第七節
その日以降、私と里咲は、雨上がりによく虹の麓を目指して歩いた。
言ってしまえばただの散歩なのだけれど、その散歩のルールを里咲は私に少しずつ教えてくれた。
あの日、里咲が私を散歩に連れ出してくれたから、私は雅さんのことで過剰に落ち込んだりするようなことはなかった。
それどころか、私は雅さんと過ごした時期よりも充実した日常を過ごして、雅さんと過ごした時期よりも毎日を楽しいと感じている。
全部全部、里咲の
そして、雨上がりの宝物を探しに濡れた街を歩いたあの日があったからこそ、私たちは以前よりもずっとずっと仲良くなった。
少なくとも、私はそう思っている。
雨が降れば、「早く止まないかな」なんて言いながら曇天の空を眺め、どの方角に虹が出るのかを予想しあった。
雨がやめば、私たちは二人で一緒に散歩に出かけた。
放課後にはこれまで以上に寄り道をして帰るようになったし、週末には一緒に岐阜や名古屋にまで遊びに出かけた。
里咲を家に泊めたこともあったし、二人で旅行に出かけたこともあった。
その間、私たちは互いを「里咲」「燈」と呼び捨てで呼んだ。
呼び捨てで呼ぶことに特別な意味なんてない。
けれど、私たちにとっては重要な楔の意味を成していた。
敬称を使わないことが彼女を私に繫ぎとめ、私を彼女に繫ぎとめ、二人の関係を補強した。
そうして幸せな時間を積み重ねながら、時は流れた。
優しくて楽しい充実した時間は悠久にも感じられた。
いつまでも、この二人だけで成り立つ閉じた世界が続けばいい。
それだけで私はいつまでも幸せでいられる。
少なくとも、私はそう思っている。
里咲もそうだったらいいな。
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