8なんでもありで・・

「はい、占い屋さんですが・・一応・・」


そう応えると、その若い女性は、大きな瞳を精一杯見開いて、私を上から下まで何度も見てから、戸惑うように言った。

「ここの占い屋さん、評判がいいと聞きました。あの、おばあさんが占っていると聞いたんですけれど・・・」

ちょ、ちょ、ちょっと、そこまで観察しなくても、私がおばあさんじゃないって分かるでしょ・・と言いたくなったが、一応お客様なので、丁重に説明をすることにした。


「はい・・残念ながら、今日はおばあちゃんは留守にしております。なので、私が占いをすることになります。おばあちゃんの占いをご希望の場合は、日を改めてご来店されますことをオススメします。もし、万が一ですが、私の占いを希望されたとしても、占い料1000ルピーを割引することはできませんので、あしからず」


「そうなんですか・・」


ちょっとがっかりした様子の彼女は、しばらくは、どうしようかとやはり迷っているようだった。内心、日を改めておばあちゃんに占ってもらいたいと思っていたので、もうひと押しし、努めて明るく言った。


「お断りされても、全然大丈夫ですよ〜。お気遣いなく〜」


ところが、しばらく黙ったまま考えていた彼女は、私の方を見て言った。


「占い・・お願いできます?」


「え?私にですか・・」


「はい、もちろんです。あなたに会ったら、何だか占ってほしい気持ちになりました・・不思議なんですが・・」


「はぁ・・そんなもんですかねぇ。でも、おばあちゃんじゃないですよ。本当に私でいいんですね」


「はい、あなたに占ってほしいです・・」


はぁ・・。どうなってるんだか。さっきの男の人といいこの女性といい・・私がいいなんてどうかしてないですか・・・と思いながら、私はカーテンを開けて彼女を占い部屋に案内した。部屋を見回し、大きな水晶玉に目を奪われたように見つめていた彼女に、私は言った。


「どうぞ、お座り下さい」

彼女は水晶玉を見ながら言った。

「私の運勢を見てほしいんです」

「運勢ですかぁ・・?」

我ながら間の抜けた声が出てしまった・・この口をふさぎたくなる。

「で、どのような運勢を見てほしいとお考えですか?」

気を取り直し、私は聞き返した。


「はい・・結婚運とか」

「どなたか結婚したいとお考えの相手がいるのですか?」

「いえ・・具体的にはまだ・・」

「お好きな相手はいらっしゃるのですか?」

「分からないです・・」

彼女は占ってほしいと言った割には、曖昧な言葉しか口にしなかった。言葉も少ないし・・表情も何だか苦痛にゆがんでいるような・・・そして、どうしたんだろう・・何だか様子がおかしい。脂汗までかいている・・・

「あの・・どこか身体の具合が悪いのでは?」

「う・・あの・・トイレは・・・・」

「そちらの方に・・」

と私が言った瞬間にお腹を押さえながら走っていった。お腹痛かったのね・・。そうだ、私正霧丸糖衣持ってたわ。もしかして食あたりとか、ストレス性下痢とかなら効くんじゃない?ナイスアイデア!!私はコップいっぱいの水を用意して、ブレザーのポケットから私の常備薬の正霧丸糖衣の瓶を取り出した。瓶の中で白い錠剤が所狭しと詰まっている。瓶の蓋を開けて一粒手のひらに取り出した。

「にゃ〜ん」

不意にシャノンの声がした。

テーブルの上に座っているシャノンは、興味津々の顔で私の手の中にある正霧丸糖衣を見ていた。

「これって、腹痛とか下痢止めのお薬。私の世界では普通の常備薬だよ」

「ふぅ〜ん、それを飲むと、お腹が痛いのが治るわけね」

「そうそう・・ほら、薬草なんかを粉にしたりして、ぎゅって固めて飲みやすくしてる感じね」

シャノンと話をしていると、彼女が帰ってきて、すまなそうに言った。

「お腹の調子が悪くて・・すみません・・ちょっと、牛乳がダメだったみたいで・・」

「いえいえ、私もすぐお腹をこわすタイプなんで、分かります」

「はい・・気を付けなくては・・」

「もしよかったら、これを飲みませんか?お腹が痛いのとか、下痢とか治りますよ」

私の手のひらにのった白い粒を見つめていた彼女は、私の方を見て、覚悟を決めたように言った。

「では頂きます」

シャノンでも見たことないものを飲まされるとしたら、やっぱり、ヤバいと思っても仕方ないよねと納得し、薬とコップの水を手渡した。

ゴクリと薬を飲み込み、彼女は私の方を見た。薬が透視できるのか?と思うほど自分のお腹を見つめていた彼女だったが、そのうち、

「治りました、お腹が痛いのが治りました!」

そう言うと、スッキリした顔で

「あなたはやっぱり天才ですね。最初に会った時になにかあるって思ったんですよね。ありがとう。1000ルピーでしたね」

そう言うと、お金をテーブルの上に置いて、笑顔いっぱいに出て言ったのだった。

「ま、ま、まいどあり〜」


「シャノン〜!占い全くしてないんだけど・・彼女帰っちゃた・・お金置いて・・」

「まあ、いいんじゃないの?お客様大喜びで帰っていったし、これで2000ルピー稼いだんだし・・でも、そのお薬はこの世界であんまり出さないほうがいいかもね・・」

シャノンはそう言って、ごろりと私の膝の上で横になった。




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