第16話お昼休み 女子会乱入中
何でこうなった?
★★★
若葉達と仲良くなってから、ほぼお昼は三人で食べるようになっていた。賢人のせい(ハーレム女子達に机を奪われるせい)で教室でお弁当を食べれない弥生は、学食の多い若葉達と教室以外で食べていた。
今日は弥生と若葉はお弁当、楓はパンを買ってきていた為、中庭ででも食べようか……と話していたところ、お弁当を持った尊が乱入してきた。
お昼一緒する約束したよね? と可愛らしく首を傾げられても困る。
「遠藤さん、佐々木さん、一緒してもいいかな? 」
美少年の一言に、若葉も楓もコクコクと頷く。
「鍵谷と飯食うの? 」
前の席の賢人が話しに入ってきた。
すでに数回席替えをしていたが、毎度賢人の隣や前後になっていた。くじ引きなのに……。昨日席替えをし、前後が逆転しただけ。こうなると弥生は呪いを疑っていた。
これが弥生以外なら、「これは運命よ!! 」と頭の中が花畑状態になることだろう。
「ダメ? 」
何で賢人が口出すの? と、尊は首をコテンと倒して聞く。
可愛い、可愛いけどあざとい!
そして彼は男の子だ。
女三人して頬をひきつらせて賢人と尊を見る。
正統派美形の賢人と、無性別的に可愛らしい尊。男性vs男性の筈なのに、この組み合わせは破壊的だった。
お似合い……。
何かがおかしいが、一部の女子には需要が高いだろう組み合わせに、特に腐女子的思考のない真面目系な三人も思わず「カップル成立! 」と叫びたくなった。
実際には、誰にも内緒ではあるが、弥生と賢人がカップルであるにも関わらず。
「俺も一緒する」
「は? 」
「遠藤、佐々木、いいよな」
弥生の承諾はいらないとばかりに、若葉と楓に了承を得て弥生の弁当を片手に立ち上がった。
「うちの部室なら人こないから」
ハーレム女子達がくる前に教室を出ようとする賢人に、弥生達はしょうがなくついて行く。
「有栖川君、お弁当ないじゃん」
賢人はいつもハーレム女子達の弁当を食べているから、昼食は用意していない。今だって、弥生の弁当以外は持っていないのだから。
「これ食うから大丈夫」
これって、私のお弁当だよね?
予想通りの返事が返ってきて、弥生は脱力してしまう。
弥生の弁当は、高校生女子が食べるには多少大きい(ダイエットなど考えたことがなく、食べれば大きくなれると信じているから)が、それでも一人分である。
「有栖川君って、渡辺さんと仲良しなの? 」
「同じ中学出身なんだよね? 」
「そうそう。うちの高校には弥生ちゃんと有栖川君二人だけだから話したりするって言ってたよね」
弥生の代わりに若葉達が答えてくれる。
「へえ、同じ中学なら小学校も?家が近いとか? 」
保育園から一緒で、家は隣同士です……なんて暴露したくなく、弥生は曖昧にヘラヘラ笑った。
賢人のハーレム女子達に見つかることなく、サッカー部の部室についた。部室は……なんていうか男臭いというか、ここでご飯食べるの? と眉間に皺が寄るくらいには独特な匂いが充満していた。
「ま……窓開けようか」
弥生が窓を開け、賢人と尊でテーブルを用意した。
女子三人横並びになり、目の前にイケメン二人が座る。
「な……なんか、男子も一緒に食べるって緊張するね。弥生ちゃん、私の半分食べて」
「私も、パン一つあげる」
弁当を賢人に奪われた弥生の為に、弥生の弁当の蓋に若葉がおかずやご飯をのせてくれ、楓は玉子サンドを一つくれた。
「あ、僕のも食べる? 僕の手作りなんだ」
尊がお弁当箱を開くと、男子の手作りとは思えないキラキラしい弁当が出てきた。
「……キャラ弁。すっごい! 鍵谷君が作ったの?! 」
若葉や楓がキャーキャーと騒ぐ。
「うん、妹の小学校がお弁当なんだよ。だから、毎日僕が作るの。ほら、可愛いでしょ? 有栖川君も食べる? 」
「いや、いい。そういうのは好きじゃない」
「まぁ、味より見た目だしね。でも、ほら! この玉子焼きは美味しいよ。甘めだけどさ」
キレイにまかれただし巻き玉子を持ち上げ、賢人(弥生のだが)の弁当箱にのせた。
賢人一口齧り、残りを弥生の口元に持ってくる。
「ほら、食え」
犬じゃないんですが……。
弥生は渋々口を開けて、賢人の箸からだし巻き玉子を食べた。
「うん、美味しいね。鍵谷君、料理上手」
その様子を、三人はポカンと眺めていた。
「アーンてした」
「しかも食べかけ」
若葉達のつぶやきを聞き、弥生はやってしまったことに気づく。
「アハハ、やっぱり仲良しなんだね。クラスじゃ全然わからなかったよ」
「普通だろ」
賢人はごく普通に流し、弥生の弁当をパクパクとたいらげていく。
「なんか、凄い勢いだね」
「こいつの飯はうまいからな」
「えっ? 渡辺さんのご飯食べたことあるの? 」
「……」
言い訳! 言い訳考えて!!
賢人はシレッとスルーして弁当を完食した。
「ほら、箸」
箸は一つしかなく、当たり前のように賢人に使われていたから、とりあえずサンドイッチを食べていた弥生に使い終わった箸が渡された。
「あ、ありがとう」
悩むことなくその箸を使い始める弥生にまたもや視線が集まり、弥生はおかずを口に入れようとしてストップする。
「あ……お箸……洗ってこようかな」
今さらな気もするが、ただのクラスメイト、しかも異性の箸を共有して使うことはナシなんだろう。
昔から一緒に食事をすることも多く、直箸で味見をしたりさせたりする関係だから、全然気にしたことはなかったのだが。
「そう……だよね。あ、私洗ってきてあげる」
流しに近いとこに座っていた楓が立ち上がった。
「有栖川君はさ、渡辺さんのご飯のどれが美味しかった? 」
「スパゲッティとかグラタンとか……ハンバーグもうまいな」
「それ……今のお弁当に一つも入ってなかったよね」
弥生は冷や汗がダラダラたれる思いだった。
尊は今の弁当のおかずで何が一番美味しかったのかを聞き、賢人は今まで食べた中の好物を答えた訳だ。
「あ、あのね! うち、有栖川君ちと隣同士なの」
「えっ?! つまり……幼馴染み?」
「そう。親同士仲良いし、うちも有栖川君ちも両親共働きで、夕飯を私が作ることもあって……、それで、それだけなの! 」
思わず目をギュッと閉じて叫んだ弥生には見えなかったが、「それだけなの」と言い切られた途端の氷点下並みに不機嫌さを表した賢人に、弥生以外の三人は全てをさとった。
弥生からしたら、せっかく友達になった若葉と楓に、嘘をついていたと思われたくなくて必死の言い訳だったのであるが、それが賢人の逆鱗に触れたなんて考えもしなかった。
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