第30話 山積する次なる難題
「やった!」
蒼井はガッツポーズ、瑠音と高谷はハイタッチして喜びを露わにした。けど、高谷はすぐさま現実的なことを口にする。
「やっと候補地が特定できたけれども、こんな場所までどうやって行くの?」
「あ……そうだね」
「清順さん、島は無理だって言ってたっけ」
蒼井に振り返られた野木村は、地図を一目見て「さすがにこいつは厳しいな」と首を捻った。さらに倉持に代わってタブレットの前に座り、地図を拡大させた。
「うーん、船で渡るほかなさそうだけど、定期便があるようには描かれてないな。まあ、人は住んでいるみたいだから、行き来する手段はあるはず。あとで調べてみるとしよう。それと、交通手段が何とかなるにしても、今回の旅行中にっていうのは無理だと思う」
野木村の判断に、「えーっ」という残念がる声と「それはそうですよね」と納得する声とが上がる。
「日を改めて島に向かうとなると、色々とハードルがある。スケジュールや費用、そもそも家族の人が許可してくれるのかどうか」
「うちは難しいなあ」
高谷が床に手をつき、天井を仰ぎ見た。
「短い間に何度も外泊を許してくれるとは、ちょっとね」
「僕のところも多分、無理」
今度は倉持が言った。
「夏休みの後半は、家族揃って父さんの実家に帰省すると決まっていて」
「何だよ、それじゃ多分じゃなくて、絶対に無理だろ」
蒼井はがっかり感を隠していない。「そういう蒼井君は?」と問われて、
「俺のところは聞いてみないと分からない。割と暇だし。宿題さえちゃんとやってればオーケーもらえるかな。費用は別として」
と答えた。要は、自分一人だけ行けたとしてもつまらないと思っているらしかった。
三人の目が残る一人、班長の瑠音に集まる。
「私の家も似たような感じ。大丈夫だと思う。ただ、もし本当に日を改めるんだったら、今回のをなるべく早く切り上げた方が印象はよくなるかも」
今回の東海行は大雑把に一週間ぐらいの日程を取り、毎日連絡を入れるという約束で出て来ている。まだ二日目。ここで一旦打ち切って戻れば、残りの五日分、新たに泊まり掛けの旅に出ていいという思惑だが。
「いや、それはやめておいた方が。瑠音さんだけでなく他のみんなのご家族も急に変更されて困惑するだろうし、泊めてくれているこちらの白上さん家にも、逆の意味で迷惑かもしれない」
野木村が懸念を表すと、それはそれでうなずける物があった。
「どうしたらいいと思う、野木村さん?」
「まずは電話なり何なりで連絡をして、状況を正確に伝えて分かってもらうのがいいと思うよ。これこれこうで、宿題が中途半端なところで止まっちゃったの、みたいな感じで。あと、こちらの天気についても詳しく伝えて、問題なく過ごせているってね。あ、これは瑠音さんだけじゃなく、蒼井君も倉持君も高谷さんも、みーんなした方がいい」
「電話なら昨日の晩に、したばっかなんだけど」
蒼井がそれやる意味ある?と続けて述べると、野木村は言葉を被せ気味に「あるよ」と応じた。
「きっと家族が心配しているよ。昨日の夜遅くから今日に掛けてはこの辺はずっと大雨の予報が出ているからね。現地にいれば思ったほどじゃなかったなと感じていても、遠くにいる人にはなかなか分からないさ。テレビ等の報道では、被害のひどいところを映すものだしね」
そこまで一気に語ると、野木村は一つ手を打った。
「よし、これは僕からの指令だ。みんな今すぐ家族に電話をして、無事だってことを知らせる。いいね? 何だったら僕のタブレットを使って、テレビ電話してもいい」
「いや、ありがたいけど、うちの親、テレビ電話のやり方知らないし」
蒼井が冗談めかして言ったところで、笑いが起きた。
「調べてみてだいたい分かった」
月子の用意してくれたおやつをありがたくいただきながら、野木村の話を聞く。
瑠音達の他に月子も同席しているのだけれども、彼女は暗号解読の途中経過をまだ聞いていない。
「無蔵島へは二週間に一便の割合で、船が出ている。一般の人でも料金を払って乗船可能」
島だの船だのといきなり出て来て、月子が「え? 何の話?」となっているのが氷上から分かった。
「分かりにくくてすみません。暗号を解読していくと、無蔵島という島に辿り着いたんです。関心があるんでしたらあとで説明します」
「ありますあります」
「こちらから月子さんにお願いしたいこともありますので」
「? はあ……」
きょとんとなる月子にはとりあえず辛抱してもらって、話を続ける。
「では続きだ。――ただし、島にいる人の知り合いが優先で、その人達で一杯になったら外部の人は乗れない。要するに当日にならないと分からないってこと」
「乗れなかったらその日は泊まり? きっついなあ」
「元々、観光地ではないみたいだから、仕方がない。満員なんてことは滅多にないそうだけど、気にはなるな。ちなみに船はカーフェリーなんて代物ではないから、車は港にでも置いておくしかない。
島に渡ったら、泊まる場所は一軒だけあるらしい。ヒムサシ屋っていう名前の、雑貨屋を兼ねた民宿みたいなところなのかな。ホームページなんて作ってないのか、見付からないから想像だけど」
キャンプ道具を用意しなきゃいけないのかと思った、と本気とも冗談ともつかぬ感想を述べたのは倉持。これに高谷が、
「島に渡れなかったら、必要になるかもよ。本土の旅館は高そうだし」
と真顔で言う。
「まあまあ、寝泊まりする場所はさておき、別ルートで確実に渡る方法もあるにはある」
「何だ、それを早く言ってよ清順さん」
「漁船だよ。船主と直接交渉して、連れて行ってもらうんだ」
「お、面白そうだけど、怖そうな気も……」
「その場合、帰りはどうなるんですか」
「最初に頼むときに往復してもらう約束をするか、島の漁師に改めて頼むか、だね。予め往復を頼むのは、宝探しが何日かかるか分からないので難しいかも。メールか電話で連絡を取って、じゃあ今日帰りますので来てくださいなんて風には行かないみたいだ」
「あ、ネット環境はあるんですか」
倉持が何故か目を輝かせる。
「さすがにある。調べ物する分には、さほど困らないと思うよ」
「それよりもネット環境があるのなら、リモートで見ることできるなと思って」
行けない可能性が高い倉持だが、途中で投げ出すのはやはり嫌なようだ。現地に立つのが無理なら、せめてその目で宝探しの結果を見届けたい。
「そういう手があったわね。私もリモート宝探しで我慢することになるのかしら。瑠音ちゃん、蒼井君と二人きりになってもがんばってね」
「二人きりって。少なくとも野木村さんがいるでしょ。ねえ?」
「あ、やっぱり。僕も着いていくことになってるんだねぇ」
最初から決まっていた、みたいな言われ方に、野木村は頭をかいた。
「え、嫌ですか?」
「嫌じゃないよ、興味ある。こうなったらとことん付き合うつもりだから。ただ、僕にも大学の課題やお金のことや、色々あって。行くなら行くで、日程を早く決めないと他のことの計画を立てられない」
そうと聞いたら、さっさと決めたい。瑠音は頭の中で脳細胞をめまぐるしく回転させた、つもりで考えた。
「漁船にお願いするという方法は、やっぱり現地に行ってからの話になるんですよね?」
「そうだね。予約は無理」
「だったらとりあえず、その無蔵島に近い港の町までは行くしかない、でしょ? 定期便が出る日に合わせて。で、定期便に乗れなかったら、漁船の漁師さんと交渉」
「基本はそれでいいと思う。でも天気の問題もあるから、タイミングをよく見極める必要がある」
「そっか。船を出せない場合もあるんだ」
「あと、港町まで仮に僕の車で向かうとしたら、関西方面でまだ復旧してない道路があるから、その辺の復旧待ちか、別の道を見付けていくのがいいのか、検討する時間がいる」
「色々大変だー。実際問題、東京を出て、えっと、これは兵庫か岡山か広島?の辺りまで走り通せるの、清順さん?」
「きついね。休憩を取りながらにするか、もう一人、運転できる知り合いを巻き込むか」
「だったら宗久おじさんを」
瑠音が思い付きを口にしたところ、後ろから月子に肩を叩かれた。振り向くと、月子が黙って首を横に振っている。
「いけないわ。あの人にハンドルを任せるのは。不慣れな車となればなおさらよ」
「そんなに? 私が見たことある宗久さんの運転は、たいして荒っぽくなかったけど」
「瑠音ちゃんはたまにしか見ないからね。とにかくやめときなさい。あの人の運転だって聞いたら、あなたのお父さんお母さん、行くのを反対するかもしれない」
「ええっ、じゃあしょうがないか」
肩を落とす瑠音に、野木村は「運転手なら僕の方に心当たりがあるから、何とかなるかもしれない」と若干含みのある言い方をした。
「相手の都合もあるのでこれから調整になるけれども、時間をくれるかな。その間、瑠音さん達は後半の暗号解読に集中して取り組んでほしいな。島に入ったらできる限り早く解決したいからね」
「うん、そうする。調整、うまく行くよう願ってるね」
「ああ、がんばるよ」
話を区切ると、野木村は席を離れて月子に声を掛けた。
「暗号をどう解読して無蔵という島に行き着いたのかの説明と、さっき言ったお願いについてお話しします。子供達の邪魔にならないよう、どこか別の場所で」
「はい。それじゃあ空いたお皿とコップを持って行きますし、キッチンでいいですか」
そうして二人は広間を出て行った。
「月子さんがもし運転できるんだったら、一緒に来そうな感じがする」
扉がぴたりと閉ざされるや否や、倉持が言った。高谷がすぐさま反対意見を出す。
「そお? そこまで思いは強くないと思うけれども。せいぜい、あ、ちょっといいかも、程度よ」
「だいたい男の方の気持ちを考えてないのはどうかと思うぜ、クラッチ」
蒼井まで参戦したところで、瑠音は注意に出た。
「三人とも勝手なことを言ってないで、暗号に集中!」
班長の瑠音の号令で、高谷達は「はいはい」と従った。
「今のところ分かっているのは、屋敷の場所と一応向くべき方角。そして何かの計算をさせるような言葉があって、多分その結果の数だけメートルに当てはめて進む。その足下を掘ると、宝につながる何かがそこに埋まっていると。重要なのは何メートルなのかを突き止めること」
瑠音が簡便にまとめ、焦点を絞った。
「一から十までの数の中から弱い物四つを全部足す。弱いって言うのは何だろ」
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