第25話:三角形→四角形

 スーモトライアングル──と俺は名付けた。


「変な名前付けないでよ」

「カッコいいですっ」

「だろ? 分かってないなぁ、ネフィさんは」

「くっ」


 全てのツリーハウスには、精霊スーモが住んでいた。しかも外見がみんな違うという驚き。

 ただどのスーモの容姿も子供だ。そして髪が緑と、ここまでは共通している。性別は男女あって、これは木の性別に準じているそうな。


「スーモと」

「スーモと」

「スーモで」

「「土を元気にするの(んだ)(だよ)」


 三人のスーモが声をはもらせた。

 離れた位置にある三本のツリーハウスを頂点にして、三角形のゾーン内の土を元気にするってことらしい。

 そのトライアングル内に木を植えると、成長が早くなる。

 ずっとじゃない。収穫できるようになるぐらいまでだ。あとは普通の土に戻っても、定期的に収穫できるから大丈夫だって。


「エルフの里中のトライアングルゾーンを使っても、全部は植えられそうにないわね」

「まぁそこは仕方ないさ。通常は一年ぐらいで収穫できるようになるそうだから、他は自然に任せればいいだろう」

「美味しい物を元気な土に植えましょう」

「ちゃんとバランス良く植えるんだっ」


 料理しやすいものとかも考慮しないとな。

 料理なんてしたことがないエルフが相手だし、まずは炒めるだけでいいような葉物野菜とか玉葱人参あたりかな?

 じゃがいもも蒸かして塩を振るだけでもうまいし、パンの代わりになる炭水化物メニューだ。これも優先させよう。


「じゃあカケル殿。苗木を皆に配って貰えますかな?」

「分かりました」


 長老に頼まれて里のエルフに苗木を配る。苗木の植え方はツリーハウスのスーモたちが教えてくれるという。

 残りの苗木は里の近くに植える予定だが、その為には木の伐採をしなくちゃいけない。

 それに関しては森の精霊にお願いして間引かせて貰う。

 間引いた木もちゃんと有効活用される。一部は収穫した野菜を入れるための小屋として、また一部はエルフたちの新しい家として、そして一部は──


「よぅ、兄ちゃん。竈造りに来てやったぞい」

「あ、ドワーフのみなさんっ」


 竈造りのお願いをしたドワーフらに、そのまま持ち帰って貰おうと思って。

 それはエルフの長老からの提案だった。

 どの種族でも、薪は必要不可欠な物だ。火石がどこの家庭でも当たり前にある訳じゃない。

 そして火石ではダメな場面もあるそうだ。


「各家々にか。こりゃあ大仕事だな」

「作業する間、あちらの家をお使いください。つい先日、空き家になりましたので」

「まさか死人が出た家か?」

「ははは。独り身だった者同士が結ばれ、片方の家が必要なくなったってだけですよ」

「なんでぇい、めでてー家か。こっちにも独りもんがいるし、あやかれるかもしれねーな」


 ドワーフとエルフの間で笑いが生まれる。この世界の二種族は、意外と仲がいいみたいだな。






 エルフの里の全ての家に竈が出来たのは、作業を開始してから半月後だった。

 全ての家──と言っても、巨木の上に建った小屋のような家には竈は造れず。代わりに共同で使える大きな竈が造られた。


「屋根も付けときゃ、雨の日でも使えるだろう」

「ありがとうございます。これで料理を楽しめそうです」

「作業台まで用意してくださるなんて、本当に助かります」

「なぁに。あっちの兄ちゃんには世話になったしな。それにホットサンドメーカーなんてぇ面白いもんも見せて貰ったし」


 そのホットサンドメーカー。ドワーフの里で量産に取り掛かっているそうな。

 ある程度数が出来たら、エルフの里にも届けてくれるらしい。普通の鍋なんかも含めて。


「あれから半月経ってんだ。わしらが戻ったら交代で物を届けるために出発するだろう」

「何から何まで、お世話になります」

「いやいや、世話んなってるのはこっちもお互いさまだ。またクリスタルの仕入れを頼めるかい」

「えぇ、よろこんで」


 クリスタルか。もう少し効率よく集められる場所でもあればいいんだけどなぁ。

 この前のアントンムカデの巣みたいにさ。


「となると、やっぱりダンジョンなのかなぁ」

「なにが?」

「ん、クリスタルを効率よく集められる場所さ」

「あぁ。そうねぇ、確かにダンジョンの方がモンスターの数は多いでしょうね」


 ダンジョン……行ってみたいな。せっかく異世界に来たんだし。

 となるとやっぱり、冒険者に登録とか?


 けど、ダンジョンに行くってなると、里を離れることになる。

 ネフィやルナは、一緒に来てくれるんだろうか?


 それから数日の間、ドワーフと取引するためのクリスタル集めを頑張った。

 例の岩穴拠点のおかげで効率はアップしたが、元々大量にモンスターが徘徊しているわけじゃない。

 拠点で二泊して、ゴーレムとバジリスク狩りを頑張った結果、取れたクリスタルの数は四十個。


「百個ぐらい、どーんっと取れないものかなぁ」

「無理よ。だってこの辺りだけじゃあ、そんなに数いないもの」

「だけど四十個でも多いのです。カケルのように簡単に核を壊すのだって難しいです。凄く効率よくクリスタルを取れているんですよぉ」

「そうよ。クリスタル百個なんて、贅沢言わないの」


 むぅー。

 やっぱりダンジョンに行ってみたいよなぁ。向こうでもやっぱり無理だっていうなら、まぁ諦めるけどさ。

 けど──二人がエルフの里を出たくないっていうなら……。


「と、ところでカケル」

「え、なんだいネフィ」


 里への帰宅途中、いつものようにツンっとした口調でネフィが声をかけてきた。

 口調はツンツンしているが、その態度はもじもじ、顔はほんのり赤く染まっている。


「い、いつになったらダンジョンに行くの?」

「え……い、いつって……」

「カケル、エルフの里から離れるのですよね?」

「そ、それは……」


 ネフィとルナが俺を見つめた。


 せっかく出会えたのに、仲良くなれたのに……彼女たちと離れるのは辛い。

 二人も同じように思ってくれているんだろうか。


「俺は──」

「ボク、里を出たことが無かったから楽しみぃ」

「うんうん。この前ヒューマンの町に行ったけど、お店がたっくさんあって楽しそうだったですぅ」


 え。


「カケル、いつ行くの!?」

「いつです!?」

「スーモも、スーモも行くぅ」


 あぁ……二人、いや三人とも来るのか。

 なんだ、寂しいなんて思ってたの、俺だけだったのか。


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