王権妹授説 ~兄さんは世界覇王になるべきです~
揚羽常時
未来から妹がやってきた
「お粗末様でした」
とは僕の言葉で。
今日は絶好のお別れ日和。
葬式があった。
僕の両親の葬式だ。
両者揃って骨になった。
別段日本の何処ででも発生している事案。
葬儀屋が失業知らずとは良く聞く話で。
結婚が聖書で、葬式が念仏ってのも微妙な感じではあるけども。
普通に普通の交通事故。
父と義母のお見送り。
「さて。そうなると……」
懸念も残る。
「大丈夫?」
「大丈夫か?」
僕の親友たちが声を掛けてきた。
「別に僕が死んだわけでも無いし」
「無理に悪役ぶらなくてもいいし」
「冗談だよ」
「いや笑えんぞ」
それは失礼をば。
でも実際に僕は無病息災だ。
「まぁ一応ね」
「辛かったら言えよ?」
「その時は友情に頼るよ」
問題は其処には無く。
「大丈夫かな? ルリ……」
「あーっと……」
友人が気まずげにする。
「妹さんか?」
「
義母の連れ子。
臆病で小動物で超可愛い。
これからは僕が守っていかなきゃならない。
「さっそく友情に頼るチャンスだぞ」
「いや。妹のことはこっちでなんとかする。一応家族だし」
「ていうか普通に家族やって出来るのか?」
「遺産はあるだろうけど、あとは野となれ山となれ」
「おい。笑えないぞ」
「失礼をば」
*
「ただいま」
僕は実家に帰る。
両親は既に納骨が済み、少し広めの一軒家に血の繋がらない兄妹が。
ちなみに妹……ルリは人見知りで不登校。
繊細な心を持つ天使だ。
「おっかえり~」
小学生ながら美少女で、とても引っ込み思案な……………………って。
「誰?」
「兄さん!」
知らない人に抱きつかれた。
兄さんって。
「えと。どちらさまで?」
「ルリです! 兄さんの妹!」
ちなみに…………違う。
僕の妹は小学生だ。
こんな僕と年齢が接敵する容姿を獲得していない。
「そっくりさん?」
髪や瞳は同色なんだけど。
ちなみにルリはアルビノだ。
そして目の前の謎の女の子もアルビノだった。
ウィッグとカラコンの可能性もあるけど。
「で。君は?」
「だからルリ! 兄さんの妹!」
「間に合ってる」
「本当だってば~」
「どうやって証明するの?」
「たとえば遺伝子証明とか?」
「なるほど」
それは分かりやすい。
*
「それで用件は何?」
「兄さんを世界で一番幸せにしに来ました!」
「お疲れ。解散」
「本当ですよー!」
「たとえばどうやって?」
「世界征服をするとか」
「出来ると思う?」
「それなりに」
頭大丈夫かなこの子…………。
「そのために未来からやってきたんです!」
「ワンモアセイ」
「そのために未来からやってきたんです!」
聞き間違いではなかったらしい。
「未来?」
「ええ!」
コックリ頷かれる。
「だから未来から過去に飛んだ分だけ加齢が為されているんです!」
それでルリの成長した姿に。
頭から話を信じるなら……だけど。
「バック・トゥー・ザ・フューチャー?」
「です!」
「ハリウッドに行け」
「本当ですってば~」
泣きそうな顔で言われても。
その与太話を信じろと?
「だから兄さんを世界征服の旗頭にします!」
「普通に暮らせない?」
「兄さんを世界で一番幸せにしたいので」
「何で?」
「それは……!」
言えない事情があると。
題するなら悲哀か。
今の大人ルリの表情は。
「あう……お兄ちゃん……」
「どしたのルリ?」
本物の方が怖ず怖ずと行った。
「お姉ちゃんは……本物……」
ぐうかわ。
超絶萌え。
「でもなー……」
未来から妹が時間を遡行してきたと。
信じろと。
受け止めろと。
「どっちにせよ行く場所が無いんだけど」
「まぁ泊めるのはいいんだけど」
ルリではあるし。
「だから大好き兄さん!」
未来のルリは「お兄ちゃん」ではなく「兄さん」と呼ぶらしい。
ちょっと大人っぽい…………のだろうか?
「じゃあ僕の部屋使って良いから」
「兄さんと一緒に!?」
「僕はソファで寝るよ」
「一緒に寝ていいよ?」
萌え。
「とりあえずは夕餉にするけど何かリクエストはある?」
葬式からこっちのためか。
現実的なツッコミも入れられない今日この頃。
未来からやってきた妹を受け入れる自分を俯瞰してみたり。
「ドライカレー!」
うん。
元気がいいのはいいことだ。
とてもルリとは重ならない大人ルリの闊達さが、逆に未来で何が起こったのか気にしてしまってみたり……。
ちょっと不安を煽る。
*
「にゃあよう」
ズゴーとドライヤーが唸る。
大人ルリの髪を乾かしていた。
信じたわけじゃ無いけど、他に可能性も浮かばないのも事実で。
要するに押し切られたわけだ。
「兄さん!」
「はいはい」
「一緒に寝ましょう!」
「却下」
ズゴーとドライヤー。
シルクのように滑らかな髪だ。
こういうところはルリと共通するんだよね。
自供を信じるなら同一人物らしいけど。
「あう……」
ルリもお風呂からあがる。
「おいでおいで」
「にゃあ……」
か細く鳴く義妹の愛らしさよ。
「……………………」
「どうかした?」
少し黙った大人ルリに声を掛ける。
「いえ。ちょっと。自己嫌悪」
「何も悪い事してないよ?」
「現時点では」
「えーと?」
「いえ。いいんです」
「そ?」
「要するに問題は無かった事に為りましたから」
こっちは問題だらけなんだけど。
「とにかく世界征服です! 兄さんを世界覇王にしてみせます」
「あ。それはやるんだ」
「当然です」
それもどーかなー?
「とりあえずは国連に宣戦布告して、両手を挙げるように警告します」
「国際テロリストって言わない? そういうの……」
「正義は歴史が語りますよ」
「国連に勝つつもりなのかー」
「あう……」
ルリの方も困惑気味。
いきなり自分が現われてテロを指嗾すれば誰でもね。
別段ルリが悪いわけでもないも。
「核兵器とか持ってるの?」
「いえ。主に情報戦ですね」
ビバ。
ネット社会。
色んな意味で有り得ない。
けれど未来の妹は目がマジだ。
「本当に?」
「嘘なら結構やりますね私」
それはそうだろう。
信じられないオールフィクションがまだしも納得に足る。
「別に核ミサイルのキーを乗っ取ることも出来ますけどね」
その意味で破滅的かもね。
核戦争になれば世界中がシッチャカメッチャカだ。
「そこまでして世界を征服しなくても」
「迷惑……かな……?」
そこでルリっぽい態度はズルいぞ…………。
断れなくなる。
「ダメじゃ無いけど動機がね」
「兄さんを世界で一番幸せにするためです」
筋道が立たないのも若さか。
*
夜のこと。
「兄さん?」
「……………………」
別に騙すつもりじゃなかったけど。
何となく言葉を出しそびれてタヌキ寝入り。
「起きていらっしゃいますか……?」
はい。
起きてます。
と答えるには、大人ルリはひっそりとした声で。
どこか僕に寝ていて欲しいと思っているのだろう。
だからあえて寝たふりをした。
「えへへ……」
そんな僕の掛け布団に大人ルリも入ってくる。
「一緒のお布団……」
恋寂しいのか。
ルリは僕に抱きついてソファの広さを圧迫する。
同衾。
というには性徴がちょっと笑えない。
明かりは既に消えている。
真っ暗闇だけど、意識だけは明瞭に。
「ごめんなさい兄さん……」
だから次の言葉も拾ってしまった。
「ごめんなさい兄さん……私を守るために無茶をさせて……」
おそらくだけど。
未来世界でもルリと二人きりになってしまったのだろう。
けれどゴメンって?
「私を庇うために死に追いやって」
そんなことになっていたのか。
未来の僕は。
妹を一人きりにさせるとは。
「兄さんだって辛かったのに……引き籠りで何もしなくてごめんなさい……」
別にいいよ。
ルリのためなら多少の無茶はするよ。
「だから……今度こそ兄さんを……私の手で幸せにします……」
無理することないんだ。
そう言えたら良かったけど。
今の僕は眠っていなければならず。
ルリの懺悔を聞くのみだ。
「兄さんを世界覇王にしてみせます」
「……………………」
「だから兄さん」
「……………………」
「愚かだった私を殺してください」
きっとソレは悲しいことで。
きっとソレは優しいことで。
きっとソレは苦しいことで。
――殺したい。
――懺悔したい。
――やり直したい。
そんなことがとても大事で……それなら僕にも否やは無い。
「王」の「権」利を「妹」より「授」かると「説」く。
そんなことで妹を救えるなら、僕は世界にだって喧嘩を売る。
王権妹授説 ~兄さんは世界覇王になるべきです~ 揚羽常時 @fightmind
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます