第9話 魔法の使い方を教えて
次の日僕たちは迷宮の中にいた。
迷宮の中では、お兄ちゃんが探知で遠くの敵を見つけて50メートルくらいまで近づいてきたら、ファイアーボールやストーンショットの魔法で倒していた。
僕と章子の出番は全くなかった。次の階層への出口もマップには表示されてるらしいので、お兄ちゃんについていくだけの冒険になった。
一階層ごとに大体2時間ちょっと歩くと出口に着いた。
そして、僕たちはかれこれ10時間以上歩いていたが、全くつかれていなかった。元の世界にいたころだったらもう足がパンパンになっていてもおかしくない。この世界に来て身体力が強化されているのだろう。
あたりが少し暗くなってきたころ、僕たちは6階層のゲートの前にいた。
「今日はここで休憩しよう。」
ゲートの近くは魔物が寄ってこないらしいので、一泊するときはゲートの近くで泊まるのが常識らしい。周りにも野宿の準備を始める別の冒険者がちらほらいる。
「私、宿に帰りたいな。」
章子が残念そうに言う。
今日になって気づいたことなのだが、僕たちはゲートの近くではメニューから転移というスキルと使うことができ、一度行った階層のゲートと最初の神殿に転移できるようなのだった。なので、今から、最初の神殿に転移して、宿に帰ることもやろうと思えばできる。
普通は10階層ごとの大きなゲートを使って、10階層ごとに転移するしかないので、僕たちはかなり有利だった。
「そうだなぁ、もともと今日は野宿する予定だったからなぁ。幹太はどう思う?」
お兄ちゃんが野宿をするか、町の宿に帰るか迷っている。
「僕は一回くらい、野宿しておいても良いと思うけどな。章子がかなり疲れてるんだったら、宿に帰ってもいいけど。皆、そこまで疲れてないんじゃないのか?」
「確かに、そこまで疲れてないけど、シャワー浴びたいよー。」
「今日だけは野宿しようか、野宿する準備もせっかくしたんだし。次回からは帰るようにするから、今日だけは我慢してくれ。」
「んー、わかった。」
章子はお兄ちゃんに説得される。
僕たちはメニューからテントを出して準備を進める。アイテムの中に最初から入っていたテントはとても大きく10人ぐらい余裕で入りそうなテントだった。周りを見るとそんな大きなテントが5つほど立っている。やっぱりこの世界のものは大きいなと改めて思う。
あたりはすっかり暗くなっていて、僕たちはテントの中でランプの魔道具を囲んで、携帯食料のクッキーのようなものを食べていた。
「明日は10階層まで行けそうだね。」
妹が嬉しそうに言った。
「そうだな、明日は少し歩くペースを上げて、10階層をクリアして、11階のゲートまで行ってそこから迷宮の入り口のゲートに転移することにしようか。」
「順調だな。」
「そういえば、幹太も章子もレベル21になったんだよな。ステータスポイントを割り振ろうか。」
僕はステータスを出す。
永見幹太
レベル 21
クラス 戦士
攻撃力 250
防御力 400
魔力 150
ステータスポイント 40
「攻撃に振ろうかな。」
「幹太は防御力でもいいんじゃないか?防御力高いんだし。」
「いやだよ、防御力極振りとか使いもんになんねぇよ。」
「防御力は耐久力とか持久力とかに関連してるらしいから、そこまで死にステータスでもないと思うがな。」
お兄ちゃんは少し笑って言った。
「攻撃力あげて、筋力と敏捷性上げた方が良いだろう。」
僕はそう言って、攻撃力を290にした。
「そういえば、兄貴と章子はどんなステータスしてんの?」
「俺は攻撃力150、防御力150、魔力500だな。」
「私は攻撃力50、防御力150、魔力600。ステータス何あげようかな。」
三人ともステータスの合計はレベル×40みたいだ。
「章子は攻撃力以外だったらどっちでもいいと思うぞ。」
お兄ちゃんは章子にアドバイスをした。
「じゃあ、防御力と魔力を20ずつ上げるね。」
「それが良いかもな。兄貴はどうするの?」
「俺はな―。どうしようかなー。」
お兄ちゃんは相当迷っているようだ。
「ステータスを振りなおすことができたりすればいいんだけどな。戻したりでき無さそうだしな。魔力に極振りするか、防御力を上げて安定を取るか。それとも、攻撃力を上げて前衛もできるようになるかだな。初期装備の剣も少し気になっているんだよな。」
お兄ちゃんは武器として、小さな杖と1メートル無いくらいの剣を持っていた。ちなみに妹の武器は大きな杖である。杖は使わなくても魔法を使えるらしいが、杖を使うと魔法の威力と命中性と発動時間が短くなるらしい。僕は魔法が使えないので、詳しいことは分からない。
「今振らなくても、良いかもな。後で何か課題が見つかったら振れば。兄貴は今の魔法で十分強力だし。」
「そうするか…でもなぁ、早く上げて、成長を実感したいなぁ。」
お兄ちゃんは迷った挙句に少し落ち込んでいる。
ちょっと面白くて笑える。人が落ち込んでいるのを見て笑うのは最低かもしれないけど、お兄ちゃんが些細な事で落ち込んでいるのが面白いのかもしれない。
「喉渇いたな。お兄ちゃん、水ちょうだい。」
章子がお兄ちゃんに言った。
「はいよ。」
お兄ちゃんは石でできたコップを作ってそこに水を溢れさせた。土魔法と水魔法を使っているらしい。
「いいなぁ、魔法。」
「スキルに縛られない力の使い方は研究しておいた方が良いぞ。」
スキルとしてはストーンショットや、ストーンウォール、ウォーターボールなど固定化された技らしいが、土魔法や水魔法として使いこなすことによって、器用なことができるらしい。
「私も少しだけ魔法を自由に使えるようになったよ。」
章子はお兄ちゃんからもらった水を飲み干すと、手から白い光を出して、宙に浮かせた。
「これ、ライト代わりになるのか?」
「そうそう。」
なんということだ、僕の買ったランプの魔道具が無駄になってしまったかもしれない。
章子のだした光は、見つめていると気持ちが安らぐような気がする。
「不思議な光だな。」
「まぁ、もともとヒールの魔法だからね。」
「そうだったのか。なんかヒールの光をライト代わりにするのはもったいない気がするなぁ。」
「まぁ、使えるのは、緊急の時ぐらいかもね、あんまり長続きもしないし。」
ヒールの光の玉はだんだんと薄くなって消えてしまった。
ランプの魔道具はまだしばらく現役でいれそうである。良かった。
「でも、いいなぁ、魔法。」
魔法はやっぱり羨ましい。なんで僕には魔法が無いのかな、せっかくファンタジーなのに。女神様、僕に魔法を下さい!
「幹太がスキルに縛られない力を研究するには剣を学んだりするしかなさそうだな。」
「誰が教えてくれるんだよ、そんなの。」
「道場はいくつか街にあったけどな。」
「行ってみるかぁー。」
「幹太にも魔力ってあるんでしょ、だったら、魔法も使えるようになるかもよ。」
章子が珍しく慰めてくれている。
「そうかなぁ。皆どうやって魔法使ってるの。」
章子は腕を組んで考える。
「うーん、光出ろーって感じ。」
だめだ、分かりにくい。光出ろーで光が出たら苦労しない。章子は感覚派なのだろう。論理的じゃない。
章子はあんまり参考にならなかったけど、お兄ちゃんなら、何か手掛かりになることを言ってくれるかもしれない。今度は期待した目付きでお兄ちゃんの方を見た。
「俺も、火出ろーって感じ。」
お兄ちゃんが申し訳なさそうに目線をそらして言う。僕は絶望する。
「そ、そろそろ寝ようか。」
「そ、そうだね。」
お兄ちゃんと章子はそう言うとライトを消して横になった。外は月明かりがあってテントの布が薄く光を通しているので、完全に真っ暗にはならない。
僕も横になることにする。
僕は寝付けるまで、心の中で、光出ろーと強く念じ続けた。
魔法の光が出る前に、欠伸が出て、いつの間にか意識は暗い底に沈んでしまった。
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