめり込み、魔石に変化する。
周りの冒険者を見ると、唖然としていて、口を開けている人がいる。
僕が挑発でモンスターをおびき寄せ、お兄ちゃんが一気に倒す。これが今までレベリングのために行ってきた僕達の戦い方である。最も効率が良いのだ。
モンスターはグレートクラブが数体だけ生き残っているだけのようである。
モンスターは挑発を使った僕を目指して向かってきている。
「じゃあ、残りは僕がやるから。」
僕も少しは仕事をしないといけないだろう。
「ああ。」
僕は高速移動のスキルを連続で使いグレートクラブの正面に移動して、剣でたたきつける。
グレートクラブは地面に剣の重みで沈み込み、甲殻は砕け散り肉がはみ出す。
これと同じことを繰り返すと、周りのモンスターはすべて魔石に変わってしまった。僕は足元の魔石を拾って元の場所に向かう。高速移動のスキルを使い続けてしまったので、かなり遠くまで来てしまったようだ。
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