第18話:お風呂→小麦

「こ、これっ。毒消し草じゃない!」

「え?」


 さっき水をやった苗木から、もさもさと葉っぱが生えていた。

 それが全部毒消し草だとネフィティアは言う。


「わぁ、本当だぁ」

「どうしてツリーハウスの苗から……」

「ス、スーモがお願いしたの」


 もじもじとスーモが言う。

 もしかしてさっきの水やりとか苗木なでなでは、そういう事だったのか?

 

 苗木は葉っぱでもさもさになっている。


「スーモ、苗木から毒消し草を出せるのか?」

「うん。ほ、他にも、植物ならなんでも」

「おぉ! え、じ、じゃあ……小麦も?」


 小麦は形としては、木でも草でもない。それでも出せるんだろうか?


「で、出来るの。でも……」

「でも?」

「こ、小麦は大きな木だから、ここでは無理なの。お家に帰ってからじゃなきゃ、ダメなの」


 ……はい?


 小麦は……木?

 いや、穂だろ?


「よしっと。毒消し草は全部で二十枚になったわ」

「これでたっくさん、ドクドクになれるですぅ」



 ルナのその言葉に、俺とネフィティアが呆れた顔になる。

 毒……食らわなくて済むなら、それに越したことがないんだけどな。

 分かってないのはスーモだけ。

 自分が褒められたと思って喜んでいる。


「ま、まぁ出発するか」

「そ、そうね。気を付けて進みましょう」


 大岩から少し進むと、石ごろごろエリアから砂漠の一歩手前のようなエリアに出た。

 なるほど。砂ってのはここのやつなんだな。


「スーモ、この砂で良いか?」


 スーモは砂を触って頷く。

 砂はダンボールの中に入っていた45リットルゴミ袋に詰め込む。満杯にするとゴミ袋が破れそうだし、何袋かに分けて入れよう。


「これぐらいでいいの」

「オケ。よし、んじゃあ急いで帰るか」






 エルフの里に到着したのは陽が暮れてから。

 持ち帰った砂は、ツリーハウスの根元に埋めてくれとスーモは言う。


 スキルを使って穴を空けると、埋めるための土が無くなってしまう。ルナたちが家から小さなシャベルを持って来てくれたので、それで頑張って穴を掘った。

 その間、スーモはスーモで何かやっているようだった。

 

 疲れた体で頑張って飯の支度。


「そういえば、ここでは風呂かは無いのか?」

「あるわよ。ここにはお風呂が作られてないけど」

「お風呂欲しいですぅ」

「じゃあ、ツリーハウスに、頼んでおくですの」

「ありがとう、スーモ」


 今まではタオルで体を拭いていただけだったけど、風呂もあるのか。

 今日のところはいつものようにタオルで拭くだけにしよう。


 ご飯も食べて、シュラフに潜ればすぐに瞼が重くなった。

 

 スキル……連続で五回までなら、気絶せずに済むようになったな。

 けどあれじゃあ足りない。最低でも十回……あとは効果時間たっぷり使って、一発で何匹も倒せるようになればな。

 その辺りも俺の意思次第みたいだったな。


 明日からも……ガンバ……ぐぅー。






「──なの。カケル、起きるのぉ」


 揺さぶられて目が覚めた。


「ん、んんー。なんだよスーモ。もう少し、あと十分……」

「起きて欲しいのぉ」

「分かったよぉ……ふあぁーぁ」


 目を擦りながら起きると、スーモがテントの外に連れ出そうとする。

 仕方なく外に出てみたが、特に何もない。


「こっちなの」


 スーモに案内されて階段を上って……階段?


「え、この階段、いつの間に!?」


 ツリーハウスの幹の内側に階段が生えていた。ぐるっと半周したところに穴があって、そこから外に出ることが出来る。

 外には枝が張り出し、まるでウッドデッキのようになっていた。

 かなり大きなウッドデッキだ。テントも置けるんじゃ──まさか!?


「ここにテントを張れってのは?」

「上見て欲しいの」

「上?


 見上げると、枝と枝の間がキラキラと光っていた。

 あれはガラス……か?


「枝からガラスが生えてる、のか?」

「えへ、えへへ。カケルたちに、取って来た貰った砂なの」

「砂──ガラスの材料だったのか!?」


 ガラスの屋根か。これなら空も見えるし、雨もしのげる。

 上の方には葉っぱ付きの枝があるので、直射日光もある程度防げるな。


「あっちにもウッドデッキ?」

「テ、テント、まだあるって言ってたから」

「二つ目のを張る場所か。そうだな、このままルナやネフィたちがテント暮らしをするって言うなら、二つ目も必要だな」

「お風呂、中なの」


 どれどれ。

 ツリーハウス内に戻ると、スーモが上を指さす。階段を上っていくと、張り出した枝の床があった。

 木製の湯舟と、壁から伸びたホース状の枝が二つ。一つは湯舟に、もう一つは丁度シャワーのような位置で固定されていた。


「これ、湯が出てくるのか?」

「ううん。お湯は出ないの」


 水風呂?

 ちょっとだけ残念な気持ちで下に下りて行くと、ルナとネフィが起きてきていた。

 外のウッドデッキや上の風呂の話をする。


「お湯は沸かすのは、火石を使うのよ」

「あぁ、そういうことか。じゃあ排水関係はどうなっているんだ?」

「使用済みの水は、またツリーハウスに戻っていくのよ」

「床にぃ穴が空いているですぅ。そこからお水は、ツリーハウスの中に流れるですよぉ」


 水を出して水を吸い込んでくれるのか。

 なんてエコな植物なんだ。


「あ、あとね、あとね。小麦も育てたの」

「小麦も!?」


 スーモに手を引かれて外に出ると、昨日までそこにはなかった木があった。

 高さ5メートルほどの、巨木ではなく普通の木。その木にヤシの実のようなものが生っていた。


「小麦なのぉ」

「え?」

「あれ、小麦なのー」


 あれというのは、つまりヤシの実?

 こ、こっちの世界ではヤシの実を小麦っていうのだろうか。

 いや、そもそもこれははヤシの木じゃないぞ。


 小麦小麦とスーモが言うので、木に登って実を一つもぎ取る。

 ん? なんか思ったより皮が固くなさそうだな。

 

「皮剥くのぉ」

「剥くって……剥けるのか?」


 ヤシの実って、刃物で端を切り落としてたよな。

 そう思ったけど……剥けた。

 みかんの皮を剥くような感じで向けたけど、その手をすぐに止めることになる。


「……嘘ん」


 剥いた皮の隙間から白い粉がさらさらと落ちてくる。


「それがパンの元なの!?」

「えぇーっ、粉ですぅ」


 そ、そうだよな。俺の知っている常識が、この世界でもそうとは限らないよな。

 は、はは。

 まさか小麦が木に生るとはね。ははは。


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