バイバイガール

山室 小豆

第1話

人は、たくさんの別れを経験する。

それは、必然的な別れもあれば自発的な別れもある。


人との関係なんて結局はその場限りのもの。

そんな関係に執着している子はバカな子。

自分の生活をおびやかす人や物はバイバイしてしまえばいい。

バイバイできない人は最低限の事務的なかかわりでいい。


鈴木 舞子(すずき まいこ)は、コンビニで買ったお弁当を温め、最近買ったばかりの低いテーブルの上をきれいにする。

今日は新卒の歓迎会とかで上司に顔だけでもだしてほしいといわれたので、行って挨拶だけして帰ってきた。

歓迎会なんてしてもどうせかかわるのは仕事だけなのだからそんな馴れ合いなんて無駄な時間は必要ないと思う。

ただでさえ、人とかかわることが好きではないのにあんな騒がしい場所にいたら仕事よりも疲れる。

普段は自炊を心掛けている舞子も今日ばかりは作る気になれなかった。


「はあ、やっぱりご飯は手作りのほうがいいかも。」


こんな冷めた女に見える舞子にも一つだけ好きなものがあった。

それは甘いものを食べることだ。舞子はコンビニで目に留まって買った「幸せになるプリン」と書かれたカップを冷蔵庫から持ってくる。

かわいい妖精の描かれたピンク色のふたをめくってスプーンですくったプリンを口に運ぶ。


「う、まず。なにこれ。」


味は最悪だった。薬のような苦みと変に甘ったるい匂いで気持ち悪くなる。

テーブルに突っ伏しそうになって目の前の変な生き物に目が留まる。

15cmくらいの男の子?背中には細長い羽根が生えている。

まずいプリンを食べたせいで幻覚を見ているのだろうといっそのことと目をつぶりテーブルに突っ伏す。


「まって、まって、いま目があったよね!僕のことみたよね!」


「あー、幻聴もするってどんなにまずいのよ。これ。」


「幻聴じゃないってば、えい!」


男の子は舞子の髪を引く。舞子は髪を引っ張られた感覚にもしかして現実なのかもしれないと男の子を見る。


「えーと、あなたは?」


「ぼくはノア。きみを幸せにしにきた妖精だよ。」


「わたしを幸せに?私は十分しあわせよ。だから必要ないわ。」


「そんなはずはないよ。僕たち妖精は幸せになるべきなのに幸せになれていないひとのところにあらわれてその手助けをするのが仕事なんだよ!なにかない?」


そういわれたところで舞子にはピンと来るものはない。


「ごめんなさい。やっぱりわたしは十分幸せ。他の人をあたってもらえる?」


「だめだめ、僕はきみを幸せにするためにきたんだよ。きみを幸せにできないと僕はカレッジを卒業できなくなっちゃう。」


ノアが諦める様子もなく、妖精だから外に放りだしても無駄だろうと思った舞子は仕方なく気にすることをやめて明日の仕事のために寝る準備をし始めた。

その間ノアが何度か話しかけようとするが軽く相槌を打つくらいでそれ以上は会話がつづかなかった。

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バイバイガール 山室 小豆 @azukiyamamuro

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