第18話 お城でっか!

 首都、エーレ。

 中央にはとても大きいお城、エーレ城が建っており、その歴史も深い。

 開放型の作りで、遥か上空まで続くその壮大な門は閉まる事なく、いつどんな人でも出入りが自由となっている。

 飛空挺、空中戦艦、どんな大きい物でもすっぽり入ってしまうほどの空中ドッグ。他国からも整備や改造だけで来国する船も多く、朝から晩まで終始賑わいが途絶えることはない。

 勿論船だけでは無い。箒に跨った魔術師も入る事は可能なのだ。

 当然それだけ大きいのだから、内部の移動も箒や小型艇での移動が基本となる。


 魔術師、技術者、戦士、色々な人達が集まるこの城は、今日も歓声が飛び交い、日々技術の向上に研鑽しているのだ。


「ふああああ...... すごいねエーフィー! ここがお城かい?」


 空中回廊を箒で移動しながら、目的地の受付カウンターを目指す。自分も久々に来たからか、少しの戸惑いと高揚を感じるのであった。


「そうだよ、エーレ城ね。来たことないんだ? まあそれもそうか」


 本当はお留守番させたかったのだが、我儘を言われてしまった。外の世界をもっと見たいだそうな。


 前日の夜、これまでの事と、これからの事について話し合いを行った。

 まず目下の問題、借金についてだ。といってもこれについてはまだ直面すらしていないので、仕事を探してから考えようという事になった。それに、どちらにしろお城で求人を探した方が早いのだ。あそこはこの国の全ての情報が集まる場所。雑誌だけで探すのは限界がある。

 コリー・シュバウツについても同等だ。お城に行けばまとめて用事を一掃できるし、実際行ってみないと分からない。

 そして次が最重要科目、大叔母様の宿題についてだ。

 お星様を解放してあげて、この言葉はどの様な意味なのだろう。やはり中身の無い砂時計は関係しているのだろうか。全くの未知で推理のしようがない。


「ねえ、本当に心当たりはないの? ホッシー。まるでヒントが無さすぎて考えようがないよ」


「うーん、私も憶えてるのなら喋っているさ」


 それも当然か、嘘を吐くメリットはさほど感じないし。


「まぁ、ひとまず家が確保出来ただけでも良しとしようじゃないか! あの幽霊さえなんとかなればこっちのものだね! 一安心さ!」


 この星は何故にああも幽霊を怖がっていたのだろうか。幽霊に怖がるのなんて人間くらいだ。とすればやはり元は人間。


「幽霊が怖い星なんて、どんなお伽話にも出てこないわよ。絶対元は人間でしょホッシー」


「うーん、言われてみればそうかもしれないね。きっと絶世の美女だったに違いない! だって星になってるくらいだよ? きっと徳をかなり積んだんだろうな〜」


 全く分からない基準だ。良いことをしたら皆星になるらしい。私はそれでも人間でありたいけどね。


「ねえそれよりもさ、この砂時計なんだと思う? 中身が無いなんて不思議だねえ」


 大層な装飾が施された、とても丈夫そうな砂時計。しかもうっすらと防壁の魔法を掛けてあるので、どんなに粗末に扱っても傷ひとつ入らなそうだ。

 つまり、それほど大事な物らしい。


「そうだね、開けれもしなさそうだし、エーフィーの魔力でも入れるんじゃない?」


「もうそれは試したけど、全然ウントもすんとも言わないよ。ふぅ、これが開放の鍵だってのに、呑気だねぇ」


 そう、呑気なのだ。

 確かに考えても分からないことをいくら悩んでも仕方ないのだが、あまりにも興味が無さすぎるのではないか。


「まぁまぁエーフィーさんや、明日も早い事だし、今日はそれくらいにしてはいかがでしょうか」


 とまあこんな感じだ。

 実際明日は早いので、さっさと寝て起きて準備して来た訳だ。

 いいよね星は、準備なんて無くて。


 空中回廊をひたすら飛び、受付カウンターまでたどり着いた。

 ひとまずコリー・シュバウツのことについて聞くと、不思議そうな顔で受付嬢が受け答えしてくれた。恐らくこんな学生が、その様な人物に会うのに疑問を感じているみたいだ。


「はい、シュバウツ様ですね。ご本人が許可をすれば面会は可能ですが、どの様な御用でしょうか?」


「あの、マリーちゃんについてお話しがしたいと伝えてください」


「かしこまりました。おかけになって、少々お待ちください」


 そう言って受付嬢はカウンター奥へと引っ込み、魔道通信機のダイヤルを回し始めたのであった。


「おお、やっぱりいるんだね。お城にいてくれて助かった。ここの居住区に住んでるのかな」


 しばらくして、受付嬢に呼ばれ、事情を説明される。

 まず自分が何者かと言う所と、何が目的だという事を聞いて欲しい言われたそうだ。ちなみに状況によっては自衛団の派遣もやむなしと言うことらしい。怖すぎる。


(うーん、過剰に反応されてるな。あまり聞かれたくないと見た。でも約束してしまったことだし、ここは強引にでも特攻するしかない)


「あの、それでしたら私の名前と、目的は言えないとだけ伝えてください。エーフィー・マグと言います」


 受付嬢はもう一度奥に引っ込み、コリーに詳細を連絡した。しばらくの会話を交わした後、コリーの言葉をこちらに伝える。


「マグ様、シュバウツ様が面会を許可しましたので、ご案内致します。そばの小型艇にお乗りになってください」


 よし、ここまでは順調に進んだ。後は頑張って説得してお屋敷まで来てもらうだけだ。兄妹の再会、絶対に叶えて見せる。


 小型艇が空中回廊を動き回り、目的地の場所までたどり着いた。耳の中が遠くなっているので、それなりに高度のある階まで来てしまったらしい。お城の上階は、所謂“富豪”と呼ばれる人達の場所だと聞く。それならマリーの言う通り、やはりコリーには商売の才能があったと言うことだろう。


「マグ様、ここで降りてください、シュバウツ様の部屋になります。お帰りの際には自前の箒か、横のベルを押して頂ければ小型艇が参りますのでご活用下さい。それでは」


 案内人が去り、豪華な装飾の門の前で一人佇む。


「ゲフュール!」


 感情の色が見える魔法を唱え、準備を済ます。

 相手は最強の商人。ということはかなりの交渉をこなして来た玄人。多少ズルしても悪い事は無いだろう。


 脇にあるベルを鳴らすと、門が開かれ、一人の男が出て来た。

 見た目は初老を超えたくらいのおじさんで、当然とも言える身なりの良さ。角ばった短めのコートに、赤いタイが見え隠れしている。

 ヒゲも凛々しく整えられていて、ダンディズムが仄かに醸し出されており、香水のおかげか良い香りが漂って来た。

 いかにも、上流の人間ですよと言わんばかりだ。


「どうぞ入りたまえ、エーフィー・マグ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る