俺の愛した人達へ
宵闇(ヨイヤミ)
第1話
ある日の夕方、公園のベンチに座り空を見上げ日が暮れていくのを見ていた時だった。
君の口から発せられた“死にたい”という言葉が酷く俺の胸に刺さったのだ。何故そうなったのか、俺自身も分からない。だが何か心当たりはないかと言われると俺らは付き合っているからだろうと思う。流石に彼女がそんなことを言い出したら驚くし止める。
「何か嫌な事でもあったの?」と聞くと、君は首を横に振り「何も無い」と答える。「ならどうしてそんなことを…」なんて口にしたら「何も、気付かないんだね」と君が言った。
俺には全く分からない、心当たりがないのだ。しかし君がそういうということはそれは僕が知っていてもおかしくないことなのだろう。でなければそんなことを言うはずがないのだから。
「……ねぇ」と君が口を開く。「どうしたの?」と返した途端に君は悲しそうな声で「もう、別れよう」と絞り出したかのような声で言う。
「どうして、急にそんな…」としか俺は言えない。するとどうだ。君は「私は貴方の事が好きなの。でも貴方が好きな相手は私じゃない。もうこんな一方通行に耐えられないの……」と言い、その場で泣き崩れた。
正直驚いた。君がそんなことを思っていたなんて俺は思いもしなかったのだ。
しかし俺には君と同じくらい想う人が確かにあった。が、君のことも愛していた。自分で言うのもなんだが、俺はたらしだろう。
「ごめん、だけど君のことも愛してるんだ」そう言うと君は驚いた顔をした。そして言葉では表わすことの出来ないような、なんとも言えない顔になった。
「…そうだとしても、向こうの方が好きなんでしょ?」と君は問う。「いや、君のことも同じくらい好きだよ」と返す。
そこからしばらくは互いに無言のままで時が刻々と流れていく。
ふと時計を見ると、まもなく19時だった。
「そろそろお別れの時間だ」そう口にすると、「私はまだ貴方と一緒に居たかった…なのに、どうして……」と泣きながら下を向きそう言った。
「俺もまだ君とこれからを歩んで行きたかったよ……でも、もう無理なんだ。だから、俺よりもいい人を早く見つけて、新しい幸せを掴んでくれ………」と言い俺は立ち上がる。君は「嫌だ…嫌だよ…っ!私には、貴方だけなの!だからお願い……何処にも行かないで…」と言って君は涙を流し下を向く。
俺は君と百面相かのようにコロコロと変わる顔が面白くて好きだった。しかしその中でも俺は君の泣き顔が一番嫌いだった。好きな人の悲しむ顔ほど見たくないものは無い。
君の顔に手を伸ばし、指先でそっと触れ顔を持ち上げる。涙を流したまま上を向く君に「好きだ。君に出会えて本当に良かった。ありがとう」と最後の言葉を告げて僕は霧のようにふわふわと消える。
君はその場でまた涙を流し、地面に座り込む。俯きながら泣きわめく君に俺はもう手を差し伸べる事が出来ない。
これが俺の、最期の日だった。
死んで49日目の今日が、本当の最期。
死んだ時に俺は死神とやらに頼んだ。“49日経ったら大人しく成仏する代わりに、49日間彼女に俺の姿が見えて、触れたりする事も出来るようにして欲しい”と。
長いようで短い時間だった。最後に彼女を泣かせて何もしてやれないなんて、俺は最低な男だ。彼氏失格だな。
〜残してきてしまった君へ〜
君と出会えた事が俺の人生で最高の幸せでした。君が隣に居てくれるだけで凄く嬉しかった。本当は死ぬ前にプロポーズしようと思っていました。でも死んでしまった。
やっぱりもっと早く言っとけば良かったな……
こんな酷い奴でごめんな。
俺よりも君を大切にしてくれる人がきっと居るはずだから、その人と幸せになってください。君の幸せを、俺は死後の世界でも祈ってます。
先に逝くことを許してくれ……
〜家族へ〜
まず始めに、みんなより先に死んだ親不孝者の俺を許して下さい。今まで沢山迷惑や心配をかけました。喧嘩して家出したりもしました。
でも俺は家族が大好きです。
それと俺には大切な彼女が居ました。
きっと俺の家に来るか、葬儀などに来ていたと思います。もし家に来たりしたら、いい子なので良くしてあげてください。
家族のことも、彼女のことも、俺はとても愛していました。
49日の間に書いた手紙を俺は机に置いておいた。きっと次誰かが俺の部屋に入った時にでも開封されて読まれることだろう。
幸せな人生で、最後に悔いを残してしまった。
だが今まで関わってきた人全員に、心の底から「ありがとう」を伝えたいと思った。
今叫んでも誰にも届かないとわかっていたが、俺は空へ向かいながらも地上に向かって「ありがとう」と腹から声を出して叫んだ。
感謝は、言えるうちにしておけよ。
俺の愛した人達へ 宵闇(ヨイヤミ) @zero1121
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