第3話 落ちこぼれ魔術師エーフィーと心召すお星様 開幕
とある星の、とある時代に、勇者と魔王のいる世界がありました。
未だ勇者は魔王を討ち滅ぼせず、逆に魔王も勇者を倒すことが出来ず、勢力図は五分五分といった所です。
勇者はいつか魔王を討たんと、力の増強の為、先祖代々から力の引き継ぎを行うことにしました。
一方、人々も黙って指を咥えてるつもりは無く、少しでも魔王の勢力を打ち返そう思案を重ねました。
その結果、勇者のいる国「エーレ」は戦力増強の為、子供の頃から魔法に触れさせようと、沢山の学校を設立しました。
––––いつか起きるであろう、大きな戦いに備える為に。
勇者と魔王の誕生から500年余りが過ぎた頃、一人の少女がこの世に生を受けました。
名前は、エーフィー・マグ。
彼女のマグ家は、毎度大層な魔法使いを輩出する優れた家系です。彼女の大叔母に当たるマーフィー・マグは、それはそれは偉大な魔法使いでした。何と当時の勇者と共に旅をし、魔王のお城までたどり着いた数少ない人物。
彼女の力も重なって、魔王を一歩手前まで追い詰める事に成功したのですが、ギリギリの所で逃げられてしまいます。
魔王を討伐することは出来ませんでしたが、その功績は大きく、当時エーレで一番大きな魔術学院「マギシューレン」に石造が彫られる程、国民から愛され、同じ魔法使いから尊敬される偉大な人物となりました。
当然、彼女と同じマグ家の血を受け継いでるエーフィー・マグも、偉大な魔法使いになる事を期待されていたのですが……。
残念な事に、彼女にはてんで魔法の才能が無く、努力して努力しても結果が得られない毎日を過ごす事になります。
当然、普通でしたら心が折れ、魔法使いになる事を諦めてしまう筈なのですが。
「私! 絶対に大叔母様を超える偉大な魔法使いになってみせる! なってみせるのだ!」
元来前向きな性格である彼女は、諦めると言う言葉を知らないみたいです。周りの大人達は諭す様に、傷つけない様に彼女を説得していたのですが、彼女は誰の言う事も耳に貸そうとしませんでした。
その前向きな性格と、夢に向かうひたむきな姿に心打たれたマーフィー・マグは、何とか彼女を学院に入れてあげたいと、幼い頃から英才教育を施します。
その中で、マーフィーはある事に気付いてしまったのです。とても重大で放っておく事の出来ない大きな問題。
しかし、それが公になってしまうと、エーフィーの身に危険が及んでしまいます。
愛する姪の為、彼女は決してその事を口外することはありませんでした。
公になってはいけないが、いつかは伝えなければいけない。
ある日の事、マーフィーの前にキラキラ煌めくお星様が降ってきました。どこかで見た事のある様な、感じた事のある様なお星様に親近感を覚えます。
「貴方はもしかして流れ星? お願い事を叶える為に来てくれたのかしら?」
すると、何とそのお星様は急に喋り出し、彼女に重大な事を告げます。その事実に動揺したマーフィーは、何とか対策を練らなければいけないと、そのお星様と議論を重ねる日々を過ごしました。
「分かった、もちろん協力するよ。でもその事を知ったままでいるのも危険だね。無知で純粋な気持ちで挑まないと失敗する。マーフィー、それなら私の記憶を消してくれないか? こう都合よく、さ。貴方なら出来るでしょ? でも、私の能力は消さないでおくれよ。それが無いとエーフィーの助けになれないしさ」
お星様の思わない提案に、マーフィーは少し躊躇いをしてしまう。でもそれしか方法はないのかもしれない。
自分の寿命も、持って後数ヶ月なのだ。
「大丈夫だよ、あの子を少し見たけど、問題なさそうだ。彼女ならきっと、色々な“感情”に触れても染まらない。溺れるかは分からないけどね」
「貴方は……いいのかしら?」
「私? 私はいいのさ。貴方のおかげで今も生きているんだ、それくらいの協力なんてことないのさ。さあ! そうとも決まれば早速お願いしようかな? 偉大なる魔法使い、マーフィー・マグ」
マーフィーは涙を堪え、お星様にある魔法を掛けた。
自分が何者であるか、人格はそのままに、けど“運命の日”まで決して思い出さない様に。その器が満たされるまで……。
「ぐすん、ありがとう、お星様。貴方の想い、きっとエーフィーなら解ってくれる筈。あの子には荷が重いでしょうけど、きっとやり遂げてくれるわ。私には分かる。そうでしょう? お星様」
返事が無い、ただの星形の金属になってしまった友人をそっと胸に抱え、自分の血脈にしか開く事が出来ない宝箱を生成し、1通の手紙と共にそっと封を締めるのであった。
その後、彼女は将来に関して胸が軽くなったのか、以前に比べよく笑う様になりました。
「大叔母様! どうしたの? 何か良い事でもあったのかしら? そんなニコニコしちゃってさ。あ! そういえばファイの魔法唱えられる様になったんだよ! まだFランクだけどさ、えへへ、大きな進歩だね!」
マーフィーは、えっへんと腰に手を添えるエーフィーの姿に愛おしさを感じながら、彼女の事を見守り続けるのでした。
最期の時まで。
変わらぬ笑顔のまま。
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