何気ない日常

うさぎ君

私は働きたくはない

 明日は仕事だ。明日も仕事だ。

 行きたくないと思う。

 でもそんなことはもちろん言えないんだ。

 私には兄弟がいる。彼は就職したけど、人間関係が悪くてリタイアしてしまった。

 今は、日雇いでなんとかかんとか過ごしている。


 私は大学を出て資格を取ったんだ。この資格があれば、就職には困らない。

 私に就職氷河期は来ない。

 父と母が高い学費を出してくれた。

 私は努力をした。両親はお金を出して僕にチャンスをくれた。

 私は努力した。必死に、必死に。

 私は資格を手に入れたんだ。

 私の就活はイージーモードだった。

 私がブースに近づけば、みながこぞって私を迎え入れてくれる。

「ぜひうちに」

「いや、うちにどうか」

 私は選ぶ立場で就職を決めたのだ。


 私は疲れた。

 どうして人間関係というやつは、こんなにも私を、兄弟を、むしばむのだろうか。


「あんた。いつもとろいな」

「早くこっちに渡せ」

「もっと丁寧にして」

「なんでこんなのもできないの」

「あの人って感じ悪いよね。そう思うでしょ」


 罵詈雑言。醜い地獄。私が一体何をした。

 こびへつらい、顔色をうかがうのが私の仕事。

 私はこんなことをするために。あんな努力をしたのだろうか。

 両親の血と汗は、こんな物に消えたのだろうか。

 私は働きたくない。

 働けることは幸せなことだと思う。

 働けず、お金がもらえず、飢えるだけ。苦しむだけ。

 そんなことはないのだから。

 私は恵まれていて幸せなのだ。

 だけど、私は働きたくない。

 やめた先に救いは無いのかもしれない。

 私が仕事を辞めれば、家族はどうなる。兄弟はどうなる。

 引く手はあまただ。転職はできる。しかしたどり着く先も、少しの違いがあれど、結局は同じなのだ。

 進む先が見えず。暗い。

 私は働きたくない。


 太陽の光が私の瞼を刺す。

 時刻は七時十五分。

 私は隣で眠る兄弟を一瞥し、今日もカラ元気で起きた。


 今日は仕事だ。今日も仕事だ。

 明日も明後日も……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る