第15話:ステータス→寂しいの

 鈴村 翔 ヒューマン 男 16歳


 筋力:47  耐久:46  敏捷:52

 集中:45  魔力:25  幸運:18


【スキル】

 無:2(ユニーク)



 ステータスを調べるとこうだった。

 

 ネフィティアの言う通り、エルフの里に帰って来たのは夜になってから。

 途中で走ったので、少し早めに到着はした。

 といっても、もう眠ってしまったエルフもいるような時刻だ。

 途中何度もモンスターが出て来て、そのたびに二人の魔法が火を噴いた。

 なんとも頼もしい女の子たちだ。


「スーモ、ただいま。はぁ、疲れた」

「お、お帰りなの。遅かったの。し、心配だったの」

「ごめんごめん。ガイアン・ロックのいる荒野まで行ってたんだ」

「ガ、ガイアン、硬いの。危ないのぉ」

「大丈夫。俺のスキルは硬くても関係なく、効果を発揮するから」


 ただ連続使用回数が少ないのかなぁ。

 

「ネフィティス。魔力の数値が25なんだけど、多いのか? 少ないのか?」


 ステータスもスキルの後にすぐ調べたけど、あれこれ聞くのは帰ってからにしようと話さずにいた。

 この世界の住人の平均値がどんなものなのか、俺は知らない。

 だから自分の数値がいいのか、悪いのかも判断できないんだよなぁ。


「エルフの基準だと少ないわよ。ボクは78あるもの」

「ルナはね、ルナはね。82あるですよぉ」


 え、ルナのほうが魔力は高いのか!?

 つまり魔力=賢さではないということは分かった。


「ヒューマンの基準は知らないから、なんとも言えないわ」

「あぁそうか。エルフは精霊魔法が得意な種族だし、高くて当たり前なのか」

「でもルナたちは筋力とかぁ、耐久は低いのぉ」

「へぇ。俺は47と46だけど」

「高いじゃない!? ボクなんて筋力は19なのよ」


 まぁそれも、筋力の低い種族だからだろう。

 ヒューマンだとそんなものなのかもしれない。


 ステータスは分かったけれど、基準は分からないままか。






 翌朝。朝食の後、ツリーハウスの外周に水を撒き、それから長老たちの小屋へと向かった。


「おぉ!? このサイズ……もしやバジリスクか!?」

「違うわよ。マンティコアでしょ?」

「いえ、ガイアン・ロックです」

「外したかぁーっ」

「惜しい!」


 いや、全然惜しくない。

 ついでにガイアン・ロックの指も見せた。


「え……ガイアン・ロックの指……切り落としたのかい?」

「切り落としたのではなく、スキルが指に当たってもげたんです」


 その後、核を破壊したが指はそのまま残った。そう話すと長老たちも驚いていた。

 理由はネフィティアやルナとは違う。

 ガイアン・ロックの体を傷づけたこと自体に驚いたみたいだ。


「長老。核を破壊する前に、モンスターの素材を剥ぎ取ったりとか……」

「生きたままかい?」


 無言で頷く。

 五人の長老は首を傾げ、考え込んでいるようだ。


「難しいだろうねぇ。生きたまま皮を剥いだりとかは、終わる前に死んでしまうだろうし」

「鱗なんかは上手くいけば数枚ぐらい剥ぎ取れるかもしれぬ。だがそれをモンスターが黙って許すわけがなかろう?」

「弱らせて剥ぎ取るって言うなら、その行為が止めを刺すことになるわよ」

「それに、解体は慎重にならねばね。破れたり欠けたりすれば、価値が下がる」

「ま、出来なくはない。だがそれなら核の破壊以外の方法で倒したほうが早いだろう」


 ということだ。

 長老は知っていたようだ。核を破壊する前に切り落としたりした部位は、そのまま残ることを。

 

 まぁかなり難しいってことだよなぁ。

 

「で、これって価値があるんですか?」


 ガイアン・ロックの指だ。

 黒光りする石のようにも見える。


「ある」

「だけど小さいわね」

「もう少し大きければなぁ」


 じゃあレベルが上がってスキルがもう少し大きくなったら、手首とか狙って投げてみよう。


 ツリーハウスに戻って狩りの準備をする。まぁ準備と言っても、昼飯を作ってホットサンドごとリュックに入れておくだけなんだけどさ。


「今日はスーモに頼まれてる砂を取って来ようと思うんだけど」

「お、近くにあるのか?」

「昨日の荒野よ。ただしもう少し奥に入らなきゃダメなのよ」


 野菜炒めをホットサンドメーカーで作りながら話を聞く。

 日帰りできる距離だろうか?


「食料、多めの方がいい?」

「そうね。野宿は必須だもの」

「夜とぉ、明日の朝とぉ、明日のお昼の分ですぅ」


 四食三人分かぁ。多いなぁ。

 

「ん?」


 後ろから服の裾を引っ張られる。

 足元のスーモが目を潤ませて俺の服を引っ張っていた。


「どうした、スーモ」

「さ、寂しいの」

「寂しい?」


 スーモが頷く。


「カ、カケル……き、今日は帰ってこないの?」

「そう、だなぁ。砂のあるところが遠いみたいなんだ。砂、いるんだろう?」


 またこくこくと頷く。


「で、でも……スーモ……カケルと一緒に、いたいの」


 俺が悪いのか……。


「けどそうは言っても、お前はツリーハウスから離れられないんだろう?」

「だ、大丈夫なの! こ、これっ」


 スーモが地面にしゃがんで、そこに生えた小さな木を指さした。

 こんなのあったっけ?


「こ、これ、ツリーハウスの苗木なの」

「苗木?」

「苗木、ツリーハウスと繋がってるの。スーモ、苗木に宿るの」


 それで持ち運び可能ってことか。


「じゃあ何か入れ物探さなきゃな。なんかいいの、あるかなぁ」

「家に鉢植えありますぅー」

「でも焼き物だから、持ち運ぶには適さないわよ」

「ぷぅー」


 割れ物は困るな。移動だけじゃなく、戦闘だってあるんだし。


「木製なら割れる心配もないけど──スーモ、余ってる木材とかないのか?」

「余ってないけど、ツリーハウスの枝を使ってもいいの」

「いい? えぇっと、それはどこに?」


 なんて言っていたら、壁になっている幹から枝がにょにょにょーっと伸びてきた。

 先端が膨らんでぽろっと取れる。円柱形の木材になった……。


「これをくり抜けば鉢っぽくはなるな」


 問題はどうやってくり抜くかだ。

 ふん。ふんふんふん。


「"無"」


 そっと木材に『無』を押し当てる。

 なんの抵抗もなく、木材がくり抜かれていく。

 押し込み過ぎると貫通するので、適度に止めて──と。


「よし、じゃあこの中に苗木を入れよう」

「待ってなのカケル。か、貸して欲しいの」

「ん、いいけど、どうするんだ?」


 スーモがお手製鉢植えを受け取ると、それを地面に置いた。

 ズボッと音がすると、爪楊枝ほどの太さの枝が鉢の底から貫通して飛び出してきた。


「こ、これでいいの。お水、入れても溢れないの」

「おぉ、なるほど。じゃあ土ごと入れるか」

「うんっ」


 スーモが嬉しそうに返事をした。


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