第26話:旅立ち→拉致監禁

 エルフの里を出発して半年が過ぎた。

 この世界での暮らしもすっかり慣れてきた頃、ある噂を耳にした。


「ブレアゾンの姫さんが召喚したって言う勇者が、城から脱走したそうだな」

「まぁ勇者として召喚されて、ただのお飾りってんだからやってらんねーだろ」

「そうかねぇ? 俺はただぼーっと突っ立ってるだけで、毎日美味い飯が食えるってんだから、いい仕事だと思うがねぇ」


 ブレアゾンブレアゾン……あぁ、あの金髪縦ロールだ。

 ってことは、脱走したのはクラスメイトだな。


「カケルのお友達も、大変みたいねー」

「そうだなぁ。あいつら、今頃どうしてるんだろう」

「脱走するぐらい、楽しくなかったのかなぁ」

「勇者様、大変なのぉ?」


 大変なのかなぁ。

 その辺り、俺は全然分からないけど。


 宿の食堂でそんな話を耳にして、なんとなく離れ離れになったクラスメイトが気になって。

 それに気づいてか、ネフィが「次はブレアゾンに行ってみる?」と提案してくれた。


 ブレアゾンは隣の国で、乗合馬車でも結構掛かる。

 行ったところで再会できるとも限らない。


 けど──


「行ってみるか」






 馬車で五日かけて、ブレアゾン王国へと入った。

 町では勇者に関する情報に耳を傾け、同時に冒険者ギルドでも話を聞いた。ついでにホットサンドメーカーの宣伝も忘れない。

 

「ホットサンドメーカードワーフ印の噂は耳にしているよ。ずいぶんいい物みたいだねぇ」

「おぉ、ついに隣の国にまで噂は広まったのか」

「生産が追い付かないようで、他のドワーフの集落でも作る手配をしているともね」


 そんなに大人気なのか。

 地球と違って機械で自動生産できる訳じゃないし、需要に対して供給が追い付くのはもっと先になりそうだな。


「それで、召喚された勇者の話か……王国から捜索隊は出ているようだけど、まだ見つかってないようだ。お前さんも報酬目当てか?」

「あー……えぇ、そんなところです」


 発見したら金一封。そんなことになってるみたいだな。

 しかし脱走するって、どんな生活を送っていたんだろう?


「あの、召喚勇者はなんで城を脱走なんか?」


 ギルドの職員に尋ねると、彼は周囲に視線を向け、それから手招きをして耳を貸せという。


「ここのお姫さんがな、隣国を挑発しすぎたのさ」

「挑発?」

「そう。なんせ十人以上も勇者を召喚できたんだ。そりゃあ鼻高々にもなるだろう」

「まさか勇者の数が多いからって、喧嘩を吹っ掛けたんですか?」

「シーッ。聞かれたらマズいだろ?」


 俺は慌てて口を閉じ、周囲に視線を向けた。

 とりあえずネフィたち以外には聞かれてないようだ。


「まぁそういう噂があるってことだ。ただ突っ立ってるだけってのも退屈だろうが、戦争に巻き込まれるとあれば……なんで異世界人の為に自分が危険な目に会わなきゃならないんだって……君ならそうは思わないかい?」


 そう尋ねられ納得する。

 戦争とは無縁な環境で育った俺たちが、人間同士の殺し合いに進んで参加するなんて考えられない。

 それが嫌で逃げた奴らがいるんだろうな。


 出来れば匿ってやりたいが、まず見つかるかどうか。


 ブレアゾン王国で三つの町を移動し、ホットサンドメーカーの宣伝をすること一カ月。

 とある町で突然冒険者に呼び止められた。


「あんたら、そのホットサンドメーカー。どこて手に入れたんだ?」

「え? これはドワーフの里で──」


 作って貰った──というのは嘘。

 もともと日本から持ってきていた奴だ。


「購入希望だったら、申し訳ないけど流通するまで待ってくれないか? 宣伝用に持ってないとダメだからさ」

「いや。ドワーフ産のものだっていうなら別に用はないんだ」


 ドワーフ産に用はない?

 じゃあどこ産ならいいって言うんだ。


「そのホットサンドメーカーをドワーフに作らせている奴を知らないか?」

「え? つ、作らせて?」

「あぁ。そいつを探しているんだ。俺たちの雇い主に頼まれてな」


 ごくり。

 その雇い主って、いったい誰なんだ?


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