第57話 GMも職務を放棄した
「次は戦闘の仕方ね」
アリスは斧をよいしょと持った。
少女の姿に大きな斧。アンバランスで似合わない。
「物理攻撃は単純に殴るのと、スキルを使うのがあるの。スキルは先ほど私が使った突進技の『牙突』ね」
「牙突が実装されているわけじゃないだろ」
著作権的にどうかと思う。
本間の言葉にアリスはにこりと頷く。
「スキルも、後ほど説明するけど魔法もモーションと言葉で発動するわ。モーションと言葉は自分でカスタマイズできるの」
「ああ、だから漫画やライトノベルの呪文が使えるわけか」
いや、呪文長すぎるのは不利じゃないか。
まあ本人が楽しんでいるからいいか。
アリスは斧を背中にしまい、ポケットから青い宝石を取り出した。
「魔法はこの青い石、魔石を使う。剣士や侍、槍使いは石を上に投げて浮かせて使うけど、ポンカンは魔法職だから、そっちを話しましょうね」
ポンカン……
落ち着け自分。彼女はそれがキャラクター名だと思って言っているのだから。
「ポンカンが使える魔法は、と」
アリスが本間のステータス画面を大きくして、横にスワイプする。
「風の刃とバリアと二つね」
説明はありがたいものの、もうどこか安全なところでじっとしていたい気分ではある。
「風の刃は対象へVの字を描く。バリアは頭上へ丸を描く。そのモーションをしながら、風の刃、バリアというだけよ。簡単でしょ」
「そうだね」
「レベルが上がるほど純度の高い魔石を装備できて、強い威力の魔法を使えるの。見て、ポンカンの杖の先の石も魔石だけど、原石っぽいでしょ」
確かに。同じ青い色をした石だが、アリスが持っているものの方が澄んで綺麗な青だ。
と、画面の端に『GMコール』という文字が見えた。
「GMコールって、ゲームマスターを呼べるのか」
何でもできる管理者みたいな存在か。
「ゲームマスターはサポート役みたいなものよ。バグでダンジョンから出られない時の救済や、嫌がらせをするプレイヤーを牢獄に一時隔離したり、不正行為を取り締まる……」
アリスの説明が止まる。
「どうした?」
「呼んでる」
「え? 何を?」
「GMコールしてる」
指が画面のGMコールに触れていた。
しまった。
ログアウトできない状況という、GMが忙しいところで仕事を増やしてしまった。
申し訳ないことをした。来たら謝ろう。
「どうも、GMです~。何か御用?」
とてもGMとは思えないノリの軽そうなのが来た。
高身長に赤髪のショート。ぴっちりとしたドレス。涙ほくろが印象的な大人な女性。
「すみません。間違いです」
本間は謝るも、GMは赤い唇の端を上げた。
「あらそう」
そして、本間にだけ聞こえるよう、耳元で囁く。
「官公庁の役人が何やっているのかしら」
「どうも」
本間は憮然として答える。
アカウントかログイン情報でこちらのことを知っているのだろう。官の方がゲーム開発者側に情報を渡していてもおかしくはない。
「レベル1でどうしようもないと思っていたところですよ」
本間は自嘲気味に笑った。
実際にそうである。何も言い訳などできない。
「そう。いいわ。私もGMコールされるのに飽きたところよ」
(GMが職務放棄したらいけないだろ)
と本間は思ったが、自身も職務放棄しているようなもので、なんとも言えなかった。
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