11やさしくしないで・・
「飯食うか~」
リアムの声が妙に懐かしく、心癒される声に聞こえる・・。よほど私は疲れているらしい・・。
「もちろん!食べま~す!!」
占い師のイメージからは、きっと程遠い大声で、私は即時に答えた。
占い部屋のろうそくは、長持ちするものを使ってあるのだと思うが、それでも朝から8時間たって、ほぼほぼもう限界に近づいていいた。おばあさんすごい!私にきっちり8時間労働を課すつもりのようだ。ろうそくが私の労働時間の終わりを告げている・・。私は、一本一本丁寧にろうそくの火の後始末をし、部屋の隅に置いてあった箒で床を掃いた。ほんとに仕事が終わったんだな~と思うと、じんわり嬉しさがこみあげてきた。布で水晶玉を磨きながらニヤニヤ・・、ローブを脱いで、畳みながらニヤニヤ・・・。
「終わったぁ~」
むふふ・・一文無しだったけど、今はポケットになんと1000ルピー札が3枚!!初日の売り上げとしては、最強じゃない?初期投資なし、体一つで即お金になるなんて・・占いってすごくない?そう思うと顔が勝手に、ニヤける。
「リサ、ちょっとニヤニヤしすぎだよ・・」
シャノンが私をたしなめるように言った。
「ごめん・・緊張してたのが弛緩しちゃって・・つい、表情筋もゆるんじゃって・・・。ムフフ・・」
私は頬をパンパンと2回たたいて、気合を入れてから言った。
「シャノン、今日はお疲れさまでした。本当にありがとう」
「まあ、それくらいの顔なら、許容範囲だわね。でも、確かに、ほんとに疲れたねぇ・・」
シャノンが疲れたというくらいだから、よほどのことだろう。
「ふぅ・・私は休憩モードにはいるから・・・リサ、じゃなかった、プリンセスかぐや、おやすみ~ぃ」
シャノンは笑いながらそう言うと、そそくさと姿を消した。
私は塵取りで集めた埃やごみを始末した後、その足で玄関まで行った。日が傾いて夕餉を告げていた。早足に家路につく人がちらほらと見えた。初めて見る街の風景は夕日に照らされて、とても綺麗だった。
「お~い!!リサ!早く来て手伝え!」
リアムがちょっと怒っているように言った。
「は~い!ただいま、参りま~す!」
私は叫びながら、ダイニングキッチンのドアを開けた。夕餉のとてもいい香りがした。思わず鼻をクンクンさせてしまう。
「おまえ、ぼーっとしてないで、早く手伝え!!」
リアムは容赦なしに言うが、顔は怒っているようではなかった。今日は玉ねぎやニンジン、香味野菜と肉を煮込んだスープのようだ。私のお腹は待ったなしに鳴り始めた。
「おまえ、しっかり働いたんだろうな。腹の方は随分やかましいようだな・・」
「はい・・精いっぱい働きましたぁ。なんと今日の稼ぎは3000ルピーで~す!!」
「うひょ~!!お前みたいな初心者がよくもまあ、稼いだもんだなぁ。まあ、ばあちゃんは評判の占い師だからなぁ。みんなばあちゃんの看板にだまされたんだな。それって詐欺みたいなもんだな・・」
「いやいやいやいや・・私はちゃんと、おばあちゃんは留守でいないから、日を改めてきてくださいって、ちゃんといったよぉ。ちゃんと、断わったんだから。詐欺っていうのは失礼です。訂正してください!!」
「そうか・・それは言葉が過ぎて悪うございました。詐欺は訂正します。これでいいか?」
「うう・・全然悪いなんて思ってないよね、リアム・・。でも、リアムの言うのも、もっともで・・そうだよね~。私もそう思うんだよね~。占いなんて全くのド素人なんだから・・。ただ、信じられないかもしれないけど、一応、みんな嬉しそうに、お金を払って帰っていったよ。ほんとだよ」
「そうか~ぁ。なら、お前もいい仕事をしたってことじゃない?」
「え?それって褒めてくれてる?」
「まあ、そういうことかもな・・とにかく、晩飯を食おう!!さあ、運べ!こぼすなよ!」
リアムは乱暴に言いながら、ものすごく丁寧に、スープの入ったカップをトレーに載せて、私に手渡した。やっぱり、この人はお料理を愛してるんだな・・と思った。お料理を愛している人の作ったお料理は絶対に最高の味だ!間違いない!私も思わず背筋をピンと伸ばし、トレイを慎重に運び、テーブルに並べた。
「あれ?今晩、おばあちゃんは帰らないの?」
「そうだな・・ばあちゃんが出かけた時の様子だと、帰るのは早くて明日、遅ければ明々後日くらいになるんじゃないかな」
「ぎょえ~!!そんなぁ・・私、明日も明後日も明々後日も一人で占いするんですかぁ?はぁ・・」
思わずため息が漏れる・・。
「まあまあ・・今日一日何とかなったんだろ?なら、何とかなる!働かざる者食うべからずだ!それが我が家の決まりだ!!そうそう、じゃあ、先に売上金を預からせてもらうから、出して・・」
「分かりましたぁ。3人分で3000ルピーです」
そう言ってポケットから3枚のお札を出し、リアムに手渡した。すると意外なことにリアムは、
「よくやったな」
そう言って頭を優しくポンポンとしたのだった。
そんな風に優しくされると、殿下のアルベルトのことが思い出されてしまう・・。
リアム・・そんなに優しくしないで・・。
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