オーバー・ザ・ホームワークス
つくのひの
第1話
「夏休み 最後の週も 駆け抜けた 宿題の山に 脇目も振らず」
と、ナツコさんは歌うように言いました。
「いや、むしろ宿題以外に脇目を振ってきたから宿題が終わっていないのでは」
と、カイトくんは言いました。
「だいじょうぶ、あとはこの自由課題だけだから」
「それを手伝えと。こんな朝早くから」
「そういうこと」
「ひとこと言ってもいいかな」
「そんなこと言ってる場合じゃない」
「まだ、なにも言ってないけど」
「言わなくてもわかる。どうせ、早く終わらせておけばよかったのに、とか、なんでもっと早くやらなかったんだ、とか言うんでしょ」
「うん。早く終わらせておけばよかったのに」
「うるさい。今さらそんなこと言ったってしょうがないでしょ。いいから、ほら、カイトも考えて。徹夜明けで二学期初日を迎えたくないでしょ」
「いや、僕は別に徹夜する必要ないんだけど。でも、ひとつ訊いていいかな」
「なに?」
「なんで、短歌なの?」
「ベストセラーになったある短歌集を読んで感動したから」
「へえ、短歌でもベストセラーになることがあるんだ」
「短歌でも? でもってなに? もう、いいから早くつくりなさいよ」
「ちなみに、何個つくる予定なの?」
「三十一個」
「三十一? なんか中途半端な数だね。でも安心した。百個とか言われるのかと思ってたから。でも、三十一個ならぜんぜん余裕なんじゃないの? 僕が手伝う必要ある?」
「なに言ってんの? 短歌をつくるのがどれだけ大変か、わかってる?」
「そんなに大変なら、もっと早く、いや、なんでもない。ちなみに、今は何個できてるの?」
「ゼロ」
「ゼロ? ゼロって、まだ一つもできてないってこと? さっきのは? 宿題をしないで夏休みが終わった、ってやつ」
「さっきのはただの現状報告だから。カイトに説明するための」
「短歌って、五七五七七に合わせるんだよね。季語はいらないんだっけ」
「そう、季語はいらない。五七五七七にすればオッケー」
「なるほど」
「うん」
「では、さっそく」
カイトくんは、ええ、ゴホンと居住まいを正しました。
ですが、なにかを言いかけたカイトくんよりも早く、ナツコさんが話し始めました。
「ちょっと待って。先に言っておく。クオリティの高い短歌を求めてはいるけど、一つの短歌にこだわりすぎて間に合わなかったら意味がないから。ちょっとルールを決めたい。
まず、お互いの短歌を否定しないこと。よっぽど変な短歌だったら話は別だけど。
次に、今からつくっていく短歌はすべて採用する。だから変な短歌とかつくらないように。ふざけないで、まじめにお願いします。
そして最後に、私が欲しいのは、ロマンティックな、高校生が青春してる、って感じの甘く切ないロマンス系短歌だから。でもこれはまあカイトにはあんまり期待できないとは思うけど、いちおう頭には入れておいて」
「はあ。注文が多いよ。ええと、まず、否定しない。そして、つくった短歌はすべて採用。そしてできればロマンス系で。こんな感じ?」
「そう。それでは、言い出しっぺの私からさっそく一つ」
ええ、コホンとナツコさんは居住まいを正しました。そして、歌うように言いました。
「いつだって 協力するよと 言うキミに 手伝わせてる 私の宿題」
「ええ? いきなりそんな感じ? 甘く切ないロマンス系はどこに行ったの?」
「否定しない」
「ええ? じゃあ、ええと。そうですか、ノンフィクションですか」
「ええ、そうです。ノンフィクションです」
おやおや。こんな調子で大丈夫なのでしょうか。楽しそうではありますが。
今のところ、できた短歌は一つ。残り三十個です。
さてさて、どうなることやら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます