第19話 熊さんパンツ購入しました
「これか……」
美少年がイラストパンツをガン見している光景……シュールだ。
「どう? 妹さんのプレゼントになるかな? 」
わざと妹へのプレゼントを強調するのは、あまりにおば様方の注目を浴びているから。
スーパーの下着売り場など、今時の子供(女の子)もこないだろう。実際、回りにいるのは年配のおば様ばかりで、へそ上パンツ等を吟味してらっしゃる。
そんなおば様方の聖地に、見目麗しいイケメン男子と、キュートな美少年が現れたのだから、そりゃ注目もされる。この際、弥生は空気の如く視界には入っていないらしく、誰とも視線が合わない。
「うん、この熊さん、妹の好きなやつだ。でも、他のいらないんだよね。熊さんで三枚組とかないのかな? 」
いろんな柄の組み合わせはあるが、熊さん単体が売っていないのがネックらしい。
「ウサギさんのとかあげたら、麗に子供扱いしないでって怒られそう」
唇を尖らせて悩んでいる尊であるが、弥生にはウサギさんパンツと熊さんパンツの違いがわからないい。イラストも可愛いなとは思うが、おへそまで隠れる形と綿の肌触りが気に入っているからだ。履いているかわからないような面積の少ないパンツは心もとないし、ツルツルした感触はあまり好きではなかった。
花梨からプレゼントされた下着も、ブラジャーは使っているが、パンティーはいまだ未使用のままだ。脱ぐとかなりいただけない感満載なのだが、上下お揃いにこだわりのない(誰に見せる予定もないと思い込んでいるから)為、可愛らしいブラジャーに小学生パンツと、女子力マイナスな弥生であった。
「幼稚園児パンツだな」
ボソリとつぶやく賢人は、パンツを横に引っ張ったり縦に伸ばしたりしていた。
「そんな、パンツこねくりまわさないでください」
「そうだよ。可愛い熊さんが伸びたらどうするのさ。それに弥生ちゃんだって履いてるんだから、幼稚園児パンツじゃないだろ」
「いや、こんなパンツで現れたひくし萎える」
「えー、可愛いじゃん。弥生ちゃんにぴったりだよ」
賢人の前でパンツ一丁になる予定はないから勝手にひいたり萎えたりするのは止めて欲しい。というか、萎えるって何?
あと、このパンツがぴったりって言われても喜べない。全然喜べない。
「いや、色っぽい下着も何気にありだ。地味な見た目で下着がエロいとか、かなりご馳走」
「そんなの想像できない。っていうか、そんな下着持ってなさそうだし」
熊さんパンツ片手に、何の会話だ……。
弥生は無になることにした。
ご馳走の意味もわからないし、変な想像もしてほしくない。
「かなりエロエロなのも持ってるぞ。……そこそこ似合ってたな」
「へぇ、そう、ふーん。……覗きは良くないと思うな」
「誰が覗くかよ! ちゃんと真っ正面から見たんだよ」
「スクール水着の上に着たやつだから。友達からプレゼントされたの見つかって」
さすがに、下着姿を見せる関係とは思われたくなく……お付き合いしているとしても……、弥生は会話に乱入した。
「スク水の上からなら、下着姿見せてくれるの? 」
「いや、そういう訳じゃ……」
「バカか? 弥生の下着姿なんかたいしたもんでもなし、見る価値なんか……」
それを見せることを強要したのは、何処の誰だ?!
珍しく弥生にきつく睨み付けられ、賢人も珍しく視線を反らす。
「見る価値あるよ! 熊さんパンツ、絶対可愛いもんね。いや、スク水だけでも萌えるかも! 」
グイグイくる尊に、弥生はタメ息を一つついた。
シスコンのロリコンか……。
見た目の割りに残念な生き物らしい。鍵谷尊氏。
「下着姿にも水着姿にもなりません。で、これ買うんですか? とりあえず、買うなら代わりにレジに持って行ってあげますけど」
中身が変態でも、他人にバレるのは恥ずかしいだろうと弥生は提案した。
「うーん、熊さんだけ欲しいんだよね。そうだ、他の二つは弥生ちゃん貰ってくれる? 」
「貰ういわれはないので、二枚分お支払いします」
「それは悪いよ~。買う予定はなかったんでしょ? 」
「だから、そんな萎えるパンツを買おうとするな」
「私のパンツは有栖川君には無関係ですよね」
「そうだよ。熊さんパンツは麗にあげて余ったのを弥生ちゃんにって話しなんだから、有栖川君には関係ないじゃん」
「だから、貰ういわれは……」
熊さんパンツを巡り、何やら堂々巡りに会話が進む。
「よし、俺が話しをつけてくる」
「「はい? 」」
賢人は熊さんパンツ三組を手にレジに向かった。
「何しに行ったんだろう?」
「さあ? 」
レジにいたおばさんは、賢人の顔をポーッと見つめ、賢人の話すことに何やらうなずいている。首がもげるんじゃないかってくらい何度もうなずいた後、賢人の手から熊さんパンツを受けとると、何やらゴソゴソした後紙袋に入れて賢人に渡した。賢人もお金を払ってニッコリ笑顔を向けていた。
「買ってきちゃったよ」
「三組も? 」
賢人は尊に紙袋を押し付けると、右手のひらを上に尊に差し出した。
「お待たせ、鍵谷、千円寄越せ」
「千円って、一組の値段だよね?」
「ああ、熊のパンツを三枚にしてもらった。これなら弥生にやらなくていいだろ」
「三枚セットばらしてくれたの?それって、大丈夫なのかな? 」
「知らね。熊のだけ欲しいんだけどって言ったら、快くばらしてくれたぜ。そんじゃ帰ろうぜ」
「イケメンの有効活用ありがとう! 有栖川君って、クールで女の子にだらしないイメージがあったんだけど、意外と良い人だったんだね」
賢人の氷点下の視線をものともせず、尊はニコニコと無害な顔をして毒を吐く。
「ほんと意外だよ。女の子になんか執着するタイプには見えないし、どっちかというと人間扱い(ただの穴)もしてなさそうなのに、弥生ちゃんが他の男に下着をプレゼントされるのが嫌だなんて、なんか凄く独占欲丸出しで可愛い」
独占欲?
賢人が、誰に?
「うるせーよ。用事が済んだらすぐ帰れ。おまえには可愛い妹が待ってんだろ」
「そうだね。麗、喜ぶだろうなぁ。早くその顔みたいや」
「とっとと帰れ」
「うん、じゃあ。弥生ちゃん付き合ってくれてありがとう! あのね、麗が一番可愛いけどさ、弥生ちゃんは麗の次に可愛いと思うよ。だって、麗の次に熊さんパンツがお似合いだと思うから」
尊は弥生の両手をつかんでブンブン振り回して握手をすると、返答に困ることを言って手を振って走って行った。
誉められた……のかな?
可愛いと言われたのは生まれて初めてだった。
しかし、何だかそんなに嬉しくないのは何故だろう?
少し呆けていると、両手をニギニギと賢人に握られた。
「どう……したんですか?」
「消毒」
「はぁ……」
スルリと賢人に左手を握られ、下着売り場を後にする。
人目は気になるが、毎朝の手繋ぎのせいか、手を繋ぐ行為には違和感を感じなくなってきた弥生だった。
そんな弥生の様子を横目に見て賢人は何を思ったか……、弥生の想像の範疇になかった。
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